楽天的な女
あー、あっつ。今日の最高気温何度だっけ。まぁいいや。あっつ。
そんなことばかり考えている昼さがり。
すっかり花は散って、葉っぱが青い。そんな中、電動でもなく原付でもなく、自転車を走らせる。汗はTシャツの色が強調されてしまうほど。ウチ帰ったらこの服洗濯しないとな。
自転車屋で購入した、日本一大きい(らしい)カゴは空っぽ。今は。
あまり強度が高そうでない、成長しすぎたツタの張り付いたアパートの二階。ここが私の目的地。
…今日は喋ってくれるかなぁ。
そんな淡い期待を抱いて、インターホンを鳴らす。
一度じゃ絶対に反応しない。それは分かっていた。10回くらい間隔を変にあけたり狭めたりして鳴らした。
やっとドアからガチャ、と音が聞こえる。よし、きた。
ちょっと開いたところで手を間に入れ込み、こじ開ける。間髪入れずに話し始める!
「お疲れ様です〜進捗どうです?まったくいつも1箱あるかないかなんですからぁ〜…」
「……」
「……。…あっ、この前の分です!いつも仕事が丁寧だからって工場長が単価上げてくれてるみたいですよ〜、羨ましい…今回の完成品いただきます!」
「……」
「…ありがとうございます、しっかり二箱いただきました!これからもよろしくお願いしますね〜!」
やっと話が終わったかと言わんばかりにドアがゆっくりと閉まる。
私の仕事はこの人と工場との間の仲介のようなもの。けど、なぜか私はこの人の担当だけ。愛想悪いし、今まで何人もこの人の担当をしていたけれど、担当していた人はみんな辞めていったからだと聞いている。
私はむしろ何も話してくれない方がありがたい。一方的に自分の話ができるから。
けれど、あの人の声を一度でいいから聞いてみたい。何故かはわからないけど、聞いてみたい。
ま、そんなの無理か。
こんなに声が聞きたいのは、私とあの人を比較したいのか。それとも純粋にあの人の声を聞きたいのか。わからないけど、前者のような気がする。
さ、今日はウチ帰ってから洗濯して、『副業』しなきゃな。
ビショビショのシャツに汗をさらに染み込ませて、自転車を走らせた。
閲覧ありがとうございました。ひだまりなすずです。
芸能界では昼夜問わず「おはようございます」と言うらしいですね。なんだか不思議な感覚です。
さて、主人公ではないキャラクターが1人浮上してきました。差をつけるのは難しいですね、少し楽天的な思考をしているのを表現するために、比喩表現を減らしました。難しいです。
これからもよろしくお願いいたします。