〜初恋〜
図書館からの帰り道、佐織の勉強道具が詰まった鞄を持ってあげながら帰宅することになった。
「ジュン君、荷物重くない?」
「佐織ほど重くないよ」
ちょっと意地悪に答えたかもしれない、佐織が頬をふくらませながら俺を叩いてくる。最初はそれほど痛くなかったが、何度も叩かれると痛い。
「やめろって」
手を払いのける。
端から見たらじゃれついてるように見えるのかもしれない。実際にそんな感じだし。
「こうしてると恋人同士にみえるかな」
「そうだろうな」
あっさりと俺は肯定する。
初めて異性として、女の子だと思い接してきたのは間違いなく佐織だ。
微かながらも佐織に恋をしていたのかもしれない。今になっては確かめられないが。
でも、初恋の相手は聞かれると別の人の名前を挙げることになるだろうなと思う。
初恋が終わったのは寒い冬だった。
本好きの先輩、早川咲樹さんに恋人がいるとわかった日に俺は失恋した。
それでも俺は習慣のように図書室に通っていた。
もし、先輩が今の彼氏と別れたら告白しようと思って。
「女の子でも呼んで遊びに行かない?」
そんな俺の気持ちを知らずに祐介は声をかけてくる。
正直、鬱陶しいと思ってこともあった。
今思えば、落ち込んだ俺を慰めようとしていたのかもしれない。あいつは無駄なところで勘が働くからなぁ。
「俺の幼なじみなんだけど、可愛いし良い子だぞ」
祐介には悪かったが、そんな気になれなかった。
今になって冷静に考えれば、咲樹さんが彼氏と別れるのを待つよりも咲樹さんとその彼氏が幸せになってもらう方を願うべきだとわかっている。
でも、そのときの俺は別れるのを待つつもりだったのだ、いや別れることを祈っているぐらいだった。情けないほど、惨めな俺。
「ジュン君、どっかいこう」
そんな俺をいつもと変わらずに接してくれる佐織。
鬱陶しいと思ったこともあったけど、正直、嬉しかったりもした。
「こうしてるとデートみたいだね」
兄妹にしか見えないだろうと思いながらも。「そうだね」と答えている。
星子と出逢う前、失恋から立ち直れたのは間違いなく佐織のおかげだった。
いつも変わらずに接してくれる、寂しいと思ったときにいつも側にいて遊んでくれた佐織と妹。
口には出さないが感謝している。
「あの〜、はじめまして。芦屋星子と言います。
突然で申し訳ないのですがもし良かったら私とつきあってもらえませんか?」
そして、俺は星子と出逢った。
最初は付き合おうとは思ってもいなかったが、今は星子に逢えたことを感謝している。
「今日は面白い本あります?」
だから、今は普通に咲樹さんと話せる自分がいる。
もう、咲樹さんが彼氏と別れて欲しいなんてみじんも思っていない。
「なぁ、佐織」
「ん、なに?」
「帰りになにか食べて帰ろうか」
俺には星子という恋人がいるけど、今は佐織との時間を楽しもうと思った。
「パフェでも食べに行くか」