地下ってジメジメしてるね。
この世界には遥か昔、悪魔の子と呼ばれ、忌み嫌われる存在がいたらしい。小国のヒエラポリスにもその悪魔の子伝説は蔓延っており、様々な文献でその文字を目にする。
悪魔の子についての伝記はプロストの図書館で何度も見たし、そう新鮮な話題だなとは思わなかった。けれども現実に悪魔の子がアエラ神殿に連れていかれて、神々への供物になったと聞き及べば、驚かずにはいられない。どこの途上国なんだ、ここは。
俺はとある古びた商店に厄介になり、そこの店主のネルという老婆といろいろなことを話した。現在のヒエラポリスのことを中心に。
そしてネル婆が最も聞いてほしいこととして悪魔の子の話が出たのだ。
ヒエラポリスに住む子供達が次々とアエラ神殿に連れていかれているこの現状をなんとかしたいと考えていたネル婆はヒエラポリスの人間ではないよそ者の俺に相談を持ち掛けてきた。
まあ確かにメルがいるから心配にもなるわな。ネル婆曰く、王国を快く思っていない家庭の子供たちが狙われているらしい。それが事実ならばここは大丈夫だろう。なぜならメルの父は王国騎士だと言っていたし、母は城に住みこんで働いているとも言っていた。どちらも国王に直接仕える身だ。
「ただそれは形だけ。メルの父も母も元々王国の反体勢力に属していたんじゃ。いや今もそうじゃ。王国騎士になったのは反対勢力の指示で、スパイとして潜り込むように言伝があったからなのじゃよ。」
深夜、古びた店の一室。薄明かりがぼんやりと光を放っているなかで木製の机を二人で挟み、言葉を交わしている。
メルがその場にいないのを確認してからネル婆は口を開いた。
このヒエラポリスという小国は小さくない問題を抱えているようだ。果たして俺が力になれる問題なのか、少々疑問に思う。
「この問題をどうにかするには王国と全面的に戦う以外方法って無さそうだけど。」
「いやこの問題の元凶を取り除けば、王国との全面的な対決を取らなくても大丈夫じゃ。実際全面戦争になれば、勝ち目なんてなくなるがの。」
「元凶って?」
俺は目の前に置いてある温かいコーヒーを一口啜ってからゆっくりと疑問を口にした。
「メドヴィスという人物を知っておるか?」
「ああ、城で一度会ったよ。」
「そうか、なら話が早いのぉ。その男が全ての元凶じゃ。アエラ神殿に子供を連れ去っているのはメドヴィスの指示らしい。」
「何のために?」
「それはやはり反対勢力の消滅を目論んでおるのじゃろう。」
メル婆の双眸は真剣なもので、自らの予想はほぼ正解に近いと考えているようだった。
でも実際にそうとしか考えられない気もする。それにしても大胆というか無理やりというか、国民の反応をまるで気にしていないかのようにも思える。
メドヴィスが王国を裏で牛耳っているのは一般的にはあまり知られていない。もちろんメドヴィスの存在は知れ渡ってはいるが、やはり表舞台には王様が出てくる。王に対しての盲信は民の間で強くはない。ほどほどの批判と称賛が入り混じった政治を行っていて、頭に残らないような無難な印象があるみたいだ。ただしそれとは異なり、今回の「悪魔の子」の話は過激すぎる。
王様ではない他の誰かが意図して何かしらの企みをしていると考えるべきだろう。
「具体的にはどうすればいいと思う?」
俺は根本的に何をするべきなのかが全く思いつかなかった。実感が湧いていなかったのかもしれない。
「メドヴィスを討ち取るしかあるまい。」
まあそうなるわな。こんなことやめるんだ!なんて忠告したところで子供の誘拐が収まることはないだろうし。話し合いで解決できるならとっくにしてる。
「・・・俺一人ってわけじゃないよな?」
「まさか!他にも多くの戦士達がいるぞ。王国の反対勢力は着々と力をつけているからな。」
なんかエラいことに巻き込まれてしまった気がする。まあでも見過ごせない。シノビの里に戻るのはまだ先になりそうだ・・・
次の日、朝早く目が覚める・・・ことはなく、ぐっすりとお昼近くまで眠っていた俺の寝起きはあまり良いものではなかった。
やはり夜遅くまで話をしていたのが原因だろう。
欠伸を噛み殺しつつ、霞む目を擦りながらネル婆に挨拶をする。
「・・・あれ?メルは?」
「メルは店の掃除をしてくれているよ。」
めちゃくちゃ偉い子じゃん。俺なんかよりも数倍。
