放課後のデート
いつも通りの朝だった。
恋人が出来たからといって太陽が西から昇ることもないし、昼間に星が輝くこともなかった。当たり前だけどね。
だから、いつものように授業を受けつつ後で祐介になんて言おうかと考え答えが出ないまま昼休みになった。
「雨夜くん、ちょっと来て!それから祐介も」
弁当を食べようと思った矢先に隣のクラスから如月亜美さん(祐介の恋人)が入ってきた。うちの学校で一番の美人に呼び出しがかかったからには行かないって選択肢はありえない。
クラスの男子からは祐介の友達をしていて美味しい蜜を吸っている『虎の威を借る狐』的な目で見られているのはもう慣れた。
「何だよ、突然呼び出して」
不満そうな祐介。
校庭に呼び出され、ベンチに座ってそれぞれお弁当をつついている。
「雨夜くんって星子とつきあってるってホントなの?」
うわっ、こっちから言おうと思っていたのに。
すでに情報が流れているとは・・・・。
「まぢか?」
祐介は知らなかったみたい。
「そうみたいだよ」
まるで他人事のように答えてしまう。
だってそうでしょ?昨日の今日だから全然つきあってるっていう感覚がないから。
「そうみたいって、何で俺に言ってくれないのさ。友達なのに薄情な奴だな」
「これから言うと思っていたんだって」
「ところで、亜美はなんで知ってるの?」
「由美から聞いた」
星子さんと由美さんは同じ学校だったのを思い出す。そして由美さんと亜美さんは双子の姉妹だ。
「でも、おまえ星子と会ったことなかっただろ?」
「それが一昨日にうちに来た。それが初対面」
「っは?」
「突然、家に来た。
祐介、おまえ俺の家を教えたりした?」
この中で俺の家を知っているのは祐介だけ、亜美さんは家に来たことはない。
っていうか、あまり親しくもない。友人の恋人だからたまに話す関係だ。
「一昨日家に来て告白していって、昨日返事を聞きに来た」
嘘みたいなホントの事。2人が唖然としている。
「それはすごいな・・・・」
「すごいわね・・・・・」
「祐介、一緒に帰らない?」
学校が終わった俺は祐介を誘う。
星子さんについての話を聞こうと思ってのことだ。
「別にいいぞ。星子の事を聞きたいんだろ?」
頭の良い祐介には俺の考えがお見通しだったみたいだ。
お互い鞄を持ち、玄関へと向かう。
祐介とは学校帰りにどこか店によって何かを食べていこうっていう習慣はなかった。近場の店に行くぐらいなら祐介の家に行った方が早いからだ。
だから、今日も祐介の家に寄るつもりだった。
「なんか、騒がしくないか?」
校門に人が集まってる気がする。
「さぁ、なんだろうな」
俺も祐介も特に興味はなかった。
校門にK高のセーラー服を着た美少女が立ちすくんでいる。誰かを待つように。
そんな美少女に興味を持った男性陣が彼女を囲み話をしようとしているのだ。
だけど、その美少女は俺と目が合うとこっちに駆け寄ってくる。
「潤平さん、一緒に帰りませんか?」
周りの視線が俺に集まる。
どうしてこんな奴にこんな可愛い娘が・・・ってみんなが目で訴えているのが解った。
「芦屋さん・・・」
「星子・・・」
ちょっとやそっとじゃ動じない祐介なのにさすがに彼女の行動には唖然としている。
「星子って呼んでください」
語尾にハートマークをつけて彼女が言った。そして俺の手を握り幸せいっぱいの顔をして横についた。
「何でおまえがここにいるの?」
俺の気持ちを代弁するように祐介が尋ねてくれる。
さすがに俺からは聞きにくい。
「潤平さんに逢いたかったからかな」
こんな美少女にこんな事を言われて嬉しくない奴はいないし、俺だって例外じゃない。
だけど、周りの目が恥ずかしい。
一緒に帰る下校道、彼女が握っていた手をいったん離してから俺の腕に腕を絡ませた。
左腕に彼女の胸が当たり、胸が大きいんだなって考えながら彼女の話を聞いて歩いている。
「よかったら、何処か寄っていきませんか?」
星子さんは喫茶店の前で提案した。
白いドアが落ち着いたイメージを醸し出している。
「うん、いいよ」
鈴の音を響かせ、二人して店に入った。
祐介は校門ですぐに別れた、星子さんが2人になりたいというオーラを祐介に浴びせ続けたからだ。横にいた俺でさえ感じたのだから、祐介には俺以上にそのオーラを受けただろう。
「大きなメロンソーダーをストロー二つでお願いします」
この店に彼女は来たことがあるらしく、マスターが俺たちを見ると「いらっしゃい、その人は彼氏かい?」と言ってきた。
「此処には良く来るの?」
「はい、家から近いので良くみんなで来てます」
そういえば、彼女の家は俺の学校の近くだと言うことを思い出した。
祐介の幼なじみというなら家もこの近くのはずだ。
「みんなって祐介たちと?」
「はい、祐介くんや亜美や由美と一緒に来ることが多いですね」
こうやって話を聞くと、彼女たちがホントに幼なじみで仲が良いんだなって改めて想ってしまう。そう言う幼なじみが居てちょっとだけ羨ましくなったりもした。
「おまたせ」
テーブルの上にアイスの乗った透明な緑色のメロンソーダーが置かれた。
「一緒に飲みましょ。恋人が出来たらこうやって飲みたかったんだ♪」
彼女の希望を叶えるために同時にメロンソーダーを飲む。
マスターがニヤニヤしながらこっちを見てるし、恥ずかしかった。
「美味しいね」
とろけそうな笑顔で星子さんは言う。彼女は恥ずかしくないのだろうか?
「うん、ちょっと照れるけどね」
それから俺たちはいっぱい話した。
少しだけ彼女のことが解った気がする。