A new world and a new day-to-day
耳をすませ
楽の音を聞け
体に流れるこの世のモノではない血が
騒ぐのを待て
森の向こう
湖の底
天空の上
暗闇の中
お前がいるべき場所は
ここではない。
第1話 Lathyrus odoratus
放課後。
私の心とは裏腹に、空は快晴。
……来るんじゃなかった。
今日は始業式。
同時に、本入部が始まる日である。
周りは、部員集めに駆けずり回る先輩と、入部届けを出す同級生とで、溢れかえっていた。
そして、それを見つめるのは…
「……っ!!!」
まただ。
アチラ側のモノ達が見ている。
(逃げなきゃ…!)
って思ったときには、もう遅かった。
来る。
来る。
迫って来る。
来ないで。
来ないで。
「…はァっ!」
元から逃げてばかりだったから、むしろ慣れた。
角を曲がる。
階段を駆け上がる。
特別棟へ行く、渡り廊下を走る。
それでもアレはやって来る。
得体の知れないアレはやって来る。
(……無理かもしれない…!)
体力の限界が目の前な差し掛かってきたときに、ふいに腕を引かれた。
「…こっち。」
突然、開けられた扉の向こうから伸びた手が、私を部屋に引き入れた。
「……ちょっと下がってて。」
その手は、無愛想な男子に繋がっていた。
「…あ、はっい…」
息を切らしながら、どうにか答えた。
ふと横を誰かが通った。
慌てて、視線を動かした先には、黒衣を纏った少女がいた。
「瑠璃の花よ
喜びと悲しみの蕾よ
我が感情のままに従いて
その花を咲かせ
我が僕として
舞い上がれ」
(なに、これ…)
その少女の周りには、瑠璃色に光る花が舞い、持っている黒の杖をひと振りすると、私を追ってきていたアレに向かって飛んで行った。
「去れ、ここはお前のいるべき場所ではない。」
そう言った瞬間に、アレは花となり散っていった。
「…さて、突然ごめんなさいね。」
ふんわり笑みを浮かべる少女。
「あんなモノに追われてる子を見てたら、放っておけないからね。」
「僕もすまなかった。急に引っ張ってしまったようだ。」
無愛想な少年も、私に話しかける。
(どう答えたらいいんだろ???!)
「えっと、あの…助けていただきありがとうございました。迷惑をかけてしまい、本当にすみません。…それでは失礼致します…」
適当に礼を言って、後ろにあったドアノブを回して帰ろうとした。
けれどもそこは、私の知っている学校ではなかった。
「……?!」
「何度も驚かしてごめんなさいね。ここは、日本から、だいぶ離れた国。具体的な名前は…言ってもわからないだろうけど…」
ふふっ、少女は笑った。
「色々、唐突すぎて困っているだろ。」
そう言う少年。
(…帰りたい。)
ふと頭をよぎったのは、ごく普通の考え。
(でも、帰っても無駄じゃないの?)
自分に問いかけるのは、自分の心。
(なら、逃げ出してしまえばいいのに。)
囁くのは誘惑の言葉。
(あそこにいたって、君は死にたくなるだけでしょ?)
聞こえるのは真実。
そうだ。そうなんだよね。
見えてしまう体質の私が、見えない人達の中で混じることは出来ない。
「ねえ。」
しばらくの沈黙を破って少女は言う。
「もしも、あなたがあの世界に心残りがないのなら。」
心残りなんてない。あるはずない。
「ここで新しい生活を始めてみない?」
ふわりと舞う黒衣。見えるのは白い肌と、銀髪。
「…帰り…」
漏れた思い。
「…たく…ないからっ」
だから、だから、
「ここで…暮らしてもいいですか…?」
下げていた頭を、ゆっくりと上げて前を見る。
「えぇ、もちろん!」
目の前で黒衣が揺れる。
揺れて揺れて、焦点が定まらなくなる。
「ようこそ、魔法の国へ。」
「ようこそ、魔法使いの家へ。」
目の前が一瞬、晴れた気がした。
手を伸ばされる。
その手をとっていいのか、戸惑う。
それでも、その手は私の手をとる。
「ここでは、あなたを退ける者も、嫌う者もいない。」
「君が真実を貫き通せば、君は変われる。」
「真実を…貫く…」
「そう。それがこの世界のルール。決して、歪めてはならない決まり。」
「さぁ、おいで。」
その手をとった時、私は救われた。
瑠璃色の魔法を扱う、魔法使いと
植物の魔法を扱う、魔法使いに
救われたんだ。
「君の新しい生活に祝福を」
そう唱えた、少女の手には一輪の花が握られていた。
「Lathyrus odoratus 君の新しい門出に祝いを。」
第2話 Gerbera
「まず、色々説明してもらってもいいですか?」
おそるおそる訪ねてみる。
「そうだね。
私の名前はトレーネ。トレーネ・リライト。まぁ、君もさっき見たように、魔法使いだよ。主に、花の魔法なんだけどね。あと、私はこの家の主人だよ。パッと見、君と同じ年齢に見えるけど、実際は結構上だからね、私。」
最後になるにつれて、笑いだすトレーネ。
身長は私と同じくらいで、銀髪に蒼い目をしている。さっき来ていた黒衣のマントを脱いで、今は黒のブラウスに黒のスカートという地味な姿をしている。
「僕の名前はサク。トレーネのように、この国の者ではないから、外の世界についてはあまり詳しくないよ。あと、僕は植物の魔法を使う。といっても役にたった試しがないから何も言えないけどね。」
サクは実験をしていた最中のようで、白衣を来ていた。私よりもかなり高い身長。金髪に緑の目、メガネをかけていて今どきどこにでもいそうな青年だった。
「えっと…私は佐伯 夏夜(Saeki Kaya)です。…16歳、特技は…特になくて…趣味…特になくて…親は10年前に他界していて、親戚の家を8…9軒くらい移動しながら過ごしてました…変なモノは昔から見えてて…そのせいでずっと1人…でした…」
特に言うことがなかった。
無さすぎると言ってもいいかもしれない。
「そうだったんだね…うん。ありがとう、少しは君のことを知れたかな。」
ちょっと苦笑いしながらトレーネが言う。
「カヤ…か。まぁ、名前の意味くらいは知ってるよな。…あぁ、あいつに頼まれたものを作らないと。すまない、カヤ。少し手伝ってくれるかな?」
慌てて立ち上がったサクについていく。
「わ、わかりました…力には…多分なれないと思いますけど」
「誰にでも出来る簡単な仕事だから大丈夫。」
そう言いながら、私たちはドアの外へ出た。
「…もういいよ、ウーア。」
台所に向かって声をかけると、出てきたのは小さな人型の妖精。
彼女はブラウニー。悪戯好きだが、身の回りの世話をしてくれる心優しい妖精。ウーアと名付けたのは私、ドイツ語で時計を意味する。理由は、あの子が持っていた特徴的なものが時計だったから…なんて、死んでも言えないかな。
(新しいヒト?トレーネが連れて帰ったノ?)