見習わなくてはならないと反省しました、うん。
ネル婆もネル婆で俺が起きてきてすぐに朝?昼?ご飯を用意してくれた。湯気の立つ味噌汁の香りが鼻孔をくすぐり、食欲を掻き立てる。本当にうまそうだ。なんだか自らの出身である大和の国を自然と思い出す。
艶やかな粒の白飯をかきこみながら、今日からのことについてネル婆と話し合う。自然とネル婆と呼んでいたけれども問題はないだろうか?まあいいか。
「今日はここに行ってみておくれ。同士達が待っているぞ。」
ネル婆はくしゃくしゃになった小さな紙をテーブルに置いた。俺はそれを手に取り、凝視する。
何やら地図のようだ。バツ印が記されているところが目的地だろう。ここに行けということか。
「同士ってことは革命派か?」
革命派は王国の現体制を快く思っていない人間達から成る組織で、俺が一時的に加わるところだ。仲間になる連中ということか。
「そうじゃ。ほれ、これを持っていけばお主を認めてくれるじゃろう。」
ネル婆は有名時代劇で見たことがある印籠のようなものを懐から取り出した。それは革命派の人間ならば皆持っている代物で、革命派に属していなければこの印籠が何なのかも分からないらしい。
俺はその印籠を受け取ってから昼過ぎにネル婆の店を出て、目的地へと向かった。
道中は非常に快適だった。それもそのはず格好がシノビ服でない分、周囲からの視線を集めることがなかったからだ。
ネル婆の店があったのがヒエラポリスの東地区。地下の大監獄は中央区にあり、ここからはだいぶ距離がある。いや本当に王国騎士との大逃走劇は壮絶なものだったと改めて思う。
目的地は南地区にあるみたいなので、街並みを観察しながらのんびりと目指すことにした。
やはり昼過ぎにもなると人通りも多く、店の勧誘も盛んになっていて、全体的に街に活気が溢れている。
子供が拐われるという事態を全く感じさせない雰囲気だ。まあ当事者でない者にとっては他人事なのかもしれないし、子供がいない家庭や独り身には縁のないことなのかも。
漂ってくる厚切り焼ベーコンの香りに思わず顔を綻ばせながら南地区へと足を踏み入れた。
南地区は東地区とは街並みが異なり、ほとんど店がない。建物の見た目も古臭く、今にも倒れてしまいそうな建築物さえある。
聞くところによると南地区にはスラム街があるらしい。ということは脱獄仲間のグラマンに会えるかもしれない。確かスラム街へ戻ってみると言っていた気がするし。
「お、ここかな?目的の場所は。」
と呟いたものの目の前には一本の細い路地があるだけ。進むしかないので進んでみるが、心のなかでは本当にこの地図の印は正確なのか疑問に思っていた。
薄暗くじめじめした細道を歩いていくと何やら地面に湿り気を持った大きな木板が置いてあるのが目に入った。それを持ち上げるとそこには地下へと続く階段が続いていた。
「おおお、すごい。どこに繋がってんだ?まあここが目的の場所で間違いはないんだろうけど。」
俺は素直に感心した。秘密の地下組織が談合をしているような特別感が感じられた。暗闇で階段が全く見えず、探り探りで下へと降りていく。松明だったり、ランタンを持って来るべき場所だ。次からはそうしよう。
階段を最後まで降りると蝋燭の薄明かりが地下の道を照らしていた。一本道のところに明かりを付けているんだったら、階段の方にも付けて欲しいものだが・・・
奥まで進んだ先には腐りかけの木材で作られた扉があった。立て付けも悪そうだ。長い間取り替えられず、修理もされていない感じがする。
俺はコンコンと扉を二度ノックしてみた。だが反応はない。
恐る恐る取っ手を回して、ゆっくりと扉を開き始める。
会議室のような小さな部屋があり、向かい合った机や椅子がある空間・・・・・・があると予想していたのだが、実際は違った。
だだっ広い地下の町。簡単に言えばそんなところ。
ここが地下だと忘れてしまうくらいに天井が高く、木製の建築物がずらっと並んで立っている。壮観な光景に思わずじっと見入ってしまったのは仕方ないことだろう。ここまで発展した町のような形の空間があるとは夢にも思っていなかったのだから。
黙って突っ立っていた俺のもとに何やら体格のいい男達が数人集まってきた。
表情を見るに、あんまり良い雰囲気ではないかな?
