婚約破棄と罰。
こんにちは!
ずっと描いてみたかった婚約破棄ものを書いてみようと思います。
よろしくお願いします!
「アルトステラ・リンジー・ルーファス」
形の良い唇がゆっくりと動く。
まるでスローモーションのように、ゆったりとそして淡々とそれは告げられた。
そう感じたけれど、もしかしたらそれはわたしだけなのかもしれない。
「君には失望させられた。婚約は破棄させていただく」
わたしの名を呼んでそう告げた彼はネイトフィール王国第2王子エルレイン・ヴァルドルフ・フォン・ネイトフィール。
つい先程までわたしの婚約者だった人だ。
端正な顔を冷たく凍らせてアメジストの瞳がじっとりとわたしを射抜く。
彼の人にぴったりと寄り添う華奢なご令嬢はアンナ・ロデライ男爵令嬢。
わたしの婚約者の…いいえ元婚約者の恋人である。
彼女が一瞬、見下すような歪んだ笑みを見せたことに気付かぬ振りをしてわたしは俯いた。
「殿下、理由を、お聞きしても?」
「理由など、君が1番わかっている事だろう。
ここにいるアンナ嬢への卑劣な嫌がらせの数々、すべて君が指示したものだとこちらのご令嬢達が白状した」
青い顔で固まる3人のご令嬢、たしかにわたしの1番仲のいい彼女らは殿下の左後ろでひとかたまりになりわたしからさっと目をそらす。
その中の1人が顔を逸らしてにやっと笑ったことをしっかりと確認した。
彼女らがなにかをこそこそ企んでいることは知っていたけれど、よもやこんなだいそれたことを…
感極まり真っ白になりそうな頭をどうにか覚醒させて悪意と好奇心の入り混じる会場を見渡した。
だれもが微動だにせず私の、そして殿下の次の言葉を待っている。
正直なところ、アンナ嬢と会話をしたことは数回、しかも挨拶程度しかないし、そもそもなぜわたしが彼女にそんなことをしなければいけないのか分からないけれど、そんなこと殿下やアンナ嬢にとってはどうだっていいのだろう。
真実であろうがそうでなかろうが、そんなことはここにいるだれも最早気にしていない。
「分かりました。殿下。
わたくしはどんな罰でも受けましょう。
しかし我がルーファス公爵家には一切関わりのないこと。
どうか叶うのならば寛大な処罰をお願いいたします。」
「ああ、ルーファス公爵には世話になっている。覚えておこう。」
「感謝致します。
では今までどうもありがとうございました。
どうかお幸せに」
にっこりと笑みを浮かべて、おそらく公爵家の娘として最後になるだろう公の礼をしたあとわたしは舞踏会会場を去ったのだった。
わたしの挨拶が皮肉にでも聞こえたのか、殿下の眼光はとんでもない恐ろしさになっていたけれど、もうそれも関係のないことだ。