夏祭り〜星子〜
日が落ちても暑い。だから夏なんだ、と思ったりする。
今がこれだけ暑いなら南半球のオーストラリアはこれだけ寒いんだろうな、と無駄なことを考えながら駅前のベンチに座って星子を待っていた。
「だ〜れ〜〜だ?」
後ろから目隠しをされ、抱きつかれる。
少しびっくりするけど、相手が誰だかすぐにわかる。抱きつかれる感覚で、目隠しをしているその手で、聞き慣れたその声で。
「俺の大好きな人かな?」
俺の言葉で抱きつく力が強くなった。嬉しいという意思表示だろう。
関係のない話だが俺の息子はタバコを吸うし、結構そっけないところもある。だから遠い未来、息子が同じことをされたら下手したらタバコの灰を手に落ちることになって酷いことになるだろうと、未来の俺はきっと考える。だけど、今の俺はそんなことはわからないし気にしていない。
「惜しいけど、ハズレだよ。私のほうがもっと潤平を大好きだもん」
そんなことはないよ。と言うために星子と向き合うために後ろを見る。だけど、言葉は出なかった。ハイビスカスを咲かせた浴衣を着ている星子に思わず見とれて言葉が出なかったからだ。
「どうしたの?もしかして私に見とれちゃった?」
そりゃ、見とれるよ。ただでさえ可愛いのに浴衣を着てそんなに色っぽい表情をされたら。
「うん、可愛いと思ってね」
正直に答える。
星子の顔に朱色がすこしだけ広がった。
「誰よりも可愛い、キスもしたいし抱きしめたいしそれ以上もしたいぐらいに」
意地悪な俺は星子が真っ赤になることを期待した。
だけど、星子はもっと意地悪だった。
「なら、夏祭りやめてホテルでも行こうか?」
にっこり笑ってるが目が本気だ。
ここで「うん」と言えば間違いなくホテルに行くことになるだろう。
心が揺れるが、まだ俺たちには早い。
でも・・・・行きたい・・・。
「せっかくの浴衣姿だからお祭り行こうよ」
迷った末に出した結論。
「それなら、浴衣を着てこなかった方が良かったかな」
星子がぽつりとつぶやいた。
俺は聞こえないふりをして星子の手を引いて縁日へと向かった。
もったいないと俺の心の一部が念仏のようにつぶやいていたのは内緒だ。
昨日の金魚すくいの店を見つける。
優子のせいで昨日はかなり目立っていたはず、だから知らないふりしてそのまま通り過ぎた。店長さんが俺を見つけて来るなって視線を送っていたことには気づかないことにする。
「あのヨーヨー可愛いね」
青と紫の水玉模様の水ヨーヨーを見つけると星子はそれをほしがった。
俺は何も言わずに財布からお金をだしてプレゼントする。
「いいの?ありがと」
そんな安いヨーヨー一つでそんな笑顔を見せないでよ。
それでも嬉しそうな星子は俺の腕を掴んでくる。
「そんなに嬉しかった?」
「うん、潤平がくれた物は全部私の宝物だよ」
俺の宝物はきっと星子なのかな。
側にいるだけで嬉しいし、ずっと大切にしていきたいし。
もちろん、本人には言えないけどね。
「おじさん、焼きそば一個ください」
美味しそうな臭いを漂わせている焼きそばの露店のおじさんに声をかける。
「兄ちゃん、可愛い彼女つれてるね」
「ええ、俺の宝物ですから」
気のよさそうなおじさんは焼きそばの皿一杯に入れてくれる。
本人には言えないけど別の人には言えるらしい。
「星子、ア〜ンして」
いつも星子にやられること、せっかくの夏祭りだし俺からやるのも悪くないだろう。
することには照れることなくやれる星子だけど、自分がやられるときは照れるらしい。
躊躇い気味に開ける口に優しく焼きそばを掴んだ箸を滑らせる。
「美味しい?」
「うん、美味しいよ。今度は私が食べさせてあげるね」
そしていつものパターン。
周りの人が気になったがせっかくの夏祭りだ、照れているよりも楽しんだ方がいいだろう。きっと。
「ホントに美味しいね」
味が美味しいのか雰囲気で美味しく感じるのかはわからないけど、すごい満足だった。
満足そうな俺の顔を見て星子が意味深な質問を口にする。
「焼きそばよりも私の方がきっと美味しいよ」
「えーと・・・」
「わかってるくせに。いつでも食べさせてあげるからね」
今日の星子は積極的だなぁ。
「そうだね、いつか食べさせてもらうね」
「いつも、待ってるんだからね」
この後2人で綺麗な花火を見たけど、隣にいる星子ばっかりみていて花火を見れなかった。
来年も再来年もまた一緒に夏祭りにこようね、星子。
感想やお褒めの言葉ってもらえるとホントに嬉しいですね。読者数を見て、こんなに読んでくれているだと思いつつ実際の声を聞かないとホントに読んでくれてるのかなって思ったりもしています。
これからもがんばって書いていきたいと思いますので応援よろしくお願いします。