「おい、貴様、何者だ。何故この町に足を踏み入れた?」
殺気を隠そうとせずに浴びせてくる男達に俺は懐からこの紋所が・・・的なことを言ってみる。
「・・・ん?おおお、お前も革命派の人間か。ようこそ、革命派の住まう町、レスタへ。」
過剰なくらいの手のひら返し。そしてこの町には名前があるらしい。レスタ・・・聞いたことの無い名前の町だ。まあ噂になっていたらすぐに王国に滅ぼされているだろう。
「ささ、あんたの名前は?」
「えっと、コウだ。コウ ワシミヤ。」
「・・・ふむ、コウだな。誰からの紹介なんだ?」
男は友好的な反応をしているが、疑いを持つことを忘れていない。気軽に信じすぎるような人間ならばここもなが続きはしないんだろう。
「ネル婆だよ。あの人と知り合いなんだ。」
俺の返した言葉に男は納得した様子で小さく笑う。
「そういうことか。ネル婆も大変だな。普段は王国に心酔した姿を人前で晒しているが、あれは偽りの姿。本当は誰よりも王国を憎んでいるんだ。」
「息子夫婦が王国の方で働いているんだろ?」
「ああ、息子であるハイムは王国騎士。そしてその妻のアムは王国の副メイド長だ。ま、それも仮の姿だがな。」
副メイド長ってことはまあまあ偉いのかもしれない、メイドの中では。
王国の薄い部分ではなく、結構奥深くまで革命派の手は届きつつあるのかもしれない。
「ああ、そういや名乗ってなかったな。俺はマルク。レスタの守衛長をしている。よろしくな。」
握手を求められたので俺は手を前に出す。がしっと掴んできた手は分厚くてゴツかった。いかにも戦士という感じの手だった。
守衛長ということはこのレスタの門番の中でも高位な人物なのだろう。最初からそんな人物に会えたのは幸運だった。
「あんまり詳しくないんだ。色々と説明してほしいんだけど・・・」
「ああ、そうだな。見たところ、コウは冒険者か?」
マルクは他の守衛達に見回りに戻るように指示してから俺に付いてくるように促した。
レスタの大通りを歩き始める俺とマルク。
周囲を見渡してみると地上と何ら変わらない光景が広がっている。飲み屋で大笑いしながら話す中年の男達や追いかけっこをする子どもの姿も見られる。そんな何気ない光景は漠然とした何かを芽生えさせるものだった。こういう町や村を創るってのもいいかもしれないな。
「レスタは革命派に属している人間でないと入れない場所・・・いや正確に言うと革命派でないと存在すら知らない街なんだ。」
「こんな規模の地下街を知られていないなんて信じられないな・・・」
「まあそう思うのも無理ないな。だがこれは間違いない。ハイムによる情報だからな。」
ハイムはネル婆の息子であり、メルの父親だ。革命派の中心人物の一人で、王国にスパイとして潜入している今でもハイムは強い信頼を得ているらしい。
どんな人物なのか顔さえわからないので何とも言えないが。
「いつからこの街は存在してるんだ?」
「もうかれこれ五年になるか。元々はエッタっていう奴の秘密基地だったんだ。ま、こんなにでかでかとした空間じゃなかったけどな。」
こんなに巨大で広大な空間を一人で所有しているなんてそりゃあないだろうっていうのは分かりきっている。後々になって広くしていったのだろう。まあそれでも大したものだと感心してしまう。
