表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私の住むせかい ~ 一つの願い事 ~  作者: みずはら
(第五章)一つの願い事
51/68

5ー(1)記憶

「耕平。耕平ったら」

 自分を揺さぶる感覚に対し、耕平は、腕を伸ばして抵抗する。


「耕平っ! 起きなさいっっ!」

 部屋中に響き渡るその声に、耕平は跳ね上がる。

 かすむ視界の中で、美佐が笑顔で耕平を見下ろしていた。

「あ、叔母さん。おはようございます」

「遅ようございますぅ~。今何時だと思ってるの?」

 美沙に悪戯っぽくそう言われ、時計を見ると、昼の一時を回ったところだ。

「昨日遅かったと思ったら……。もう、学校がないからって、一日中寝てちゃ駄目よ?」

「あ……、えと、ごめんなさい」

 ……あれ?

 耕平は、何か違和感を覚える。

「さっ、布団干すから、早く着替えて」

「はい」

 耕平は、ベッドから起きあがり、そそくさとTシャツを着る。

「あっ、ズボンもはきっぱなしで~。しわになっちゃうじゃない」

 ……そもそも、いつの間に寝てたんだろ。

 耕平は再び違和感を感じたが、すなをとのことを思い出し、その疑問を取りあえず押しやる。

「ごめんなさい。ところで、すなをは?」

「え? ああ、あの子? 朝からいなかったけど、どこかに出かけているのかしら」

 布団を抱え、戸口に向かいながら、美佐。

 ……そうか、すなをは出かけてるのか。仲直りに、どこか行きたかったのにな。

「そう言えば……」

 美佐は、布団を抱えながら、器用にドアを開け、耕平を見た。

「あの子、昨日怪我でもしたの?」

「え?」

「丁度足首の辺りかしら、シーツに血が付いていたのよ」

「!」

 美佐は、自分の足首を顎でさしながら怪訝そうな顔をしていたが、すぐに笑顔に戻った。

「押し入れの中に隠してあったのよね。言ってくれればいいのに。取り替えておいたから、帰って来たら言ってあげて」

「う、うん」

「お腹すいてたら、台所にご飯有りますからね」

「うん、ありがとう」

 焦る耕平に気付かず、美佐は、耕平に笑いかけると、ドアの向こうに姿を消した。


 ドアの閉まる音を聞きながら、耕平は、深いため息をつく。

 と、突然大音響で鳴る軽快なメロディーに、耕平は飛び上がる。

 それが、自分の携帯電話の音だと気付くのに数秒かかった。

 慌てて、ベッド脇から携帯電話を引き寄せると、『着信 ほのか』の表示を確認し、ボタンを押す。

 《はろ~、耕平~、元気ぃ?》

 底抜けに明るいほのかの声。

「あ、うん」

 《な~にぃ~? その声。さては、寝てたでしょ~》

「え? あ、うん。今起きたところ」

 《やっぱり~。相変わらずね。そんなんじゃ、すなをちゃんに嫌われちゃうぞ?》

「!」

「嫌われる」と言う言葉に、記憶の琴線に何かが触れるが、それが何なのか判らない。

 《ふふっ。ごめ~ん。冗談だし》

 耕平の間を別の意味に捉えたのか、ほのかがおどけた口調で謝る。

「い、いや、別に良いよ」

 《ところでさあ~、耕平、昨日突然どこに行っちゃったの?》

 ……え?