心の中で話しかけられる。これが私たちの唯一の会話の手段。
(あぁ、そうだよ。今どき見える子があんな所にいては勿体無いからね。)
(名前はなんて言うノ?)
(カヤ…ヘブライ語で生きているって意味だね。まあ、関係ないけれど。)
ふと、台所にいるウーアを見る。
少し考えるようなポーズをしてから、こちらを見て微笑む。
(ワタシにとってご主人様は大事なヒト。だから、ご主人様の連れて帰ったヒトも大事なヒト。)
彼女なりの結論を出したみたい。
ふっと笑うと、昼食の準備に取り掛かるらしい。
(あの子には才能がある。)
それをあの子は知らない。
少し、過度な期待をしてもいいのかもしれない。
窓の向こうには、必死に薪割りをしているカヤとサクの姿があった。
(ちょっと手伝ってもらおうかな。)
「瑠璃の花よ
我が想いに従いて
友に文を届けよ」
内容を書いた紙を、魔法によって出てきた鳥に託し、空へ放った。
おもむろにドアを開けて、2人のもとへ向かう。
四季折々の花と、たくさんの薬草の中を歩いていく。
「!トレーネ、どうしたんですか?」
少し驚いた様子でカヤが私を見つめる。
「いや、少し思いついたことがあってね。」
何?と言いたげに首を傾げる。
「魔法使いになる気はないかい?カヤ。」
見つめていた目が大きく見開かれた。
そう、その目だよ。
ちょっとは、自分の道に希望が見えたような目。
それを見たかった。
「…魔法…使い。」
「…いくらなんでも唐突すぎだよ、トレーネ。」
「いや、そんなことはないよ。」
私は少しポケットを探り、ビー玉サイズの小さな玉を出した。
「これを手にとって、自分の想像する世界を作ってみてごらん。」
想像する世界?
首を傾げるカヤ。
「怖がることはないよ。大丈夫、君なら出来るはずだから。」
そう言って、青い玉を握らせる。
「世界…私の世界…」
リンーーーー
鈴の音がした。
カヤの周りには、大量の本が出来ていく。
積み重なり、山となり、また出来ていく。
「……カヤ…カヤっ!!」
慌てた様子でサクが止める。
「え………え?!」
驚きを隠せない2人。
「ほら言っただろ?」
軽く指を鳴らす。
パチっ!
1度風が吹けば、それは私の世界。
辺り一面をガーベラ1色に染め上げた。
「知ってるかい?ガーベラの花言葉。」
カヤは驚きつつも、首を横に振る。
「ガーベラの花言葉は期待。私は君に期待しているんだよ。才能がある君に。」
「才能…?私に?」
「ああ、そうだよ。今だって出来たじゃない、大量の本を出せた。あれは君の世界、君の想い、感情だよ。」
「感情…」
「人は私のことを感情の魔法使いというね。感情なんて誰にだってあるのにさ、それに感情なんて100年くらい前に置いてきたはずなんだけどね。」
少し笑ってみせる。
「なれますか、魔法使いに。」
「なれるんじゃないよ、なるんだよ。」
目をしっかりと合わせる。
それに彼女は答えてくれた。
「私、なります。魔法使いに。」
決意を固めたように唇を噛み締めた後、ちょっとだけ笑う。
ほら、私は間違ってなかったでしょ?
この子は、コチラ側の子。
このまま何の変哲もなく生きていくには、勿体無いからね。
何の楽しみもなく生きてきた彼女に、私が与えられるのは、今のこの世界だけ。
なら、その世界を出来るだけ、色鮮やかなものにしてあげたい。
昔のようには、もうさせない。
はじめまして!
作者の灯璃です!
この度は、「瑠璃色の魔法」を呼んでくださり、ありがとうございます!!!
実は、初めての投稿なんです…≧(´▽`)≦アハハハ
全然、ストーリー構成が出来ておらずお見苦しいとは思います…本当にすみません泣
ちなみに、登場人物の名前には、全員、ちゃんとした意味をこめてます笑笑
ヘブライ語とかドイツ語とか…アイヌ語も調べましたね笑笑
調べてみると、案外、色々なことを知ることが出来て面白いので、ぜひ皆さんも調べて見てください!
ちなみに作者は中学生なんで、語彙力は少ないです=文章能力も低かったり……
今後とも、よろしくお願いします!!m(_ _)m