2-(2-3)
「きゃああああああーーーっ」
「ちょっと、なにこれなにこれ」
「てか、冷たーい!」
「やだ、前が見えないし~」
「何がどうなって? どうして?」
ゴウゴウと室内で吹き荒れる風。その風が白っぽい。
風にあおられ、ネットが激しく揺れる。
白いボールが少女の手を離れ、風に乗って、あらぬ方向へと飛んでいく。
「なっ、何で? どうして? てか、魔法解除出来ないよっ!」
すなをは、そう叫ぶと、手帳を見ながら何度も同じ言葉を繰り返す。
「発動魔法が違っていたのだろう。つまり、現時点でこの魔法の所有属性はお前じゃないってことだ。魔法解除するには、上位権限を持つ悪魔に頼むか――」
「こんな時まで冷静に講評しないでっ!」
すなをはコロップを睨みつける。
「事実を言ったまでだ。それより、誰か来るぞ」
コロップの言葉に、すなをは弾かれたように顔を上げ、走り出した。
足がもつれて何度も転びそうになりながら。
「あれ、どうするんだ?」
「しっ、知らないよっ!」
「何が『知らない』の?」
突然、目の前に人影が現れる。
「!」
すなをは、文字通り飛び上がった。
「あ、ああおいちゃん、これこれこれはね――」
耕平でないことに安堵のため息をついたが、事態はそれよりも深刻だ。
まさか、今の、見られた? すなをは、必死に言い訳を考える。
「どうしたの? 顔真っ青じゃない」
「え、えっと、早くここから離れないと――」
頭が混乱して、自分でも何を言っているのか解らない。
こんなところを耕平に見つかったら大変、間違いなく契約解除だ。
「む? 急用か? よし、ここはあたしに任せて、早く逃げなっ!」
葵は、じっとすなをの顔を見ていたが、すなをの肩をぽんっと叩くと、片目をつぶった。
「あ、ありがとっ。葵ちゃん」
よかった、気付かれてない。
葵の単純さに救われたすなをは、歩みを速めながら、ちら、と後ろを振り返った。
少女達の悲鳴が切れ切れに聞こえている。
葵が首を傾げながら、向こうの方へ歩いて行く。
「でも、どうしよう。あ――」
葵にばれるのも時間の問題だ。
ため息をつき、再び顔を戻した瞬間、すなをは、ドン、と何かにぶつかった。
上から、はぁはぁ、と荒い息づかいが聞こえる。
すなをは、慌てて後ずさりし、焦点が合ったところで、それが白いカッターシャツだと判る。
「……っ、すなをっ、……なに……をっ」
切れ切れに聞こえる、聞き覚えのあるその声に、すなをの全身の毛が逆立つ。
恐る恐る見上げると、胸に手を当て、呼吸を整えながら、すなをを見下ろす耕平。
「こっ、コーヘイ? ち、違うのっ、これはっ――」
「るさいっ!」
耕平は、すなをの言葉を遮ると、素早く辺りを見回し、すなをの腕をむんずと掴み、大股で歩き始めた。
「あのっ、だだだからっ! そのっ! そんなつもりじゃ……。け、契約解除だけは」
「黙れっ!」
耕平の声に怒りが含まれる。
そのまま無言で、ずんずん進む耕平。
すなをの膝が笑い出す。
思うように足が動かず、何度も躓きながら、耕平に引きずられるように進む。
建物の脇を通り抜け、裏側に回り込む耕平とすなを。
そのままの勢いで、すなをは建物の壁に押しつけられた。
耕平が、すなをの目の前に立ちはだかる。
壁一つ挟んだ室内から、少女達の叫び声が漏れ聞こえる。
耕平は、再びきょろきょろと辺りを見回し、ため息をつくと、にっこりと笑った。
目が笑っていないその笑みが、すなをの恐怖を増大させる。
「人前で魔法使うなって、言ったよね」
「あのっ、でででも――」
歯の根が合わなくなり、かちかちと音がする。
「言ったよねっっ?」
「言った。言ったよ~。言ったけどっ……、でも、だから、お願いっ、悪かったから、赦してっ。もうしないし、契約解除だけは……」
「いーや、もう怒った。絶対に赦さない! 言葉で言って解らないなら、仕方ないよねっ」
耕平が、手をゆっくりと上げた。
身体がはじけそうなほど鼓動が激しくなり、すなをの目の前が暗くなっていく。
(――もう、終わりだわっ!)
すなをは覚悟を決め、目をつぶった。
直後、すなをの頬に鋭い衝撃が走る。




