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3-(4-4)

「何が違うの? いや、どうでも良いんだけどさ、そりゃ、すなをにとっては悪戯じゃないかも知れない。悪魔には悪魔の事情があるんだろうなって思うよ。でも、それは、すなをの勝手な都合だよね。だけど、ここは人間の住む世界なんだよ? だからさ、」

「はぁ? 何よ、その言い方! ありえないし! 大体、誰のせいだと思ってるのよ!」


 すなをは、耕平の言葉を遮ると、耕平を睨み付けた。

 今の耕平の言葉がトリガーになったのか、その前からなのか判らない。

 だけど、何だか、急に耕平の言葉が耳障りに感じ始めるすなを。

「え? 何て? 僕のせいとか意味解らないんだけど!」

 すなをの強い怒りを感じ、その物言いに、耕平の精神のバランスが崩れ始める。

「もういいわ! どうせ、コーヘイには関係ない――」

 その言葉に、耕平は自分の怒りを制御できなくなる。

「あのなあ! この際だからはっきりさせておくけど! すなをは僕に迷惑を掛けているんだってことを自覚しろよ! いいか? 今度魔法使ったら、マジで契約解除するからなっ!」

 すなをはふてくされたような顔をし、耕平から目を反らした。

「――じゃない」

「ああ?」

「契約解除したいんなら、勝手にすればいいじゃない! 別にコーヘイじゃなくってもあたしはいいもん!」

 すなをは、耕平を睨み付け、大声を上げる。

「ふざけるな! お前みたいな役に立たない悪魔なんか、誰も契約なんかしてくれないぞ! それで過去十二回も契約解除されてるんだろ? ばっかじゃないの? それなのに、情けでここに置いてやってるんだ! 本当は居るだけで迷惑なんだぞ? 少しはありがたいと思え!」


 後で、この言葉を痛烈に後悔するが、耕平は、既に、自分でも何を言っているのか理解していなかった。

 ただ、マグマのように噴出する怒りを、言葉という手段で、どう言ったら最もダメージを与えられるかのみを考え、すなをを傷つけるべくぶつけているだけだった。

 すなをの顔が赤くなったり青くなったりし、直後、すなをは青い髪を振り乱して立ち上がり、耕平を一瞥すると、

「コーヘイの馬鹿――――っ! もう知らない!」

 部屋から飛び出し、ばんっと思いっきりドアを閉めた。

 ふすまから埃がぱらぱらと落ちる。

 そのすなをの瞳に、溢れんばかりの涙が溜まっていたことに気付く余裕は、今の耕平にはなかった。

 耕平は、救急箱を掴むと、力任せにドアに向かって投げつける。

 派手な音を立てて、中身が飛び散る様を、他人事のように睨み付ける耕平。

 どうしてここまで腹が立つのか、耕平自身にも解らない。

 すなをの身勝手さは、いつもの事じゃないか。

 だが、奥底から沸き上がる、どす黒い物は止められない。


「何だ、あいつ! 二度と、顔見せるな! ばーか、落ちこぼれ悪魔め、消えてしまえ。て言うか、マジで契約解除してやる!」

 そう言うと、興奮のため震える身体で耕平は立ち上がり、ベッド脇のハンガーをたぐり寄せると、制服のポケットに手を突っ込む。

「泣いて謝ったって、赦してやらないぞ!」

 耕平は、手帳より一回り大きな黒っぽい本――グリモア――を左手に持ち、机の引き出しからライターを取り出す。

 大山ご愛用の、先端温度が千度近くまで上がるやつだ。

 これで燃やせば、あっという間だろう。

「よっし、準備は出来たし。あとはスイッチを押すだけだ」

 耕平は、わざわざ声に出してそう言い、グリモアをライターの上に持ってくると、ライターのスイッチに指をかける。

 カタカタとグリモアが震えだし、グリモアとライターがバラバラに動き出す。

 それが、自分の腕の震えのためだと、耕平は気付く。


 このスイッチを押せば、火がつき、グリモアに引火し、全てが終わる。

 そう、全てが……。

 自分の日常を乱した、やっかいな悪魔が、目の前から消える。

 そうすれば、元の平和な日常生活に戻れる。

 そう、日常生活に……。


 耕平は、指に力を込めた。

 カチッと軽い音がし、ガスが漏れる音に次いで、青白い光が耕平の目の前で灯る。

 これに火を付けたら、すなをはどうなるのだろう。

 苦しむのだろうか? それとも、声を上げる間もなく一瞬で消滅するのだろうか?

 すなをの最期を想像し、妙な興奮を覚え、炎が小刻みに揺れだす。


「す、すなをが、……悪いんだからな」

 耕平は、焦点の定まらない目で炎を見つめながら、徐々にライターをグリモアに近づけていった。


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