3-(4-2)
「もー、魔法使わないって約束したよね!」
涙目で頬をさするすなをを見ながら、相変わらず怒りが収まらない耕平。
「だって……」
「だってじゃ――、……すなを?」
耕平は、開きかけた口を閉じると、すなをの右腕を凝視した。
すなをは、慌てて右腕を隠そうとする。
「あっ!」
しかし、耕平は、素早くすなをの右手を掴んで引き寄せた。
すなをが握りしめていた拳を開くと、中にはコンパス。
何故か鎖が切れている。
ふわっと、鉄っぽい香りがしたが、一瞬で消えた。
よほどきつく握りしめていたのだろう、手の平には跡が付いている。
しかし、耕平の視線はその先に移動していく。
「……、どうしたの? それ」
「やっ、あのっ……な何でもないよっ」
すなをは、左手で隠そうとするが、耕平は、その手を払いのけた。
すなをの肘の下あたりに、えぐれたような傷があり、赤い筋が出来、じわじわと広がっている。
「!」
耕平は、はっと気付いた。
「こっ、コーヘイ、違うのっ!」
……ばれちゃう!
すなをは狼狽し、右手を引っ張るが、耕平は離さない。
「そうか……、そりゃ、屋根を突き破ったんだから、こうなるよな~」
「……」
押し入れを見る耕平が、違う理解をしていることに気付き、すなをはホッとする。
「ちょっと座って」
「え?」
すなをはきょとんとした顔をした。
耕平はため息をつくと、すなをの手を引っ張る。
「……だから、手当てするから。座って」
「い、いいよっ、このぐらい。何ともないし」
「いいから座って」
「大丈夫だって~」
「座って!」
「大丈夫だって~」
なおも耕平から逃れようとするすなをを、キッと睨み付け、耕平は、大きく息を吸い込んだ。
「契約者の名に於いて命ずる! 座りなさい!」
「……はい」
すなをは、しおしおと腰を下ろした。
耕平は、口の端を上げると、机の脇にある木製の救急箱を取り、すなをの前に座った。
「さてと……」
耕平が、箱を開けると、白木の香りに混じって、独特の香りが空間を満たす。
「……その臭い、嫌い」
すなをは顔をしかめる。
この臭いをかぐと、嫌なことを思い出すのだ。
「大丈夫だから。大体、怪我するのが悪いんでしょ?」
耕平は、白い容器を取り出すと、蓋を開けた。
「ちょっとしみるよ~」
耕平が容器を摘むと、空気の漏れるような音と共に霧が噴き出し、すなをの腕にかかる。
「いっ――!」
すなをは、息を呑み込むと、歯を食いしばった。
赤くなっている部分を中心に泡が立ち上る。
本来であれば、逃げ出すところであるが、耕平が手を握っているので、動けない。
耕平はすかさず、白い綿を取り出し、そっと、すなをの傷口にあてる。
白い綿がじわじわと赤くなっていく。
「思ったより深い傷だな」
「だ、大丈夫だって。あたし、悪魔なんだよ? コロップも居るし、すぐに治るって」
顔をしかめる耕平に、すなをは引きつった笑みを向けた。
「コロップ?」
耕平が、すなをを見る。
「あ、や、ま魔法、回復の魔法だよっ」
慌てて取り繕うすなを。
「ふぅん。だけど、魔法は禁止だからね」
「ですよね~」
少しの間すなをの顔を見ていた耕平は、再び下を向くと、治療を再開する。
すなをの身体を、速い鼓動に同期して鋭い痛みと鈍い痛みが交互に突き抜ける。
でも、何でだろう。傷口は痛いのに、昔みたいに嫌な気分にならない。
すなをは不思議に思った。
耕平は、新しい綿を当てる。
「……こんなものか」
しばらく様子を見ていた耕平は、箱からガーゼを取り出すと、軟膏を塗り、すなをの腕に当てた。
「ひゃっ!」
すなをが思いっきり腕を引っ込め、耕平は慌ててバランスを取る。
「動かないでっ!」
そのまま、耕平は包帯を取り出すと、ガーゼを押さえながら、器用に巻き付け始めた。




