突然に告白する彼女
勉強もできスポーツもできる、それでいて人当たりが良くて顔も良い、そのうえ実家は裕福。そんな完璧な存在は同姓から嫌われるのが世の常だと思っていたが、俺がこれから出会って恋人となっていく芦屋星子はそんな女の子でありながら周りから慕われている存在だった。
勉強・スポーツ・顔が普通の俺にとっては高嶺の花、そんな彼女は俺の友人の幼なじみだという。だからと言って友人に彼女を紹介してとか頼んだわけではない。
出会った当時、高校2年生だった平凡な俺は何処にでも居そうな平凡な少女に淡い恋心を抱いていたからだ。
「潤平。日曜、暇ならどっか行かない?女の子でも呼んでさダブルデートでもしよう」
友人である香山祐介が話しかけてきた。
彼はこの学校以上の学力を持っているくせに近いからと言う理由で入学してきた変わり者。そのうえスポーツが万能で顔が良いから同姓の友達が少ない。
「イヤだよ。おまえは彼女がいるからいいけどさ、俺は恋人がいないもん」
そんな祐介の友人をしてるからと言って、俺自身は女の子にもてるわけではなかった。別にひがんでるわけじゃないぞ。
「女の子なら紹介してやるよ。亜美の妹とか、その友達とか」
亜美さんというのは祐介の彼女。とっても美人で面倒見が良い優しい女の子、後輩から慕われているという。そして、祐介とは幼なじみ。
「無理無理、絶対に俺と釣り合わないもん」
亜美さんの妹は双子で顔がそっくりだと言う。ってことはとんでもない美人。
その友達っていうのもK高校に通う女の子だ。
俺たちが通っているS高とK高では学力の差が大きくあるのにそんな相手と一緒にいて息が詰まらないはずがない。
「由美や星子は可愛いし、気さくな子だから絶対に潤平なら気に入ると思うぞ」
由美さんっていうのが亜美さんの妹。星子さんを含めた3人は祐介の幼なじみだと言う。
それに由美さんと星子さんの名前は聞いたことがある。K高の2大美女って呼ばれているらしいじゃないか。面識がない俺だってそんな噂は聞いたことあるぞ。
こいつはどんだけ幼なじみに恵まれているんだ。
「こっちが気に入ったって向こうが気に入るとは限らないじゃない。女の子誘いたいなら他の奴に声をかけなよ」
「無理、俺って友達少ないから」
だろうなって思わず心の中で呟いてしまう。
それでもこいつとは何故か気が合うから長くつきあってしまう。別に楽しいからいいんだけどね。
「それに日曜日は優子と買い物に行くことになってるんだ。どっちにしろ無理だから」
雨夜優子、中学校に通っている俺の妹だ。
「妹さんとデートだったのか、それなら無理だな」
「なんか、シスコンみたいな言い方で少しイヤだな」
「気のせいだろ」
この日はこうやって普通に一日が終わる予定だった。
家に帰った俺は母に言われて妹と夕食の材料を買いに行かされた。
3つ年下の妹とは仲が良い、どんなことがあっても彼女を助けていこうと思っているほどに。
「ただいま」
「ただいま」
魚と野菜を買った俺たちは当たり前のように家に入る。
リビングを見ると知らない女の子が両親と楽しそうに話をしているのが目に入った。誰のお客さんだろうと思いながら
「お客さんがいるんですね、ごゆっくりどうぞ」
と言って台所に荷物を置いた。
「何言ってるのよ?貴方の客でしょ」
と、少し非難めいた声で母は言う。
俺はその女の子を見たが記憶にない。
ポニーテールにしている黒く長い綺麗な髪に感受性が強そうな柔らかい瞳、真っ白なワンピースに隠れている小柄でスレンダーなボディー、そして妖精のような美しい顔。
一度逢ったら絶対に忘れないほどの美少女だ。
その美少女は俺を見ると突然立ち上がって
「あの〜、はじめまして。芦屋星子と言います。
突然で申し訳ないのですがもし良かったら私とつきあってもらえませんか?」
潤んだ瞳で俺を見て彼女は言った。
芦屋星子、聞いたことがある。確か祐介の幼なじみでK高の美少女じゃないか!
「返事は今日じゃなくてもいいです。
また来ます、突然押しかけて申し訳ありませんでした」
それだけ言って、勢いよく玄関から飛び出す彼女。
呆然とする俺を含めた雨夜一家。
別に悪いことはしてないはずなのにその日は家族の視線が痛かった・・・・・。