海へ
由美さんが乗り物に弱かったのが意外だった。
祐介のおばあさんがやっている海の家に行くために俺たちはバスに揺られている。
「気持ち悪いよ〜」
今にも吐きそうな顔で由美さんが弱音をあげる。
そんな顔をしていても美人は絵になるんだね、と他人事にように考えていた。
「大丈夫?」
実際はたいした心配はしてないんだけど、声をかける。
乗り物酔いしたぐらいで人間は死んだりはしないしね。
「全然、雨夜くんの膝に吐いていい?」
「絶対にイヤです」
後ろの席では亜美さんと星子が楽しそうに話している。
祐介はすでに現地にいて一緒にはいない。
どうやら、由美さんが乗り物に弱いことを知っていて俺を生け贄にやったらしい。亜美さんも星子も酷いや・・・・・。
「由美、辛いなら袋渡そうか?」
亜美さんの旅行鞄から袋が取り出され、俺に渡される。
どうやら、俺に処理しろということらしい。
「いらない」
必死に耐えてる由美さんが少し可愛い。
俺の中では小悪魔的なイメージの強かった由美さんだけど、今日で少し見る目が変わった。もちろん、良い意味でだ。
バスの中で終始、ウエッとかオエッとかッグとか隣で聞こえていたが気にしない。
かなり気になるんだけどね・・・・・。
というか、俺まで気持ち悪くなってきた・・・・。
「潤平、大丈夫?」
後ろから様子を見ていた星子から声をかけられる。
「大丈夫かな、たぶん」
「辛くなったらこれ使って」
またしても亜美さんの鞄から取り出された袋を渡される。
俺と由美さん、どちらも死にそうな顔をしながらバスを降りることになった。
「まだ着かないんですか?」
今度は汽車に乗っている。
祐介のおばあさんの家ってどれだけ遠いのさ?
「もう少しかな、この後バスに乗って到着」
「すごく遠いんだね」
「そうだね、半日かけて海に行ってるからね。まぁ、それでも帰りは車で送ってもらえるから楽なんだけどね」
駅で食事を済ませてからバスに乗りようやく海にたどり着いた。
移動だけで疲れてしまった俺は、その日は仕事らしいことはなにもせず部屋でぐっすり寝ていた。