恋人らしく
「お待たせ、待った?」
「全然待ってないよ」
俺はそう言ったホッとする。
星子が約束を破るはずはないと解っているが彼女が来ないと不安な気持ちになってしまう。それはきっと、俺と星子が本当の意味で恋人同士になったからだろう。
「どこいくの?」
目を輝かせて彼女が聞いてくる。
何処に連れて行ってもらえるかワクワクしているようにも見える。
「ごめん、なにも考えてなかった」
彼女の期待を裏切る俺。
こういうところに自己嫌悪を感じる。
「ただ、星子と一緒に居たくて」
昨日、星子に告白し彼女はそれを受け入れてくれた。
だから俺は彼女と一緒に居たくてデートに誘った。日曜日まで待てずに学校が半日で終わる翌日の土曜日に。
「嬉しいなぁ」
無計画に呆れたり怒ったりすることはなく彼女はホントに嬉しそうに俺にくっついてきた。
「それって、潤平が私に逢いたくてたまらなかったんでしょ?」
「そうだよ」
正直に答える。
今更、取り繕っても仕方がない。
「それなら今日はずっと潤平と一緒に居てあげるね」
昨日の告白から俺たちはお互いに呼び捨てで名前を呼んでる。
最初は戸惑ったが慣れるとそれが正しい感覚になってしまう。
星子は前と変わっていなかった。
くっついて歩きたがるし、握ってる手から指も絡めてくる。
積極的な愛情表現を今までは苦手に感じていたけど、星子を好きだと自覚した今はそれは苦ではなかった。むしろ、自分からやりたいぐらいだ。
だから、
「これ美味しいよ。どうぞ」
スプーンでパフェを少しすくって俺の口に運んでくれるのを抵抗なく受け入れていた。
きっと、今までの俺は周りの目を気にして食べさせてもらえなかったに違いない。
もっとも、恥ずかしいのは今も一緒だが。
「少し口の中が甘ったるくなっちゃった」
「なら、少しあげる」
そう言って俺は飲みかけのコーヒーを差し出す。
砂糖とミルクはたっぷり入っているが甘さを取るには十分だろう。
「ありがと」
そう言って彼女はコーヒーを上品に啜る。
「間接キスだね」
にっこりと笑う彼女。
笑顔を見るだけで嬉しくなる。
それから俺たちはあてもなく町を歩いた。
星子が隣にいるだけで楽しい気分になれたし、目的があったわけじゃないからホントに店を見て回るだけ。
「こういうのって良いよね」
「こういうのって?」
「一緒にいる時間のこと」
本当にそう思う。好きな人と一緒に歩いているだけで今までと違う場所に来ている気分になれる。
「これからも、ずっと一緒にいるよ」
「約束だからね」
俺たちは指切りをした。
針を千本飲むのは嫌だから絶対に約束を守っていくからね。と心の中で星子に誓う。
明日も星子と会う約束をして地下鉄の駅で別れた。
本当にこの幸せがずっと続きますように。