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4-(1-1)あきら

 緩やかなメロディが空間を満たし、四限の終了を告げる。

 同時に、静まりかえっていた室内に喧噪が戻り、それぞれが思い思いに目的地を目指す。


「浅倉ぁ、今日弁当かぁ?」

 耕平の席に近づいてくる、ぼさぼさの頭が特徴的な男子は、川越あきらである。

 あきらは、UFO研所属であり、まあ、何て言うか、類友と言ったところであろう。

 ただ、耕平が所属している超自然科学研究部のように、全ての出来事に論理的な裏付けを行うわけではなく、みんなでUFOのネタを語り合う、と言った色が強い。

 やっていることは似ているが、大山曰く「似て非なる、低俗な」部活である。

 まあ、ぶっちゃけ、大山の宿題が無い分、UFO研の方が楽なわけだが。

 耕平は、あきらを見上げると、ゆっくりと首を横に振る。

「……、じゃあ、行こうぜ~。今日は、俺もパンだし」

 あきらの瞳に複雑な感情が映るが、一瞬の後、微笑みを浮かべると、片目をつぶった。

 正直言って食欲がないのだが、あきらに促され、耕平は教室を後にした。


「ところでさぁ、浅倉んとこ、文化祭大丈夫かぁ?」

 廊下では、早足で歩く生徒、窓際で談笑する生徒、階段の脇で二年生の女子にいじめられている一年生の男子、そんな風景を、まるでテレビの向こうの映像のように、ぼんやりと受け流す耕平。

 ああ、あきらが何か喋っているな。耕平は、曖昧に頷いた。

「うん……」

「そっか~。俺んとこは結構ピンチだな~」

「そう……」

「まあ、浅倉んところは、あの先輩がいるしなぁ。正直、羨ましいぜ~」

「そうかな……」

 あきらは、ちらりと耕平の顔を見ると、「これは名案!」って感じで、手を打った。

「そうだ! 今日天気良いしさぁ、気晴らしも兼ねて、上行こうぜ~」

「うん。そうだな」

 ここで初めて、言葉に耕平の感情が入る。

 微笑む耕平に、あきらが笑いかけた。

 あきらは、耕平の様子に気付いているのだろう。

 だけど、耕平がその部分に触れて欲しくないと思っていることも解っていて、気付かない振りをしてくれているのだ。

 その上で、わからないように耕平を気遣っている。

 のんびりしていて、天然ぼけなあきらだが、見てないようで相手をよく見ている。

 こういうところはさすがである。

 耕平は、心の中であきらに感謝する。


 あの後、結局グリモアに火を付けることも出来ず、興奮が冷め、我に返った瞬間、すなをに発してしまった言葉が次々に思い出され、その時の場面がフラッシュバックし、同時に、すなをの微妙な表情の変化も、脳内で見事に再現された。

 ……あんな事、言うべきではなかった。

 仮に、すなをが悪かったとしても。

 自分の未熟さに、今更ながら腹が立つ。

 しかし、発してしまった言葉は、もう戻らない。

 ……嫌われちゃったかな。

 耕平は、唇をかむ。

 せっかく良い感じだったのに、台無しだ。

 そもそも、面白半分ですなをを呼び出したのは、悪いのは、耕平達ではないか。

 それが、予定外の出来事であったとしても。

 すなをだって、不安いっぱいの中、慣れない環境で、耕平の機嫌を損ねないように必死だったのだろう。

 その上で、何かは知らないが、悪魔としての活動をしていたのだろう。

 ただ……、と耕平は、記憶の中から、腑に落ちない点を発見する。


『大体、誰のせいだと思ってるの?』


 すなをの怒りようは尋常じゃなかった。

 すなをがそこまで怒る理由が、何かあったと言うことだ。

 あの時は、耕平自身も頭に血が上っていたので、その事について深く考えなかった。

 ……僕のために、すなをが何かしていたというのか?

 よく、漫画のパターンで、主人公が、過去の出来事から、恨みを持つ誰かに狙われていて、いきなり押しかけたように見えたヒロインが、実は主人公を守るために身体を張っていた、なんて話があるが、すなをが、そのヒロイン的な立場だったりするのだろうか。

 ……いや、あり得ないな、そんな、漫画みたいな話。

 耕平は、考えを打ち消す。

 確かに、小学生の頃に両親を失うという環境の特殊性はあるが、それ以外は他と変わらない、ただの平凡な高校生だ。

 単に、すなををこの世界に呼び出してしまった耕平達を責めていたのだろう。

 もっとも、耕平のおかしな日常が、すでに漫画のような世界な訳で、絶対にその可能性がないか、と問われると、否定出来ないのだが。


「ほれ」

 突然、声と共に、額にひんやりとした感触。

 耕平が思考を現実に戻すと、あきらが、耕平の額に、何かを押しつけている。

「あっ! ごめん」

「いいっていいって、それよりも、早く上行こうぜ。昼休み終わっちゃうし」

「えっと、いくら? ちゃんと払うからさ」

「当たり前だろ~。おごるとは言っていないぞ~。二百二十円、きっちり耳そろえて払ってもらうぞ?」

 耕平は、笑顔を見せるあきらから、パンとパック牛乳の入ったビニル袋を受け取る。

 ちゃんと、耕平の好きな三角トーストも入っている。

 一体、どれだけの間考え込んでいたのだろうか。

「そう言えばさぁ、最近、川南公園付近で、青白い光が空に上っていくところが頻繁に目撃されてるって情報があるんだ。もしかすると、宇宙人かも知れないぞ?」

 あきらは「なあ、朝倉は本物だと思うか~?」などと、喋っている。

 しかし、耕平は、再び思考の海を泳ぎ始めていた。


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