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公園のある風景

作者: 石田杞憂

春のぽかぽかとした陽気に誘われ僕は公園までやってきた。

思いの外公園には人がおらず、

顔に少々しわのある中年の男が一人、

公園の緑色のベンチに足を組んで座っていた。

男は高級そうな旅行鞄を足下に横たえ(たぶんヴィトン)

フランス語のタイトルの本に目を落としていた。 (もちろんハードカバー)

僕も年をとったらあんな風になりたいかも、と思案しながら、

何事もないように男の前を通り過ぎようとして、

「小僧」

声をかけられた。男の声だ。

その低く貫禄のある声に一瞬肩を上下させたものの、

平然を装い、ぎこちなく愛想笑いした。

「な、なんですか」

男の漆黒の瞳にじっと見つめられる。

射竦められるようにして僕は固まった。

「砂だ」

僕の目を見てそう言った。

「へ?」

たまらずマヌケ声で聞き返した。予想外だったのだ。

「砂に興味はないか?」

砂…………興味はない。

はっきり『ない』と告げかけ、遮られた。

「中東の砂だ。砂漠の」

男はジャケットのポケットから小ビンをとりだして僕の前に掲げた。

「持っておけ。きっと役に立つ」

男はそれを僕の掌に預けて、

すっと立ち上がり、本と旅行鞄を手に去っていった。

「あのっ」

男の背中に僕は何か言おうとした。しかし、

「金はいらん」

男の有無を言わせぬ声にたじろぎ、何も言えなかった。

そのまま、男の姿が見えなくなるまで、呆然と見送った。

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