6ー(4)耕平の選択
「……え? それだけ?」
一人だけ理解出来ていない耕平。
大山と葵、コロップまでもが、冷たい視線を耕平に向ける。
「お前は、ライセンス剥奪ということが、どういう意味か解っているのか?」
「え? い、いや」
あれ? だって、ライセンスって、所詮資格だろ?
てっきり、すなをの命が奪われるような処分を覚悟していただけに、耕平の緊張はすっかり解けていた。
「今後、新たに人間と契約することが出来なくなる。契約解除された後は、闇に帰化する、……つまり、消滅だ。ライセンスを取得すれば、その将来は約束される、その代わり、取得失敗した時は相応のペナルティを受けるということだ」
「ああ、そういうこと」
なら、なおのこと何の問題もないじゃないか、と、耕平は口の端を上げる。
「うん。失敗した時の重大性は理解。でも、それは、契約解除された後にって事だよね」
「そうだ。あとは、お前がこれに署――」
「じゃあさ、もし、僕が契約を解除しなければ、すなをは生き続けられるって事?」
大山の言葉を遮り、耕平が発したその言葉に、すなをは弾かれたように顔を上げ、大山は目を見開き、葵はぷっと吹き出し、「正解」と呟いた。
「……まあ、前例がないが、契約を続けること自体は、契約者の自由だ。だが、悪魔としての登録は抹消されるため、今後は、公式な悪魔としては認められない。通常は、厄介者が消えることで安堵した人間が、喜んでこれに署名するのだがな。役に立たない悪魔など、百害あって一利なしと言う事でな」
大山は、複雑な模様が描かれている、茶色っぽい紙をひらひらさせる。
「契約解除用紙よ。審判の時だけの特例。署名すれば、状況、契約条件にかかわらず、唯一、無条件で契約解除出来るし。悪質な悪魔から、人間の権利を守るための制度よ」
葵が笑いながら、補足した。
「ああ、要はクーリングオフってことね。納得」
耕平は、初めて審判の意味を理解した。
「っで、どうする? 契約解除、サインする? 今度は、キミが決める番だよ? サインするなら、グリモアを出してねっ」
葵は、再び悪戯っぽい笑みを耕平に向ける。
……そんなこと、決まってるじゃないか
耕平は、ゆっくりとテーブルに向かった。
耕平とすなをの目が、合う。
小刻みに震えるすなをのその瞳は、とても不安げな色を湛えていた。
「すなを」
耕平は、握りしめていた右手をポケットから出すと、すっと両手を上げた。
「!」
覚悟を決めたのか、目をつぶるすなを。
「ほら、忘れ物。……さっ、一緒に帰るよ」
耕平は、コンパスをすなをの首に掛けてやる。
すなをは、目を見開き、一瞬泣き出しそうな顔をしたが、すぐに笑顔を浮かべた。
「うんっ!」




