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 草木も眠る丑三つ時

 ……よりも数時間後、漆黒の空が白み始める頃、耕平は、心地よい眠りの最中にあった。


 ベッドの脇には『簡単! 自分でやるリフォーム』と言う本が無造作に置かれており、部屋の端にはベニヤ板の切れ端や両刃ののこぎりや、金槌が転がっている。

 窓の外では、雀達が朝の集会場へと赴き、生い茂る草むらでは、朝露の中、虫の活動が始まる。

 その、穏やかな朝の音が、

 不意に止まった。


 ……

 静寂。


 耕平の寝息が、部屋の中を木霊する。

 と、


 ズバ――――――ン


 何の前触れもなく、雷の直撃を受けたような、腹の底から響き渡り、頭頂と足先まで一気に駆けめぐる爆音と共に、耕平の安らかな眠りが、強制的に中断させられたことは言うまでもない。

 耕平は、何が起きたのかを理解出来ずに、中途半端に上半身を起こした状態で、ぼんやりと薄暗い室内の様子をうかがう。

 嫌な汗が身体中をじっとりと覆い、心臓はこれでもかと言わんばかりに高速に血液を送る。


 ゴト


 部屋の反対側、つまり、押し入れの中で、何か重い物が動くような、奇妙な音がした。

 耕平の緊張が一気に高まる。

「――ったたたたぁ~」

 しかし、直後、聞き覚えのある声が耳から飛び込んだ瞬間、耕平の緊張が解け、意識が一気に覚醒した。

 耕平は、布団をはね除けると、電気を点け、眩しさに目を細めながら、つかつかと押し入れに向かう。

 仏頂面のまま、耕平はふすまに手を掛けると、思いっきり開いた。

「わっ! あ~っ」

 声と共に、青い髪の少女が耕平に覆い被さり、耕平は、視界を奪われバランスを崩す。

「あっ、ちょっ……、すなをっ!」

 すなをの身体に顔を埋める形となり、実際に聞こえたのは、うめき声のような音だけ。

 ズンと言う痛々しい音と共に、耕平はそのまま仰向けに倒れ、ちょうどすなをが耕平を押し倒す格好で、床に横たわった。

 お互いの鼓動を身体で感じつつ、しばし沈黙。

 すなをが我に返った。

「あっ! ごごめんねっ」

 すなをは、顔を赤くし、慌てて身体を起こす。

 耕平も、再び上昇している鼓動を感じつつ、むくりと起きあがった。

「すなを?」

「よかった~。コーヘイの部屋だ」

 すなをは、潤んだ目で笑顔を見せた。

「すなを……」

 思考がはっきりするに連れ、耕平は、いつの間にか、鼓動の高鳴りが別の意味に変わっていることに気付く。


 耕平の中で沸々と怒りが沸き上がる。

 そもそも、今、何時だと思っているんだ?

 耕平は、ちらりと四時三十五分を示している目覚まし時計を見る。

 耕平の表情が険しくなるが、すなをは気付かない。

「もう、還ってこれないかと思ったよ。危機いっはふ――……、ほーふぇい、ひはい。ひはいほ~」

「何が『良かった~』だっ! ちっとも良くないだろ。大体どこから出てきてるんだ? 昨日せっかく直したんだぞ? 屋根。また穴開けちゃってー!」

 耕平は、押し入れの屋根越しに青空を見ると、思いっきりすなをの頬をつねる。

 眠さも手伝い、怒りは当社比倍増である。

「いはいって! ホーヘイ!」

 すなをは、身体をくねらせ、逃れようとする。

「反省の色が無いようだな!」

 耕平はさらに力を入れる。

「あだだだだだ! ほんほい、いはい!」

「ごめんなさいはっ?」

「! ……ほ、ほへんははい」

 すなをはハッと気付き、謝った。


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