3-(4-1)契約解除
草木も眠る丑三つ時
……よりも数時間後、漆黒の空が白み始める頃、耕平は、心地よい眠りの最中にあった。
ベッドの脇には『簡単! 自分でやるリフォーム』と言う本が無造作に置かれており、部屋の端にはベニヤ板の切れ端や両刃ののこぎりや、金槌が転がっている。
窓の外では、雀達が朝の集会場へと赴き、生い茂る草むらでは、朝露の中、虫の活動が始まる。
その、穏やかな朝の音が、
不意に止まった。
……
静寂。
耕平の寝息が、部屋の中を木霊する。
と、
ズバ――――――ン
何の前触れもなく、雷の直撃を受けたような、腹の底から響き渡り、頭頂と足先まで一気に駆けめぐる爆音と共に、耕平の安らかな眠りが、強制的に中断させられたことは言うまでもない。
耕平は、何が起きたのかを理解出来ずに、中途半端に上半身を起こした状態で、ぼんやりと薄暗い室内の様子をうかがう。
嫌な汗が身体中をじっとりと覆い、心臓はこれでもかと言わんばかりに高速に血液を送る。
ゴト
部屋の反対側、つまり、押し入れの中で、何か重い物が動くような、奇妙な音がした。
耕平の緊張が一気に高まる。
「――ったたたたぁ~」
しかし、直後、聞き覚えのある声が耳から飛び込んだ瞬間、耕平の緊張が解け、意識が一気に覚醒した。
耕平は、布団をはね除けると、電気を点け、眩しさに目を細めながら、つかつかと押し入れに向かう。
仏頂面のまま、耕平はふすまに手を掛けると、思いっきり開いた。
「わっ! あ~っ」
声と共に、青い髪の少女が耕平に覆い被さり、耕平は、視界を奪われバランスを崩す。
「あっ、ちょっ……、すなをっ!」
すなをの身体に顔を埋める形となり、実際に聞こえたのは、うめき声のような音だけ。
ズンと言う痛々しい音と共に、耕平はそのまま仰向けに倒れ、ちょうどすなをが耕平を押し倒す格好で、床に横たわった。
お互いの鼓動を身体で感じつつ、しばし沈黙。
すなをが我に返った。
「あっ! ごごめんねっ」
すなをは、顔を赤くし、慌てて身体を起こす。
耕平も、再び上昇している鼓動を感じつつ、むくりと起きあがった。
「すなを?」
「よかった~。コーヘイの部屋だ」
すなをは、潤んだ目で笑顔を見せた。
「すなを……」
思考がはっきりするに連れ、耕平は、いつの間にか、鼓動の高鳴りが別の意味に変わっていることに気付く。
耕平の中で沸々と怒りが沸き上がる。
そもそも、今、何時だと思っているんだ?
耕平は、ちらりと四時三十五分を示している目覚まし時計を見る。
耕平の表情が険しくなるが、すなをは気付かない。
「もう、還ってこれないかと思ったよ。危機いっはふ――……、ほーふぇい、ひはい。ひはいほ~」
「何が『良かった~』だっ! ちっとも良くないだろ。大体どこから出てきてるんだ? 昨日せっかく直したんだぞ? 屋根。また穴開けちゃってー!」
耕平は、押し入れの屋根越しに青空を見ると、思いっきりすなをの頬をつねる。
眠さも手伝い、怒りは当社比倍増である。
「いはいって! ホーヘイ!」
すなをは、身体をくねらせ、逃れようとする。
「反省の色が無いようだな!」
耕平はさらに力を入れる。
「あだだだだだ! ほんほい、いはい!」
「ごめんなさいはっ?」
「! ……ほ、ほへんははい」
すなをはハッと気付き、謝った。




