3-(3-3)
ざわめく木々。
木々のざわめきに応じて、月の光がまばらに降り注ぐ。
その光が、真っ黒なキャンバスに、様々な模様を描きつつ変化していく。
ぼんやりと地面を眺めるすなをの髪が風に靡き、透き通る青に月光の黄色が混じり、不思議な色を演出する。
「ねぇ、コロップ。風、止まないかなぁ」
「あと、一分で止むはずだ」
「そう……」
すなをは、ぼんやりと、地面で変化する黄色い光を見ながら、ため息をつく。
「何か、気になることがあるのか? 一分が、それほどのロスとは思えないが?」
「え? あ、別に、それはいいの」
コロップの問いに、自分の腰の辺りに視線を移し、すなを。
「じゃあ、何故ため息をつく必要がある?」
「……今日は、還ってこられるかな」
「どういう事だ?」
すなをが顔を上げる。何か思い詰めたような表情。
「……ああ、昨日は大変だったからな。だが、銃撃を受けようとも、危なくなったらすぐゲートを開いて逃げれば良い。ゲートを開くだけの力を温存しておけば、還ること自体は問題ない」
「解ってるわ。昨日は少し深追いしすぎたし。今日は、攻撃受けた時点で、すぐに逃げるわ」
すなをは頷く。
「そうそう、昨日のは一度の空間移動距離としては規定ギリギリだ。あれ以上だと、どこにたどり着くか判らないぞ。何度も言うが、願い事の件は、『出来れば』程度でいいのだ。あんなに必死になる理由が見当たらない。大体、お前の行動は無計画極まりないのだ、もう少し考えてだな――」
「うるさいわねっ! 解ってるって言ってるでしょ? 無理はしない。あと、コーヘイの所までゲート二回の移動でギリギリ、通常は三回で移動すべき。そう言うことじゃん。今日は上手くやるし!」
「解っているなら良いが……」
その時、風が止んだ。
コロップを睨み付けていたすなをは、呼吸を整えると、表情を改めた。
「さあ、行くよ!」
「何処に行くの?」
突然、背後でする張りのある少女の声。
すなをは、文字通り飛び上がった。
気を失わんばかりの動揺を必死に抑え、暗がりに視線を走らせる。
「……あおい……ちゃん?」
ひときわ大きな木の脇に佇んでいる、長身で髪を一つにまとめている、高山学園の制服を着ている少女。
右手に何かをぶら下げている。
知っている人、と言うことで、幾分か鼓動が落ち着く。
動作を再開した、すなをの記憶回路が二日前の映像を映し出す。
ジャージか制服かの違いだけで、間違いなく、葵である。
「よっ! 覚えててくれたんだ~。嬉しいな」
葵は、笑顔を作ると、軽く左手を挙げた。
「ああおいちゃんは、どうしてここに?」
気付かれていませんように、と祈りながら、様子を探る。
「どうして? ってのは、あたしが聞きたいね。すなをこそ、こんな夜更けに、人気のない公園で何してるのさ。てか、趣味は独り言か?」
「えっ? あ、……えっと」
まるで、審判者のような厳しい追及に、すなをは言葉に詰まる。
実際は、ただ単に、思った事を口にしただけだろうが。
「あたしはさ、家がこの近くだし。今は部活の帰り。さっきまで漫喫でみんなとだべっててさ、っで、通りかかったら、すなをがいたってわけ」
すなをの動揺に気付いたのか気付いていないのか、葵は、右手の鞄をすなをに見せる。
葵は、そのまま、すたすたとすなをに近づいてきた。
何故か、再びすなをの鼓動が速くなる。
「あのさ、今日は、あまり日が良くないし、止めた方が良いよ?」
ずい、とすなをに顔を寄せ、葵は囁いた。
「えっ? な、何を?」
すなをは、思わず一歩後ずさり、ひときわ大きな木の陰に入る感じになる。
葵が何を言っているのか解らない。
いや、言葉の意味は分かる。葵がどういう意図で、その言葉を発しているのか解らないのだ。
(この人、何者?)
すなをの中で、何かが警告を発する。




