幼なじみとファーストキス
下から朝の喧噪が聞こえる。日曜日ぐらいゆっくりさせて欲しいと思いつつ、怠惰に身を任せたまま布団の中で目をつぶっていた。
「いらっしゃい」
「お邪魔します」
客が来たらしいことは解ったが、興味はなかった。
それよりも、今俺が求めてるのは睡眠なのさ。
すやすや
ガタガタ(五月蠅いなぁ・・・・)
zzz
ドンドン(なんなんだよ・・・・)
五月蠅いと思っていたら不意に布団を引っ張られた。
「ジュン君、おはよ」
寝ぼけ眼を無理矢理開く、幼い美少女が視界に入った。
「佐織・・・・」
渡辺佐織、妹の優子の親友でもちろん俺とも面識がある。っていうか、俗に言う幼なじみの関係で小さい頃は一緒に遊んでいたりもした。
同い年の優子よりも身体は一回り小さく、一見したら小学生にも見えなくもない。
そして、小動物のように守りたくなるような可愛らしさを持っているが性格はいつも脅えているような小動物でないことを俺は知っていた。
「休みだからっていつまで寝てるの?いい加減に起きなさい」
必死で布団を握って離さなかったが、それに腹を立てた佐織が俺に体当たりをしてきた。
「痛いって」
布団の上で俺と佐織が抱き合う形になっているが気にならない。昔からやられていることだ。
結局、俺の抵抗することを諦め起きることになった。いつものパターンだが。
こいつは外見が幼く見える癖に面倒見が良いというか、世話を焼くタイプなのだ。
ありがたいのやら迷惑なのやら・・・・。
「どうせ、起こしてくれるなら優しいキスで起こしてもらいたいモノだよ」
そう言いながら俺はパジャマの上を脱ぎ、服を着替え始める。もちろん、佐織に出て行けと言うのを忘れずに。
「それなら、最初から言えばいいのに」
不意に佐織の顔が近づいた。
『ちゅっ』
佐織の唇って柔らかいんだ・・・・。
って、考えることはそんなことじゃない。
「先に下に行くね」
そう言って佐織は何事もなく降りていった。
どういう顔をしたらいいのか悩んでしまう。
彼女は解っているんだろうか?俺のファーストキスの相手になってしまったことに。
佐織はまるで自分の家であるかのように台所を知っている。
父や母が居間でテレビを見てる中、佐織は用意されている朝食を並べ、茶碗にご飯を盛り、味噌汁を温め手際よく支度をしていた。
幼い頃から知ってるとはいえ、他人様に台所を任せるなよ。と心の中で母親に文句を言っておく。
先ほどのキスはなかったように普通に佐織は振る舞っていた。
「好き嫌いしないで食べなさいよ」
まるで自分が作ったように佐織は言う。
どっちが年上かわからない。
昔は佐織に俺が同じようなことを言っていた気がした。
「手のかかる兄貴でごめんね」
「いいのよ、私が好きでやってることだから」
「別に世話を焼いてくれなんて頼んだ覚えはないけどね」
優子と佐織に見られて落ち着いて食事が出来ない。
2人とも優子の部屋に行けばいいのにって思ったが上手く言葉が出てこない。
「兄さんって結婚したら絶対に尻に引かれるタイプだよね」
佐織の言いなりになっている俺を見て優子はあきれるように言う。
「そうだよね。流されやすいタイプだし」
佐織も同意してる。
なにか言い返すべきだろうか。
「別に俺は結婚する気はないから関係ないよ」
考えた末に言い返すことにした。
もっとも結婚する気がないっていうよりは相手が居ないんだろうけど。
「彼女がいる人の台詞とは思えないよね」
優子の何気ない一言で時間が止まった気がした。
佐織は俺に恋人がいることを知らない。はず・・・多分。
「そう言えば、ジュンくんの彼女さんってどういう人なの?」
って、知っていた・・・・。
「綺麗な人だったよ。兄さんにはもったいないぐらいに」
「そうなんだ、逢ってみたいな」
俺は逢わせたくないんだが・・・。
「私の家庭教師してくれてるからそのときなら逢えるじゃない?」
「いつ来てるの?」
二人して勝手に話を進めている。
拒否権はなさそうだ・・・。