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「――!」
絶望感に苛まれながら『その瞬間』を待ち、すなをは身体を緊張させた。
「……」
「? ……ほーふぇい?」
あれ? まだ身体の感覚が……、て言うか痛いんだけど。
すなをがゆっくりと目を開けると、耕平が、厳しい表情ですなをの両頬をつねっていた。
「……」
「ひはい、ほーふぇい」
頬を引っ張られ、上手く喋れない。
すなをは、耕平の手を掴み、引きはがそうとする。
「ごめんなさいは?」
「ふえ?」
「約束破ったでしょ? ごめんなさいは?」
「はっへ~」
「契約解除されたいの?」
耕平は指の力を強める。
「……ほ、ほへんふぁはい」
すなをが謝ると、耕平は微笑み、指を離した。
すなをは涙目で両頬をさする。
「もー、本当に頼むよ? もし、すなをが悪魔だってばれたら、僕じゃどうしようもなくなる。すなをだって、どうなるか分からないんだよ?」
「え?」
耕平の言葉の意味がわからず、すなをは耕平を見上げる。
「だからっ、もしそうなったら、僕ではすなをを守ることが出来なくなるって事っ!」
耕平は、顔を赤くし、怒りを含んだ声で言った。
それって、どういう……。
それに、今回も契約解除されなかった。
どうして? すなをは、頬の痛みを感じながら、目の前の耕平を理解しようと努めていた。
「まあ、いいけど。……もう、収まったみたいだし」
耕平は、視線をすなをの後ろに投げる。
耕平の言う通り、いつの間にか、女子生徒の叫び声は聞こえなくなっていた。
何故かは解らないが、不完全なすなをの魔法が効力を失ったのだろう。
耕平は、すなをの頭にぽんっと手を置いた。
すなをの鼓動が速くなる。
何故か、耕平の手を振り払う気になれない。
「いい? 絶対に約束は守ってね? 飛ぶのは仕方ないって言ったけど、人前で魔法は禁止。どうせ上手くいかないんだから。失敗したらさっきみたいに騒ぎになるし。次からは気をつけてよ? わかった?」
耕平は、すなをの頭をぐりぐりやると、
「叔母さんが連れてきてくれたんだろ? もう、理事の権限を乱用して~」
恨めしげに、後ろを振り返りながらぼやいた。
耕平の言う通り、すなをが部屋で暇をもてあましていると、美佐がやってきて、「耕平が行ってる学校見に行く?」と言ったのだ。
勉強をする場所の学校には興味がなかったが、『耕平が行ってる』と言う点にすなをは食いつき、美沙に付いてきたのだ。
「……ちょっと片付けてくるから、そこで待ってて。いい? すぐ戻ってくるから、絶対動いちゃ駄目だよ? 一緒に帰ろう。……まあ、余計なお世話かも知れないけど」
耕平は、ちょっと固い笑みをすなをに向けると振り返り、建物の向こうへ歩いていく。
「うん」と言いかけたすなをは、焦てて言葉を飲み込んだ。
「そっ、そうね! 迷子の子供じゃないし。……でも、コーヘイの言うこと聞かないと契約解除にされちゃうから、ここで待ってるわっ」
「そういうこと。よろしくっ!」
耕平は、振り返らず、軽く右手を挙げると、そのまま建物の角を曲がっていった。
すなをは、大きく息を吐き出す。
「まったく、あの人間、悪魔の扱い方を完全に間違えているな」
コロップの呆れたような声は、すなをの耳に届いていなかった。
「『一緒に帰ろう』……かぁ」
何でだろう、泣き出したいような、でも、暖かいような……、不思議な感じ。
すなをは、耕平の手が乗っていた部分の髪を、いつまでも撫でていた。




