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短いですがキリが良いので…
翌日、事件は起こった。
これは正しく事件といっていいだろう。
その日わたしはこの閑静な邸に似つかわしくない喧騒で目が覚めた。
またマリーがお皿でも割ってしまったのかとナイトドレスから簡素なドレスワンピースへと着替えて下の階へと向かった。
こんなことが以前にもあった気がするが、いったいなんだっただろう。
近頃のわたしは身の回りの事や家事で出来ないことが少ないほどで、これならいつ平民の男性の元に嫁いでも大丈夫でしょうとジト目のトレイシーに言われるほどだ。完全に嫌味であるが、「あら!名案ですわ」と答えたら目を回された。
その後公爵家のご令嬢ともあろう方がなんということを!と嘆かれたけれど本当にそう思ったのだもの。
そもそも、貴族としての結婚なんてとおの昔に諦めている。
「急な来訪で大変失礼するが、アルトステラ嬢と話がしたい」
「しかしながら殿下、領主様の許可もなく勝手なことをするわけには参りません。
どうかお引取りを」
「そういうのであれば、今こうして俺の相手をするべきはアルトステラ嬢ではないのか。」
「不肖ながらわたくしめが領主様より代わりを仰せつかっておりますゆえ」
「で、あれば、そなたが判断すべきであるな。俺を通すか、追い払うのか」
今回は低い男性の声とクロードが何やら言い合っているようだ。
聞き覚えがあるようなないようなその声はリヒテンよりも幾分か険がある。
ああ、そうだった。フローラ達が来た時似たようなことがあったのだ。
しかしこの度はいくらかレベルが違うらしい。
階段の途中に放心するわたしに彼の人は、記憶のうちよりも大人びた顔つきで。
何百年ぶりかと錯覚するほどに久しぶりの笑みをわたしに向けた。
「やあ、アルトステラ嬢。久しいな。
突然の訪問になり申し訳ない」
なぜならその来訪者というのがエルレイン殿下その人であったからである。