「昨日? ど、どこって?」

 《はぁ~? ちょっとやめてよね~。耕平まで先輩のボケがうつっちゃった?》

「だから、どこって?」

 本当に、ほのかの言っている意味が分からない。

 電話口でほのかのため息が聞こえる。

 《昨日、宇宙人見に行ったじゃん? っで、そのあと耕平がどっか行っちゃって、先輩と探したけど、見つからなかったし。先輩ったら、『神崎君! 一大事だ! 浅倉君が宇宙人にさらわれた!』って、大騒ぎしていたんだから~。まあ、……言いたくないんなら良いけど~》

「そ、そう」

 ほのかが、上手に大山の口まねをするが、それに笑う余裕はなかった。

《あーーっ! もしかして、すなをちゃんと秘密デートしてたぁ? 何だかんだでやることやってるわね~》

 ほのかのおどけたような声は、耕平の耳に届いていなかった。

 膝が笑い出す。

 言われてみれば、そんなことがあったような気がする。

 確かに、記憶に残っている気がする。

 ただ、実感がない。

 ほのかに言われて、その場面が、たった今、脳で形成されたかのような、言うなれば二次元の記録。

「な、なあ、昨日って、先輩とほのかだけだったっけ?」

 《も~、なにそれ! ぶっちゃけありえないし~。あたし達三人で行ったじゃん。でさ、川南公園の周りには、これでもかーってばかりに学校の子がいたじゃん。……まさか、本当にアブダクションされたんじゃないでしょうね~》

「い、いや。多分、大丈夫」

 ……川南公園に行っていたのか

 《まあ、いいわ。……あっ、は~い。……ごめん、ママに呼ばれちゃったし。うん、とにかく、耕平が無事で安心したわ。じゃあねっ!》


『通話時間 2分29秒』と言う表示が左右に大きく震えだし、携帯電話が落下する。

 耕平は、先ほど感じた違和感の正体にたどり着く。

 無いのだ。

 有るべきものが。

 無いのだ。

 昨晩の記憶が。

 ほのか達と別れたらしいが、その後、どうやって帰ってきたのか覚えていない。

「――っ!」

 ズキン、と首筋に痛みが走った。

「!」

 突然、耕平の脳裏に、黒ずくめの屈強な男が浮かぶ。

 その前で、すなをが、こちらに向かって何かを叫んでいる。

 その、能面のような表情が、耕平の記憶の奥底に埋もれていたものを掘り起こす。

「……そうだったのか」

 たった数コマだけの映像で、昨日の早朝の出来事と、昨晩の場面がつながった。

 詳細は判らないが、その時、はっきりとすなをに決別された。

 そして、多分、仲間と共に、耕平の前を去った。

 先ほどの場面は、そう言うことだ。

 ……すなをは、もう、ここには居ないのか


 再び、軽快なメロディーが空間を満たす。

 《もしも~し。浅倉ぁ》

 あきらの声である。

「うん。どうした?」

 《昨日どうだった? 宇宙人現れたかぁ?》

「どうって、お前は行かなかったのかよ」

 ほのかの電話のおかげで、あきらの質問は理解出来た。

 《おいお~い、冷たい奴だなぁ。俺もいたじゃん。そりゃ、先に帰ったけど、ガセだったかも知れなけど、ひどいぞ~、友達だろ~、浅倉ぁ》

 どうやら、あきらも、その場にいたらしいと言うことが判る。

「あ、ああ、ごめん。……多分、いなかったと思う」

 ほのかから結果は聞いていなかったが、もしいたらもっと大騒ぎになっているだろう。

 《「多分」か、いいな~、その言い方。うん、俺もそう思うぜ。俺達の判らないところに舞い降りていたんだぜ、きっとさぁ~》

「な、なあ、あきら」

 《うん?》

「どっか遊びにいかね?」

 とにかく、この喪失感を埋め、地に足の着いた感覚を取り戻したい。

 それに、あきらが昨日いたと言うことは、上手く聞き出せば、耕平の抜け落ちた記憶が合成出来るかも知れない。

 《おっ、良いぜ~。そうだ、浅倉ぁ、もう飯食ったか~?》

「いや、まだだ」

 《よしっ、じゃあ、駅前のマッスバーガーで待ち合わせなぁ。俺はすぐ出られるぞ~》

「うん、わかった。じゃあ、駅前で」

 耕平は、電話を切った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