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北にある片田舎の領地での、ともすれば軟禁生活とも呼べるだろうそれがはじまって3ヶ月たった頃とつぜん嵐はやってきた。
ルーファス公爵家の所有する古びた領主邸を管理してくれているかつての本邸の執事夫婦と料理人ひとり、メイドひとり、従僕ひとりの閑静な邸は現公爵家の訳あり令嬢の私を(はじめは相当扱いづらそうであったが)やさしく迎え入れてくれた。
辞めておけばいいのに、私を1人にすると今度は何をやらかすか分からない、と父公爵との勉強の合間を縫って王都にあるタウンハウスとこの邸をしきりにいったりきたりする忙しないリヒテン以外はとても静かなはずのこの邸。
そんな邸のなんだかざわざわと騒がしい朝。
メイドのすこしどじなマリーがまた皿でも割ってしまったのかと思い玄関ホールに降りるとそこにいる彼女たちにわたしは思わず驚愕の声を上げた。
「まあ、アルテンリッヒ・ネイサン・ルーファスさま、ごきげんよう。少し見ないうちに大きくなって」
「お久しぶりですね、フローレンス嬢。
メイトローブ侯爵家のご令嬢ともあろうあなた様が先触れもなく公爵家の邸に押し入るとは、いったいどういうご了見ですか」
「公爵家のお邸?あらあら、まあ、なんて慎ましい。こちらは倉庫かと思いましてよ。」
どうやら階段の影に隠れるわたしに彼女らは気づいていないらしく、あわあわと右往左往する使用人を押しのけて3人はアルテンリッヒの前に進み出た。
「まあ!あなたがアルテンリッヒさま?お噂はかねがね!
お初にお目にかかります、アイシャ・ペティグリーですわ。
最近学園をお休みしがちだとたくさんのご令嬢がたが嘆いていますのよ。」
「お会いできて光栄です。アイシャ・ペティグリー嬢。
僕はアルテンリッヒ・ネイサン・ルーファスと申します。
学園から足が遠ざかっているのは、ルーファス家の事情でいろいろと…そうですね、主に姉のことで忙しかったのです。
ああ、そういえば御三方は姉とご学友でしたか。
…失礼、元、御学友ですね」
わたしに背を向けているリヒテンの表情は分からないけれどアイシャの顔がひくっと僅かに引きつったところで、まずい、と思いわたしはホールに飛び出した。
想像ではあるが恐らくリヒテンはすごく嫌な陰険な笑を浮かべているのだろう。
いつからあんな顔をするようになってしまったのか。
ああ、あんなに、天使のように可愛かったのに…
「リヒテン。どうかしたの?」