恋の障害?
リムジンって存在することは知っていたけどまさか自分が乗ることになるなんてほんの少ししか考えたことがなかった。
「雨夜潤平君だよね?」
綺麗な感じがするが少しきつめの目をしている大学生ぐらいにお姉さんに声をかけられた。俺は「そうです」と答えると有無を言わずに車に乗せられた。
「えーと、誘拐じゃないですよね?うちはそれほど裕福でもないし俺にそれほど価値があるとは思えないんですが」
と失礼な事を言ってみるが、
「安心して、うちはそれほどお金に困っていないから」
と軽く返される。
「ところでどちら様ですか?」
疑問に思ったことを聞いてみる。
「後で説明するから少し待っててね」
「なら、何処に向かってるんですか?」
「すぐ着くから」
ん〜、なにも答えてくれない・・・・。
お父さん、お母さん、優子。俺が死んでもたまに思い出してください。
と、心の中で少しだけ覚悟してみる。
「着いたよ」
高そうなマンションの入り口に車は停まった。
家賃が高いだろうなと考えてるときつい目をしたお姉さんについておいでって言われたので余計なことを考えずに入り口に入った。
『ピッピッピッピッ』
電卓のようなモノが入り口についていて番号を打ち込んでる。
こんなハイテクなマンションなんて初めて見た。
エレベーターに乗り10階で降りる。
手慣れた手つきで部屋の鍵を開けた。表札を見ると『芦屋美緒』と書かれていた。
「呼び出しておいて、ずいぶん遅かったじゃないか?」
部屋にはいると優しそうなおじさんが座っている。
きっと、この人が星子さんとお父さんできつい目をしたお姉さんが星子さんのお姉さんだと思った。
「雨夜潤平君、君には悪いんだけどうちの妹と別れてくれないかな?」
星子さんのお姉さん、美緒さんがそう切り出した。
俺はなんとなく予想は付いていたが、娘に恋人が居ることを知らないお父さんのほうはギョッとした顔をしていた。
「妹は将来、うちを継いでもらわないといけないの。そうなると、星子を助け支えてくれる人が旦那になって貰わないと困るのよ」
「美緒、潤平君に失礼だろ」
娘をなだめる父親。
どうやら、お姉さんの独断らしい。
「それにあなたと星子だと釣り合わないわ」
美緒さんが言った。俺もそう思う、だけど彼女は笑いながら言った。
『そんなことはないと思いますよ。私はあなたと居るときが一番輝けるのですもの、私が輝いているというなら、それはきっと潤平さんという夜空があるからですね。星は太陽の下では輝けませんから』
だから、俺は美緒さんにそれを告げる。
「潤平君と星子では住む世界も違うし、釣り合わないわ」
俺がそう言ったとき、星子さんは少し悲しそうな顔をした。
でも、はっきりと彼女は言った。
『あなたは私を見てくれないんですか?生まれるところは誰にも選べないのにそれだけの理由で私を拒絶するつもりなんですか?
あなたは雨夜潤平っていう人間であってそれ以上でも以下でもないんですよね?
それなら私だって芦屋星子っていう人間であってそれ以上でも以下でもないんですよ』
だから、俺はその言葉を言ったときに後悔した。
生まれや環境で自分を卑下することは、相手も卑下することになるのだから。
「それなら理由なんていらないわ。別れましょうでいいじゃない」
もちろん、俺はそれを口にしている。
だけど、星子さんは少し拗ねたように
『潤平さんはずるいです。わたしを何も知らないくせにそんなことを言うなんて。
私は潤平さんの隣にいたいから告白したんですよ。私と別れたいなら私を理解してからにしてくださいね、それまでは赦しません。
それに、私の気持ちを知ったら絶対に潤平さんは別れたいとは言いませんから』
それを聞いた美緒さんが怒ってしまった。
「あなた、うちの妹がそんなに気に入らないわけ?」
お姉さん、ちょっと最初の目的が違ってきてますよ。
「いや、別にそう言う訳じゃないんですけど・・・・」
「なら、どういうわけで別れを切り出したのさ?あなたたちはつきあってから少ししか立っていないんでしょ?」
「えーと、僕では釣り合わないと思って」
強く言われると引いてしまう俺。
基本的に俺って弱いんだよね・・・・。
「それならあなたが釣り合うようになればいいじゃない」
「でも、お姉さんは僕たちが別れて欲しいんですよね・・・・・」
「それはそれ。あなたの態度が気に入らないのよ」
うわっ、俺にどうしろというのさ、この人は・・・・。
妹の良いところを並べられ、やっと話が終わりにさしかかった。
正直、疲れたよ・・・・。
「美緒、私は帰って良いか?」
星子さんのお父さんも少しお疲れ気味、絶対に娘さんの教育間違ってますよ。
もちろん、口には出していない。
「潤平くんと言ったかな?うちの娘と仲良くしてやってくれ」
「ちょっと、お父さん」
「美緒、うちに問題に他人を巻き込むな。それに家よりも星子が幸せならそれでいいじゃないか」
居心地が悪いよ・・・・。
親子の話が終わるのを黙って待ってる俺。
早く帰りたいと心の中で何度思ったことか。
「まぁ、いいわ。あなたが星子を振るなんて許さないし、せいぜい愛想尽かされないようにね」
と、美緒さんの捨て台詞を最後に俺は解放された。
ところで、此処は何処さ・・・・・。
最寄りの地下鉄の駅を探してようやく家路につくことが出来た。
遅くなるなら連絡ぐらい寄こしなさいと母に叱られ、俺は力なくうなずいた。