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6ー(3ー2)

「駄目だ!」

 耕平は叫んだ。


「すなを、そっちを選択するんじゃないぞ! 契約者の命令だ!」

「コーヘイ……」

「残念ながら……」

「うん。契約者自身を脅かすような命令は、無効だし」

 大山に同調して、葵が説明した。

「そんな……」

 耕平は、拳を握りしめる。

「すなをは、もう、結論出してるんでしょ?」

「……はい」

 ……そうするしか、選択肢がないし

 すなをは、耐えられなくなり、耕平に背を向けた。

「じゃあ、そうすればいいじゃん」

 葵が笑顔で頷く。

「『いいじゃん』って……。すなを、駄目だっ!」

 人が一人消えようとしているんだぞ?

 何でこの状況で笑えるのか、耕平は理解に苦しむ。

「ごめんねっ。コーヘイ。でも、どっちか選ばなきゃいけないのっ。……恨むんなら、コーヘイがあたしじゃなかったことを恨んで? もし、コーヘイがあたしだったら、……同じ事したはずよっ」

 すなをは、絞り出すような声で、そう言った。

 青い髪が小刻みに揺れている。

「ちょっと、僕の目を見――、うわあああああっ!」

 すなををつかんで振り向かせようとした瞬間、耕平の身体に電気が走ったようなショックが突き抜け、はじき返される。


「審判中は、部外者立ち入り禁止だ。そもそも、何故人間のお前が、審判中にこの空間に入って来られたのか、謎だ」

 耕平が振り向くと、テーブルの上で横たわっているコロップが耕平を見ていた。

「コロップ……だっけ? そうだ、君なら――」

「私に何かを期待しても無駄だ。審判は、如何なる者も、それを侵すことは出来ぬ。そもそも、……最初は全て予定通りだったのだ。生贄となるべきお人好しの人間を見つけ、上手く取り入り、七日間契約解除されないようにする。それだけのために、あいつはこの世界に来たのだ。十三回目は特別条項が適用され、願い事の行使如何に関わらず、相応の対価、つまり、お前だ、それを差し出せば、悪魔として存続できるのだ。お前なら、有資格者であり、かつ、簡単に騙せそうだったので、偶然を装ってお前の前に現れたのだ。ライセンスさえ取れれば、名門に仕えることが出来、あいつの将来は約束されるからな。……全て、あいつの教育者が仕組んだシナリオ上で踊っていたに過ぎない」

「台詞長いし。てか、もう少しオブラートに包んで欲しかったけど……」

 意外におしゃべりなんだなと、耕平は変な関心をした。

「おま……。いや、何でもない。……とにかく、あいつは変わってしまった。あいつの目的も、あいつにとって守るべき物も。……お前のおかげでな。そして、あいつは選択した。シナリオは破綻。もう、……なるようにしかならないのだ」

「すなを……」

 深々とため息をつくコロップの言葉を聞きながら、焦燥感に駆られる耕平。


 これでは、ここに駆けつけた意味が無いではないか。

 すなをは、間違いなく、自分が犠牲になる方を選んでしまう。

 ……いや、ここまで来れたんだ。絶対、何か活路があるはずだ!

 シナリオを書いている人物が与えるヒントがどこかに……

 耕平は、与えられるべき次のメッセージを探し、必死に視線を走らせる。

 葵と、目が合った。

「大丈夫だって~。信じていれば~。この物語は、そんなに悲惨な結末にはならないはずよ。もう、ほとんどのフラグは立っているし」

 ……フラグ? いきなり何を言い出すんだ?

「でも、最後のフラグが立つかどうか、……それは、『先輩次第』かなっ?」

 そう言うと、葵は悪戯っぽい笑みを浮かべ、片目をつぶった。

「おい、審判中だぞ! 私語は慎みたまえ」

「!」

 葵を咎める大山の声を聞きながら、この瞬間、耕平は理解した。

 どこかで、この物語のシナリオを書いていた人物の正体を。

 ……そうだったのか!

 耕平の中で、霞がかかっていた、意図的に消されていた幾つかの記憶の断片が、突然、はっきりと浮かび上がった。


 そう言うことであれば、今までの偶然が、全て説明できる。

 今までだって、何だかんだで最悪の事態だけはギリギリ回避できるように、仕組まれていた。

 その分岐点に、毎回、偶然と言う名の下居合わせた『作者』

 そして、その作者は、この物語の終末への選択権は、耕平にあると言っている。

 どうせ、ここでも、耕平は何をすることも出来ないのだ。

 なら、その人物を、葵を信じよう。

 すなをには、伝えられることは全て伝えた。

 あとは、最後に与えられる選択肢を間違えないように、物語の結末がハッピーエンドでありますように、と祈るだけだ。


「では、汝の意志を正式に伝えるがよい」

 大山が、凜とした声を出す。

「私、すなをは、し、……審判法第九条二項の適用を拒否します」

 すなをは、小さいが、はっきりとした声で言った。もう、震えは起こらなかった。

「くっ、……では――」

 大山は、本日何回目かのため息をつくと、書類を机に置き、葵の顔を見た。

 葵は、頷く。

「審判法第九条二項の適用は本人の拒絶により適用外とし、審議の結果、十三回目のペナルティにより、その過失は極めて重大かつ、悪魔としての資質に疑問を禁じ得ないと判断し、」

 ……来た!

 耕平は、『その時』を見過ごさないように身構える。

 すなをは、身体を固くした。

「おい、妙な考えを起こすなよ? 人間」

 無意識にコロップを掴む耕平に、コロップが警告する。

 大山は、耕平をちらりと見ると、

「審判法第三条四項を適用し、」

 全ての空間が停止したような感覚に陥り、大山の声だけが、やたら大きく聞こえる。

「本日をもって、被審判者の仮ライセンスを剥奪、また、ライセンス付与を無期限停止とし、同日以降、新規の契約行為を禁止とする。以上で、審判を終了とする」

 と、厳かに告げた。


 すなをは息を呑むと、激しく震え出し、肩を抱くような格好で座り込む。

 何故か、大山までもが「こんなことなら受験させるんじゃなかった」などと呟きながら頭を抱える。

「……終わった。何もかも……。思えば、下らない生涯であったな。あとは……」

 コロップが深いため息と共に呟き、耕平を見上げた。


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