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2-(3-1)ネバダ

 全面がガラス張りの室内へと、紅い光が降り注ぐ。

 ガラス一枚隔てた外では、夕闇が迫る道路を足早に行き交う人々。

 携帯電話で何かを話しながら歩く、スーツ姿の女性。

 塾へ行くところであろうか、何かに耐えるように道路を睨みつけながら黙々と歩みを進めている少年。


 室内には、等間隔に並べられた白い大きなテーブル。

それぞれのテーブルに二、三人ずつ人が付いており、何やら大きな食べ物と格闘していたり、お茶を飲んだりして、会話を弾ませている。

 カップルとおぼしき、制服姿の高校生も結構いる。


「ねえ、コロップ。ちょっと、これ、やばくない?」

 先ほどから表情が緩みっぱなしのすなをが、ティラミスを皿に移しながら、楽しげに呟く。

「ああ、確かに危険だな。落ちるぞ、それ」

 コロップの言葉に、すなをは慌てて皿のバランスを取り直す。

「もー、意味違うし。確かに落ちそうだったけど」

「そうか」

「それよりさ~、ケーキも飲み物も、あと、フルーツも好きなだけ取って良いんだって~」

「ああ、そう」

 コロップの呆れた様子にも動じず、すなをは、目を輝かせ、カウンターに並んでいるケーキを見比べる。

「何か、しあわ――」

「ふふ、楽しそうだね。良かった」

 突然背後からする耕平の声。

 どくんと心臓が脈打ち、すなをは、慌てて口を閉ざす。

 表情を作り替えるのに数秒。ゆっくりと振り向く。

 耕平が、ニコニコしながらすなをを見ていた。

「べっ、別に、楽しそうとかじゃないし」

 激しい鼓動が聞こえないか、心配だ。

「そっか。……ごめん」

 耕平は少し複雑な表情をした。

「違っ、……楽しくないとか、そんなじゃ無くって……」

 ……何で謝るのよ!

 耕平のその表情に、すなをは慌てる。

 自分でも何を言っているのか判らない。

「うん、大丈夫。その山盛りのケーキを見たら、何となく判るよ」

 すなをの皿を見ながら、耕平は微笑んだ。

 すなをの頬が上気し、汗が噴き出す。

「やっ、そっ、これはっ、人間の世界の調査よっ。仕方ないのっ! ぎ義務でやってるのっ」

「義務?」

「そ、そうよっ。この世界の調査は、悪魔の義務なんだからっ」

「……まあいいや、でも、いくら調査だからって言っても、取った物は全部食べないといけないルールだから、気をつけてね。食べなきゃ契約解除ね」

「わ、わかってるわよっ!」

「そっか」

 耕平は、固い笑みを浮かべたまま、ドリンクサーバーでジュースを入れ、もう一度すなををちらりと見ると、席に戻っていった。


「悪魔の義務に、そんなものはなかったはずだが?」

「いちいち突っ込まないでっ!」

 すなをはコロップを睨み付けるが、人が近づいて来たので、慌てて口を塞ぐ。

 目の前を楽しそうに喋りながら通り過ぎる、制服姿の男女。

 すなをは、大きくため息をついた。

「もう、……何でこうなるのよ」

 せっかく連れてきてくれたのに、どうせなら、あんな風に楽しく会話したいよ。

 でも、どうやったら、あんな風になれるのかな?

 耕平の声を聞くと、何故か反射的に、耕平に気持ちを悟られまいと、自分を守る言葉を発してしまう。

 あとは、発してしまった言葉のつじつま合わせに終始する始末。

 だって、今までのキャラが突然変わったら、おかしいじゃん?

 何か、不自然じゃないきっかけが欲しいな……。

 あれ? てか、そもそも、何でそうなりたいんだろう。

 いったい、どうしちゃったの? あたし。

 すなをは、自分が解らなくなり、もう一度ため息をついた。

 ……そっか、

 契約者とだって、仲が悪いより良い方が、何かと都合が良いわよね。うん、そういう事だわ。

 よし、次から……。

 テーブルに着いたら、絶対に愛想良くしよう。そうしよう。

 キャラを変える、ラストチャンスだわ。

 や、そっ、そうじゃなくって! 契約者との円滑な関係、それは、悪魔の義務だわ。

 先生も契約者を怒らせないようにって言ってたし。

 だから、おかしくないでしょ? 別に。


「あの人間の言っていることは正しい。そのぐらいにしておいた方が良い」

 すなをの思考を中断するコロップの声。

「そうねっ。契約解除されたら困るし」

「いや、そう言う問題では……。まあ、いいや。それから……」

「何よっ」

「嬉しいなら、素直にその心情を伝えた方が良い。その方が気に入られるぞ」

「う、うるさいわねっ! 判ってるわよっ!」

 核心を突かれたすなをは、コロップを睨み付けると、大股で『ケーキバー』と書かれているカウンターを後にした。


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