「おっと、通りすぎるところだった。ここだよ、ここ。」
「ここは?」
マルクがまず案内してくれたのはレスタの町長、いわゆる革命派で最も偉い人の居住地だ。
目の前の大きな平屋の一戸建てがそれだ。
確かにまず一番のお偉いさんに挨拶をしないと礼儀がなっていないな。多少の面倒臭さを心に抱きながらも軽快な足取りで平屋の土地に足を踏み入れた。
ここが地下空間だと忘却してしまうくらいに整地された庭や外壁。地上に存在したとしても目立つ家屋に羨ましさを少し感じる。まあ地上の方が絶対いいけど。
マルクはノックもせずに両開きの玄関のドアを乱暴に開け放った。
「ルーカス!いるか?入るぞ!」
マルクは返事を待つことなくズカズカと足を踏み入れる。大丈夫かなと少しためらいながら俺もそれに続く。
玄関を潜ると広々としたホールのようになっていて、見渡しがよかった。
見るからに高級そうな鎧が数体置いてある。
「ああ、ここの家主は生粋の鎧好きでな。世界の鎧を集めてるんだよ。」
へぇー悪くない趣味だ。俺も鎧や盾が結構好きだし。見てるだけでなんか楽しい。
「マルクよ、不法侵入だぞ?いつもいつもお前はそうだ。」
ホールの奥にある扉がゆっくりと開いて、ちょび髭の紳士風の男が姿を現した。何だか家主というよりも執事といった感じがする。
「細かいことを気にするなよ。お前の屋敷は俺の屋敷でもあるだろ?」
「そんなわけないだろう。俺の屋敷は俺のものだ。誰のものでもないぞ。お前に金銭を借りてこの家を建てた覚えもないしな。」
「ま、そんなことよりもほれ・・・新入りだ。」
マルクは俺の肩をドンと押して、前に出した。
「新入り?」
目を細めて訝しげな表情を見せるルーカス。俺の顔をじっと凝視してくるのを真正面から受け止める。度胸の無い奴と思われないように。
「名前は何というんだ?」
「コウだ。コウ ワシミヤ。」
「誰の紹介で革命派に入った?」
「ネル婆だよ。」
うん・・・?俺は革命派に入ったってことになるのか?ネル婆とメルには世話になったし、まあいいか。
「ネル婆か。あの人もなかなか積極的だな。まあこちらとしては助かるが。」
ルーカスは何やらぶつぶつと独り言を口にし始めた。
「・・・おお、悪いな。それでお前、いやコウは冒険者か何かか?」
「ああ、一応冒険者をやっている。」
「そうか。ならモンスターを相手にしたことも?」
「まあそりゃああるけど。」
といっても数回程度しかないけど。でもあるかないかでいったらある。
「よし、なら偵察をやってもらおう。」
「偵察?」
「地上で王国騎士の動きを観察してもらう。」
「オッケー、わかった。」
俺は迷うことなく承諾した。地下で守衛として見張りをするよりもずっと動きやすいから願ったり叶ったりだ。
まあでも慎重に動かないといけないことに変わりはない。地上では俺が指名手配されてるから。
「それじゃあ、コウと組む奴を決めるか。」
「組む奴ってことは二人一組で動くのか?」
「ああ、偵察隊は最低でも二人で動くのが基本だ。」
マルクとルーカスはあーでもないこうでもないと二人で何やら話し始めた。
誰と組まされても元ぼっちの俺には結構な苦痛になるだろう。
「ま、後々でもいいか。実は空いてる奴をあんまり把握してないんだ。」
え、そういうもんなの?大丈夫ですか?
