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たくさんのご感想ありがとうございます。
様々なご意見とても嬉しく、たのしみに拝見させていただいています。
わたしのなかでこのお話の結末や展開は決まっておりますので、色々考察いただきながらご覧いただけますと幸いです。
これからもよろしくお願い致します!
しばらくしてトレイシーが謝りに来た。
後ろからてくてく歩いてきたマリーにはじろりと睨まれて、わたしは必死でマリーに謝った。
「いい歳をしてあんなみっともない姿をお見せしてしまい、誠に申し訳ございません。」
「やめて、トレイシー!謝ることないわ」
深ぶかと頭を下げるトレイシーに慌てて頭をあげさせる。
トレイシーは確かに暴走したが、その原因はわたしのことを思ってくれてのことである。
近頃、ここでのんびりと領主としてのあれこれを学んだり生活のあれこれを学びながら気付いたことがある。
それはフローラにもアイシャにもエレナにもお父様にもリヒテンにも、そしてトレイシーにも言えることであるが、すべてはわたしがはっきりしないことが原因では無いのかと。
わたしがはっきりしないせいでフローラ達はわたしの代わりに行動を起こしてくれたのだし、わたしがはっきりしないから、代わりにみんなが怒ってくれているのだ。
感謝すればこそ、謝罪を受ける権利などひとつもない。
こんな感じのことをトレイシーに伝えると彼女は僅かに驚いたような顔をしてそれから、その通りです!お嬢様ははっきりしなさすぎですわ!といつもの調子で言い放った。
「それよりも、アルトステラお嬢様!王子様のこと、教えてくださいよう」
もうー、しょうがないですねえーとかいってわたしを見下ろしながら許してくれたマリーはけろっと機嫌が戻った様子で笑みを浮かべる。
直後、失礼と小声で言ったトレイシーにお尻を叩かれて悲鳴をあげた。
「そういえば、何も話していなかったわね。
けれど、割と事情を知っていたことに驚いたわ」
「それは、いくら王都の情報が届かないといっても、大切な公爵家のお嬢様をお預かりするのですから、事前にその程度は領主様に伺っておりますわ」
それから、あとはアルテンリッヒお坊ちゃまですね。
エル様の事を思い出したのか眉を僅かに寄せたトレイシーにびくっとしたけれど、彼女はとくに気にした様子は無かったのでほっと息を吐く。
「お嬢様は王子様と婚約してたんですよね、王子様のことお好きなんですか?」
あんなにカッコいいんですもの〜といって頬に手を当てるマリーはまたお尻を叩かれた。
「いいの、いいの。全くもって気にしていないわ」
苦笑しながらトレイシーを諌めたわたしにしぶしぶ彼女は引き下がってくれたようだった。
「そうね、エル様のことをどう思っているかといえば正直、好きでも嫌いでもないわ」
「えーー!どうしてですか!」
懲りないマリーがなぜか避難の声をあげて、あんなにかっこいいのに!と言ったせいでトレイシーのまゆはまたぴくりと動いた。
ひやひやするから、地雷をふむのはやめて、マリー。
「どうしてって……出会った頃はエルレイン殿下なんだなとしか思わなかったし、認識は王子様で幼馴染くらいだったかしら。
婚約者に決まってからはとにかく王妃になるかもしれない未来が嫌で嫌でたまらなかったわ。
だって、わたしはただたまたま、生まれ持った身分が高いからって選ばれただけのことなのだし、もっと相応しい方がいるのにと毎日考えて毎日たくさんの方に言われたわ。
でも、だからといってわたしは公爵令嬢だし、婚約者という事実は変わらないし、逃げるわけには行かないわよね」
わたしの周りにはそれはそれは優秀な方が本当にたくさんおられたから。
はじめのころ、人を僻んで羨んで自己嫌悪に陥る夜も数え切れないほどあったし、嫌がらせを受けて落ち込む日もあった。
けれど、わたしは公爵家を背負っていたし貴族としての責任も当然あるのだから落ち込んでいる暇なんてないわけで。
覚えなければいけないこともできるようにならないといけないことも絶えなくある。
その中で常に誰かの目があって常に公爵家を、王家を、国をわたしを通して審査されているのだ。
決して隙を見せるわけには行かないし、誰にも気を抜くわけにはいかなかった。
わたしはもちろん完璧ではないし、なんでもそつなくこなせる人間でもなかったから人に尊敬されるレベルでものごとを行うには人一倍の努力が必要で。
「そんな中でエルレイン殿下自身のことを見る余裕なんてわたしにはなかったし、正直興味がなかったわ」
そして、いつしかわたしは考えることをやめた。




