十五夜
「雄太ぁ、今日は十五夜だよ」
雄太と言うのは私の彼氏で、付き合い始めて三ヶ月が過ぎたところだ。
私はスーパーで買って来たお団子とススキを窓辺に飾っていた。
雄太はと言うと、私のベッドに寝そべって携帯ゲームに夢中!
そう、お月見なんて言う風流とは全く縁の無い男だ。
「雄太ってばぁ、ゲームばっかりやっていないでお月見しようよぉ」
私は目いっぱい甘えた声を出して雄太を誘った。
「お月見って……、月なんか見て何が楽しいんだよ」
ディスプレイから目を離す事さえしない。
「ねえってばぁ、一緒にお月見しようよぉ~」
更に甘えた声を出してみた。やってみると結構できるものだ。
女友達が私のこんな声を聞いたら、腹を抱えて笑い死にするだろう。
さすがの雄太もゲームをやめて私の隣に座った。
「お月さま、きれいだね」
そう言いながら雄太の肩にもたれかかる。
雄太は何も言わないで私の体重を受け止めてくれた。
幸せな時間が流れた。
「お団子食べようか?」
「そうだな。ところで、なんで十五夜に団子を食べるか知っている?」
雄太のウンチクが始まった。私だって、十五夜がいわゆる収穫祭で、サトイモを飾って神様に感謝した風習から、サトイモに模したお団子を飾る様になった事くらい知っている。
「えー、知らなーい」
「十五夜って言うのはだなぁ。古来芋などの収穫を…………」
私は雄太の言葉を聞き流しながら、雄太の温もりを味わっていた。
雄太のウンチクは果てしなく続く。
私は時折、「へー、そうなんだぁ」とか「雄太物知りぃ~」などと相の手を入れていた。
「月って言うのは、まだ地球が宇宙空間に漂うガスだった頃、そのガスが集まって地球を形成したときに、その一部が月になったんだ」
「へー、そうなんだぁ。すごーい、雄太物知りぃ~」
そろそろこのキャラにも疲れて来た。
だいたい地球と月が同一のガス体から同時期に形成された、いわゆる兄弟説なんて、いつの時代よ! 最近ではジャイアント・インパクト説が一番有力で、巨大な天体が地球に衝突した際に飛散・蒸発した物質が、地球の周回軌道で集まって出来たって言う事くらい、小学生だってしっていることでしょう?
もしかして、雄太は……、まさかね? 月にウサギが住んでいるなんて思って無いよね?
月はそんなふたりをやさしく見つめていた。