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3-(2-2)

「そうか……」

 大山も息を吐き、しかし、何か腑に落ちないという表情をする。

「……して、何だか元気が無いような気がするのだが、どうしたというのだ?」


「判らないんです」

 ぽつりと呟く耕平。

「何が判らないのかね?」

 聞き返す大山に、しかし、耕平は何となく机の上を眺めたまま、何回目かのため息をつくと、口を閉ざす。

 (浅倉君……、まさか!)

 (恋だわ!)

 (そうだな。恋だ)

「ちっ、違いますよ!」

 大山とほのかの囁きに気付いた耕平が、顔を真っ赤にして否定した。

 勢い余ってか、テーブルがガタンと音を立てる。

 (恋だ)

 (うん、確定!)

「だっ、だから、そんなんじゃないんですってばっ!」

 耕平の悲鳴に近い声に、ほのかは満面の笑みで、ピピピと自己主張しながら、勢いよく蒸気を噴き出すポットへと向かい、大山も、口の端を上げ、耕平に向き直る。


「いや、健全な高校男児なら、恋の一つや二つ、おかしな事じゃないぞ?」

「いや、ですから……」

「耕平? 別に、あの子だからって、負い目を感じることはないのよ? 同姓のあたしから見ても、黙っていればあの子は十分可愛いし、それに、耕平との関係が良いなら、問題ないじゃん。初めての時の態度なんて、些細なことだわ。あたし、応援するし」

「だーかーら、違うって!」

 耕平は、両手で拳を作り、ブンブンと首を横に振る。

「でも、あの子が居なくなったらどうしよう? とでも思っていたんじゃないのかい?」

「――っ!」

 大山のこの言葉に、耕平は息を呑む。

 全く、この男は、エスパーじゃないのか? ってぐらいに、的確に自分の心情を言い当てる。

 大山にはかなわない、と耕平は思った。

 (図星か……)

 (ふふ、さすがは先輩。普段はボケ老人なのに)

 (前半部分だけ、受け取っておくよ)

 大山とほのかの囁きを聞き流しながら、耕平は、そうなのかも知れない、と考えていた。

 でも……、と耕平は思う。

 何か、それだけではない気がする。


 今朝、部屋にすなをが居なかった時、漠然と感じた不安は何だったのか。

 そもそも、朝の忙しい最中、すなをに、わざわざ声を掛けようとした自分は、何だったのか。

 昨日の朝までは、そんな気も起こらなかったのに。


「大丈夫だ。身元がわかったとしても、この時代、連絡を取る手段はいくらでもある。会いに行くことだって出来る。人間の編み出した、科学の力があるのだ。重要なのは、当人同士の気持ちだと言うことだ。どんなに離れようとも、所詮は、同じ地球上の話」

「先輩、今・日・は、冴えてますねっ」

 湯気の立つカップを、耕平と大山の前に置きながら、ほのか。

「『今日は』ってところが引っかかるが、褒め言葉と受け取ろう」

 ……そうか! 

 笑う大山を見ながら、耕平は、今の大山の言葉で、漠然と感じた不安の正体にたどり着く。

 確かに大山の言う通りだが、大山の話は、相手が人間だったらの話。

 すなをは、悪魔なのだ。

 そもそも、『同じ地球上』と言う前提が成り立たないのだ。

 居なくなったら最後、二度と会うことは出来ないだろう。

 すなをは、何らかの目的で耕平の所に居て、目的が達成されれば居なくなるはずなのだ。

 悪魔は、人間を下等動物と見なしていると、どこかの本で読んだことがある。

 所詮、すなをは目的のための手段として耕平の所に居るに過ぎない。

 耕平という人間を利用しているに過ぎない。

 耕平の想いが届くことはないのだ。


 想い? ……え?


 耕平は、自分のこの思考にびっくりする。

 今朝もそうだが、一体、自分は何を期待しているのか。

 とにかく、すなをは耕平を見ている訳じゃない、そういうことなのだ。

 だから……

「だから、駄目なんです」

「『だから』と言う意味が解らんが、とにかく、自ら可能性を否定することはないぞ?」

 カップを口に運びながら、大山。

「そうよ、耕平。恋に不安はつきものよ? ほら、あたしも協力するって言ってるじゃん?」

「ありがと。……でも、駄目なんだ」

 ほのかの笑みに、耕平は曖昧な表情で応える。

 そう、その先に行ってはいけない。

 引き返すなら、今だ。

 そんな気がする。

 だって、そこに行って、後悔したくないから……。

 でも、頭では解っているのに、耕平の中で勝手に大きくなっていくものは止められない。


「そっか~。うん、確かに、言葉にして伝えなきゃ何も進まないって話もあるけど、まだその時期が来ていないのに、無理に行動しても駄目ね。……まあ、ゆっくりと、ね?」

 ほのかは困ったような表情を浮かべていたが、小首を傾げ、再びにっこりと笑った。

「おお、女の子というのはそういうものなのか」などと大げさに感心する大山を横目で見ながら、耕平は、何て言うか、ほのかの大らかさに感心する。

 普通なら、「もう、何うじうじ言ってるのよ! 男らしくない!」とか言われても不思議ではない。

 昔から、いつも、耕平が負の無限ループに陥っているとき、ほのかは、根気よく耕平の気持ちをほぐしてくれるのだ。

 幼なじみ故……だろうか。

 そうだ、これ以上、ここで悩んでいても、何も解決しないし、みんなにも悪い。

 それに、とりとめのないことを口にしたせいか、幾分か心が軽くなっている。

 耕平は、一気にお茶を飲み干すと、立ち上がった。

「すみません。今日は帰ります。……先輩、新しいの無いですか?」

「あ、ああ、そうか。で、……すまん、昨日は本当に下らないのしか落ちていなかった。鋭意捜索中なので、少し時間をくれないか」

 ぼんやりと湯気を眺めていた大山が、耕平の方を振り向き、申し訳なさそうな顔をする。

「あ、良いです。催促した訳じゃないんです。では」

 残念ながら、気を紛らわす物はないか……。

 耕平は、心の中でため息をつき、部室を後にした。


「……あと、一押し、かな」

「え? ……ああ、脈あるんだし、どんどん行動すればいいじゃん、って思いますよね~」

 大山の言葉の意味が一瞬解らなかったが、耕平の事だと気付き、ほのかは、相づちを打った。


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