未来の思い〜芦屋星子〜
6月の最終金曜日は特別な日。
この日だけは芦屋星子は自分の好きな料理を作ろうと決めていた。
普段なら、献立を考える際に優先させるのは旦那の潤平、次に息子達のことを考えている星子だったがこの日だけは違った。
「母さん、今日帰るね」
そういえば、長男が今日帰ってくると言っていた。
それを思い出すと、久々に帰ってくる息子の好物を作ろうと考え直してしまう。
それでも、特別な日だということを考慮して自分と息子の共通の好きな食べ物にすることにした。
・・・星子が好きだから君の隣にいる資格が欲しいんだ・・・
そう言われたとき、本当に嬉しかった。
だから、今日はそのお祝いの日。特別な記念日。
自分から告白して付き合うことになったけど、付き合っていても星子にとっては片思いも同然だった。
自分も同じ事を言ったけど、それで恋人になれたわけでもなく、本当に隣にいるだけの資格を得ただけだった。
・・・自分に自信がなかったんだ。不安な思いをさせてごめんね・・・
彼は出会った時からそうだった、自分を過小評価して周りに見とれてしまう。
彼は私を星と喩え、自分自身を夜空と喩えたけどそれは合ってるようで間違っている。星子にとっては自分が夜空で彼が眩しい星だったから。
だからこそ、星子は誓った。
・・・ずっと、側にいる。この人を守り続ける・・・
不思議な夢を見た。
人を愛することが出来ない時代に3人の男女がお互いを大切に想い、自分自身よりも大切だからこそ、想いを伝えたくてそれでも伝えることが出来なかった3人。
戦争という人間が作り上げた地獄で3人はそれぞれ葛藤し、そして死んでいく。
そんな悲しい夢を見た。
その夢の中の人が私に言った、大切な人がいるなら想いを伝えた方が良いとそしてその人はきっと君を待っていると。
だから、私は勇気を出した。
混雑する地下鉄の中で彼と出会った。
肩で私をドアに押しつけられて痛かったが、彼は私の痛そうな表情に気づくと腕でドアを押しつけ私のために空間を作ってくれた。
お礼を言おうと思ったけど彼は手に持っている本を読んでいたので礼を言いそびれてしまった。
次に彼を見かけたのは私の幼なじみと彼が一緒に歩いているときだった。
幼なじみの祐介は学校であまり友達を作らなく、その彼が唯一の友人みたいなものだった。
私は興味を持ったので話を聞いてみた。
そこで知ったのは彼の名前が『雨夜潤平』と言うことと祐介のクラスメイトということだった。
「星子は潤平が気になるのか?」
「うん、祐介くんの友人になれる人なんて滅多に居ないからね」
「失礼だな」
潤平の事が気になるのは本当だけど、理由は嘘。
本当はただお礼を言いたいだけの人物だったのに、彼の話を聞いてる内に惹かれてしまっていた自分が居る。直接話したことはないけど、何度も彼を遠目で見ていた。
「あいつ、恋人いないから今度紹介してやろうか?」
その言葉を聞いて少し安心した。
彼に恋人がいないなら、私にだってもしかしたらチャンスがあるかもしれないと。
「そうね、機会があったらね」
私はそうやって気がないふりをしてるが本当はすぐにでも紹介して欲しかった。
だけど、いつまで待っても紹介してくれる日は来ない。
「星子と由美って彼氏は作らないの?」
「作りたいんだけど、出会いと勇気が無くてね」
祐介に聞かれるといつもこうやった答えていた。
出会いがないのも勇気がないのも本当。
由美はわからないけど。
「ははは、同じ事言ってる奴が親友にいるわ」
誰を指してるかは私はすぐに解った。
だから、私はその出会いを待とうと思ったいた。
だけど祐介が続けた一言で私の気が変わった。
「そいつはさ、学校に好きな奴がいるのに全然本人にそんなそぶりを見せないでね。
あまり本を読まない癖にその好きな奴が本好きって理由でいつのまにか趣味が読書になるぐらいで」
ショックだった。
もう、私にはチャンスが無いんだと知ってしまったから。
その日は家に帰ってから泣いた。
布団の中で声を出さずに泣いた。
だからあんな夢を見たんだと思う。
悲しい恋の物語を。
私は勇気を出した。
告白するつもりはなかったけど、逢ってあの日のお礼を言うために彼が住んでるところまで行った。
家の場所までは解らなくて道に迷っていたら知らないおばさんが声をかけてくれた。
私は雨夜さんの家を探してますと言ったら、彼女は自分の家ですよと教えてくれて家に案内してくれた。
そして、私たちは出会った。
前話で潤平のテーマ曲の話をしましたが、星子にもテーマ曲があります。ゴスペラーズの「新しい世界」です。なんか、2人の性別が反対っぽいテーマ曲ですよね。
余談ですが、星子が見た夢は別の機会に書きたいと思ってます。っていうか、次回作にするつもりです。
気が早いですよね・・・・・。
もしよかったら、感想などをお願いしますね。
改善点などがあれば取り入れて行きたいと考えてます