アイクがルーカスのもとから立ち去る。また明日ということらしい。とりあえず俺の泊まる場所を確保してくれるとのこと。
そこで初めて知る。俺はこのレスタで寝泊まりするんだということに。
旅人や冒険者などが訪れることは皆無なので宿屋はない。俺みたいな家を持たない新入りは専用の寮があるらしい。そういう設備は充実しているようだ。
「ここがお前の住む場所になる。ちなみに金はかからないから安心しろ。」
金銭の心配は特段していなかったのでそこは別にいいけども、やはり周囲への顔見せは重要な気がする。まずはお隣さんへのご挨拶。
マルクがまた明日来るからなと告げて引き返していく。ずいぶんあっさりしているなと思いつつも気持ちを切り替える。
こういうのは引っ越しの挨拶みたいなものだろう。そういう文化があるのかどうかはさておき、普通はタオルやら皿やらハムやらを渡すイメージがある。俺の勝手なイメージだけれども。
ただ何も持っていないし、今すぐ出せるのは・・・・・・金くらい。
いやいやいやいくらなんでもそれはやらしい。というか常識的じゃない。
そんな風に迷っていたらガチャと隣の部屋の扉が開いて、欠伸をしながらボサボサ頭の青年が顔を出した。
「ん、あれ?新しい人?」
「あ、はい。そうっす。よろしくです。」
軽いノリで挨拶すると相手も一度小さく頭を下げてちぃーすと挨拶してきた。若者って感じ。お前が言うなって言われるだろうけど。
反対の扉も知らぬうちに開いて、同年代の女性が現れる。
「お、隣に新たな住人が!」
露骨に驚きを露わにしている女性はすぐさま俺の側に寄ってきた。丸眼鏡を掛けたその顔は整っていて綺麗だった。
「・・・メロディと言います。よろしくお願いします。・・・うん、こんな感じかな?」
礼儀正しく一礼してから一人で納得したように何度も頷くメロディに少し引いてしまう。
「コウだ、よろしく。」
相手が名乗ったのにこちらが名乗らないのは失礼だと思い、俺も軽く頭を下げて、自己紹介する。
「おい!変態女!お前、また俺の魔法石勝手に使っただろ?」
「んん?誰だっけ、君?」
「ウィッキーだよ!何回言わせるんだ!っていうか覚えろよ!もう二年も知り合いだろうが!」
「そうだ!ウィッキー殿だったね。申し訳ない。それで何だっけ?」
わざとではなく本当になんの話題だったのか、忘れているようだ。それがまたウィッキーの怒りを増幅させる。
「くううううう!!!ムカつくなぁぁぁ!!!」
「ま、まあまあ。落ち着いて。ウィッキー、よろしく。コウ ワシミヤだ。」
無理矢理に握手を求めて怒りの矛先をねじ曲げる。
「ん、あ、ああ、よろしく。」
「二人は偵察隊なのか?」
「ああ、そうだ。今は一時的に戻ってきてるが、また明日には地上に出ることになってる。」
ウィッキーの相棒はぺテロという奇術を得意とする男でウィッキーと同じくこの寮に住んでいるらしい。
ひょっとしたら俺が組む人もこの寮に住んでいるのかもしれない。明日になればわかるだろう。ウィッキーと話をしていたら、いつの間にかメロディの姿が消えていた。彼女は誰と組んでいるのだろう?
ウィッキーとも挨拶を終えて、ようやく自分が泊まることになる寮の扉を開く。
開けた先にはこじんまりとした一部屋だけがあって、最低限のベッドと机と椅子が備え付けてあった。
実際眠ることができれば何も求めることはないので変な感想を抱くこともなかった。そのまま部屋へと入ってベッドへダイブ。
瞼をゆっくりと閉じた。
・・・・・・・・・ふぅ・・・・・・
何もしていないし、昼まで寝たばかりだったけど眠い。何故だか眠い。このまま寝てしまおうか。嫌さすがに自堕落な生活すぎる?そう考えてる自分に不思議と笑いがこみ上げてくる。だって前の世界ではそれが普通だったから。昼過ぎに起きて、二度寝して、夕方起きて、飯食って、ゲームして、ネットサーフィンする・・・・・・みたいな生活。今思うと本当にどうかしてる奴だったな、俺。
久しぶりに前の世界のことを思い出した気がする。こっちの世界での生活が続いていくことで日々日々記憶から日本で生きていたかつての自分が薄れていくのを感じる。それが悲しいことで寂しいことなのか正直わからない。そんな程度だったと感じてしまうのもちょっと複雑で。まあでも・・・何にしてもこの世界での時は過ぎていくし、不必要な存在でも生きていかなくちゃいけない。腹も減るし。うん、そういえば腹が減った。腹が減ったと思った途端、凄まじいほどの空腹感が襲ってきた。
寝る前にどっかで飯を食おう。俺は瞼を開けた。
そこは暗闇に包まれていた。いつの間にか寝ていたようだ。時間は・・・わからない。時計はこの部屋にあっただろうか。というよりもまず明かりを付けなくては。
俺は手探りで周囲を探索し、なんとかランタンの明かりをつけることができた。
時刻は夜の七時。だいぶ寝てしまったみたいだ。
よし、出かけようか。