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2-(4-2)

 すなをの部屋に、思い詰めたような表情の耕平が来たときは、また何かやらかしたのかと思った。

 とにかく契約解除されないように謝らないと、と思い、耕平の所に駆けつけたのだ。


『あのさ、ジョーズカフェってところのチケットもらってさ、あの、……つまり、良かったらこれから一緒に行かない?』


 そのすなをに向かって、耕平が発した言葉は、すなをのどの予想とも違った。

 すなをが今まで受けた言葉のどれとも違った。

 どこかに一緒に行く、などと、今まで言われたことがない。

 身体の中に、また、『あの感覚』が広がっていくのを感じた。

 泣き出したいような、でも、とても暖かいような。

 一つ言えることは、その感覚は、決して不快なものではなかったと言うこと。

 そんな感覚に戸惑い、でたらめなことを口走ってしまったけど。


 耕平の不思議は他にもある。

『あの感覚』を初めて感じた昨日のこと。

 あの時……てっきり契約解除されると思った。

 もう駄目かと思った。

 あんなに怖い耕平は、初めてだった。

 だけど、契約解除されなかった。

 しかも、あの後、耕平は「一緒に帰ろう」と言ったのだ。


 何で?

 怒ってたんじゃないの?


 すなをは、何となく頬をさすりながら、思考を巡らせる。

 今までの契約者は、魔法を失敗すると、鞭を振るい、すなをが悲鳴を上げるたびに、蔑むような笑みを浮かべたのだ。

 そして、飽きると、契約解除をちらつかせながら、懇願するすなをの姿を楽しみ、すなをを恐怖と絶望のどん底に陥れた後、契約解除された。

 今までの契約者は、みんなそうだった。

 正式ライセンスがない、たったそれだけのことで、ここまで虐げられるのか、と何度も悔しい思いをしたものだ。

 もっとも、魔法も失敗していたのだけど……。

 でも、耕平は違う。

 何て言うか、契約者と悪魔という関係以上のものを感じる。

 まるで……

「そっ、それはないわね」

 ここまで考えたとき、すなをの鼓動が激しくなり、直前の考えを打ち消す。

 そんな思考が浮かんでしまう、期待してしまう、自分が怖い。

 そこにたどり着いた瞬間、〈自分〉が失われてしまうような。

 守らなければいけないものを、守れなくなってしまうような。


 あれ? あたしは、何を守りたかったんだっけ?


 再び思考が破綻し、ため息をつく。

 ……最後のチャンスで、あたしも不安定なのかしら

「で、どうするつもりだ?」

 腰の辺りから聞こえる声に、すなをは思考を一旦中断する。

「どうって、決まってるじゃん。ネバダって所に行くのよ。あと二回ゲートをくぐれば到着するわ」

「ゲートまでの飛行を目撃されるリスクがあるから、あまり賢い選択じゃないな」

「仕方ないじゃん。コーヘイの言うとおり、5400ノーティカルマイルも飛べないし、いっぺんに転移したら、それだけで力尽きちゃうし」

「確かにそうだが……」

「対空監視電波が飛んで無く、かつ、地上から肉眼で見えない高度を維持すること……、学校で習った通りにしてるから大丈夫。コーヘイのコンパスでも高度わかるし。単位違うけど……」

「ふむ」


 すなをは、再び進行方向に視線を送った。

「それにしても、何で急に願い事なんかやり出したのだ」

「きゅ、急にじゃないわよ! 元々、そろそろ行こうかなと思っていたんだから。うん、絶対そうよ! 全く持って予定通りの行動だし」

 またしても、的確に矛盾点を突く付くコロップに、すなをは狼狽する。

「そうか。別に構わんが。私の知っている元々の予定は、願い事など無視して、あの人間を生け贄にするはずだったと思うが。そうすれば、お前は生き延びられるのだ。今回だけは特別制度があるのだから、わざわざ労する必要もないだろうに。お前もそう言ったではないか」


『生け贄』と言う言葉に、すなをは頭がしびれるような感覚を覚える。

 説明は出来ないが、それをすることは、いけないような気がした。

 いや、したくないと思った。

「べっ、別に、願い事ぐらい叶えてあげたっていいじゃん。もともと悪魔の義務なんだし。そもそも、それが上手くいけば、なんにも問題ないでしょ?」

「確かにそうだな。正攻法も悪くない」


 良かった。

 コロップには気付かれなかったようだ。

 すなをは、願い事を叶えようと思い立った本当の理由を、心の奥底に押し込めた。


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