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耕平の事は、今まで、あゆみと大山との間で何かと話題に上がっていた。
言うまでもなく、ほのかとの関係についてである。
ほのかとあゆみは高山学園高等部からの付き合いであるが、お互いさっぱりした性格が功を奏したのか、すぐに仲良くなった。
ほのかの交友関係については、実はあまり知らないが、付き合っている男性は居ないこと、耕平と幼なじみであると言うことは、あゆみのデータにインプットされている。
ただ、残念ながら、少なくともほのかには、耕平に対するそういった感情を持ち合わせていないことも確認済みである。
結局、近すぎるのであろう。と、あゆみは結論づけている。
要は、もはや姉弟の関係。進展は望めない。
そんなところに現れた、謎の少女。
間違えて空間移動の波動を使って転送してしまった、と言うのは意味が分からないが。
正直、二人をくっつけようと言い出した動機は、面白半分だったと言われても、否めない。
いつもはあゆみの発言に冷静な評価を述べる大山が、「それは名案!」って感じで、珍しく食いつきが良かったのは、今思えば不思議なのだが、とにかく、すぐに実行に移された。
ただ、その子が何処の学校の子であるにせよ、せっかくのご縁であるし、しかも、耕平の誘いに乗ったと言うことは、結構脈があるのではないか?
関係が良好であれば、仮に遠く離れたとしても、所詮は同じ地球上、何とかなると思う。
可愛いらしいし。
ここまで考えたところで、あゆみは、もうひとつの重要項目にたどり着く。
「ところでさ、浅倉君の彼女の……すなをちゃんだっけ?」
「まだ、彼女とか言う関係じゃないが」
「いいからいいから、どうせ、近々そうなるんだし。とにかく、そのすなをちゃん、もう誘ってくれた? 早くうちにも連れてきてよ。可愛いんでしょ? いつ紹介してくれるの?」
その言葉に、大山が固まる。
「い、いや」
「な~に? まさか、まだ声かけてないの?」
あゆみは、半眼になると大山の脇腹をつつく。
「だっ! ちゃんと誘ったぞ? ただ、神崎君が……」
「止めたって言いたいんでしょ? ほのかは、そりゃ、突っ込み役なんだから仕方ないじゃん。で、何時来るの?」
あゆみの突っ込みに生命線を模索していた大山は、「そうだ!」と手を打つ。
「そうそう! そもそも、あの子は、あれ以来学校に来ていないんだ」
「えっ? そうなの?」
あゆみは大声を上げ、直後、口に手を当て、息を呑むと、表情を曇らせた。
「……ああ、そうか。うちの学校の子って訳じゃないものね。残念。……あたしったら、すなをちゃんが転入した気になっていたし」
信じられないぐらいしょげかえるあゆみを見、大山は肩を寄せる。
「ま、一回ぐらいは学校に連れてくるかも知れないし、その時は、あゆみにもちゃんと紹介するから」
「……うん」
微笑みを取り戻すあゆみを見、頷いていた大山の視線が固まる。
「ん? どうしたの? 鉄ちゃん」
大山の様子に気付いたあゆみは、視線を追った。
視線の先では、黒髪をポニーテールにしている、長身の女の子が店の脇をすたすたと歩いていく。
よく見ると、高山学園のジャージを着ている。
「ああ、うちの学校の子じゃない。でも、見たこと無いなぁ。制服じゃないから学年判らないし。こんな時間に一人で何してるんだろ。てか、鉄ちゃん知り合い?」
「……」
あゆみの質問に答えず、大山は、何やらぶつぶつと呟いている。
「鉄ちゃん?」
「……」
「ねえってば~、知・り・合・い?」
あゆみは、グラスのストローを抜き取ると、ぼーっと窓の外を眺める大山の頬をつつく。
「なっ! つ冷たい!」
大山は、跳ね上がると、慌ててあゆみの方を向いた。
あゆみはクスクスと笑いながら、同じ質問を繰り返す。
「三回目。あの子は、鉄ちゃんの知り合いかな?」
「ん? ああ、別に……」
「別にぃ? あたしに隠し事とはいい度胸してるじゃない!」
あゆみは、口元に笑みを浮かべたまま、大山に身体をぶつけると、睨み付けた。
「あ、い、いや、……あっ、やっぱり!」
しかし、大山は叫ぶと、慌ただしく席を立ち、出口へと向かう。
「鉄ちゃん?」
「すまん。少し待ってて!」
呼び止めるあゆみに、短くそれだけ言うと、扉の外へと姿を消した。
「……ったく、まさかあの子が宇宙人だったとか言い出すんじゃないでしょうね」
あゆみは、窓の外を走っていく大山をぼんやり見ながら、呟く。
大山のこういうところは、あゆみにもついて行けない、と思う瞬間がある。
学年主席の頭脳を持つ学生とは思えない、ワールドを持っているのだ。
耕平やほのかは、さぞ振り回されていることだろう。
だけど、それだからこそ、普通じゃないからこそ、大山に興味を持ったのだと思う。
まあ、実際一番解らないのは、自分自身ね、とあゆみは結論づける。
その、あゆみの視線の先で、大山が立ち止まり、道路から何かを拾い上げたところで、あゆみは、大山の行動の内容を理解した。
「何だ、落とし物か……」
窓の外では、大山が手帳のような物をめくり、小走りで前方に向かいつつ、何かを叫んでいる。
やがて、大山の姿が完全に見えなくなった。
「まったく、デート中に他の女の子追いかけるなんて……」
あゆみは一瞬眉根を寄せたが、すぐに笑みを浮かべた。
「鉄ちゃんらしいわねっ!」
その後、戻ってきた大山によって、あゆみは、彼女が一年生で作本葵と言う名前であると言う、どうでも良い情報を得ることになる。




