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確かに先輩の言った通りだ。
と、耕平は、明るい室内で、大山の経験に対し、本日何度目かの感心をする。
目の前では、すなをが、興味深げに室内を見回している。
先ほどと同じような光景であるが、背景が異なる。
部屋の隅には学習机。
反対側には、ふすまが四分の一ほど開いている押し入れ。
窓際には木製のベッド。
耕平がよく知っている、松年寺にある自分の部屋だ。
外はすっかり暗くなっており、ベッドの脇にある目覚まし時計を見ると、午後八時過ぎを指している。
感心した、と言う点は、つい今し方のすなをの行動だ。
残念ながら、すなをと耕平の共通話題が全く無いことに気付いたときは手遅れで、ジョーズカフェでもその帰り道でも、会話と言えば、目の前で起こる直接的な内容から脱せず、お世辞にも盛り上がったとは言えない。
だけど、十分だった。
耕平自身上手く説明出来ないが、その空間にすなをといる、と言うだけで、何故かとても居心地が良かったのだ。
そして、松年寺に着いて、耕平の部屋に入ろうとしたとき、すなをは、まるで、そうすることが当然のように、一緒に部屋に入ってきたのだ。
曖昧な笑みを残し、自分の部屋へと消えた、昨日とは大違い。
恐らく、今日のことは、すなをも同じように感じていたのだろう……と、耕平は思う。
「コーヘイのお父さんってさ、何処にいるの?」
「え?」
耕平が思考を現実に戻すと、すなをが、両手を股の中に入れるような格好でちょこんと座り、はにかみながら耕平を見ている。
その笑顔に、ドキッとし、焦る耕平。
僅かの後、直前の音声が脳髄に達し、言葉として解釈される。
遅すぎる思考のため、「実は、もういないけど……」、と言う言葉が、耕平の口から発せられることはなかった。
「あっ、だからっ、コーヘイのお父さんって、最後に何処に行ったのかなって」
間髪入れずにすなをが言い直す。
実際は、数秒の間をおいて。
「ああ、うん。僕も良く覚えていないけど、最後はネバダの空軍基地にある研究所に研究者として派遣されたって、叔父さんから聞いたよ。でも――」
「あっ、いいのっ。ただ、何となく知りたかっただけ。ごめんね? 嫌なら、もう聞かないから」
しかし、耕平の複雑な表情を別の意味と捉えたのか、慌てて手を振り、耕平の言葉を遮るすなを。
耕平は、そんなすなをの姿に、わざわざ「本当のこと」を説明することを止めた。
そう、どうせ、他愛もない約束。
すなをは、ちゃんと初めての日のことを覚えてくれていて、それを耕平にアピールしているのだろう。
せっかく良い雰囲気なのだから、
ここで、父親が既にこの世にいないことを言って、すなををがっかりさせたくない。
「ふふ、別に嫌なことじゃ無いよ。すなをが知りたいんなら、教えてあげる」
耕平は、押し入れに向かうと、ふすまを開けた。
かびくさい臭いと共に、中が明かりで照らされる。
穴の開いた天井部分には、応急処置として、目張りがしてある。
事情も聞かずに、大山が、木材とリフォームの本を持ってきてくれたので、数日以内に修理する予定だ。
耕平は、手を伸ばし、一抱えぐらいの丸いものを取り出した。
水色の地に、様々な色で複雑な模様が描き込まれている。




