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2-(2-2)

「ところでさぁ、耕平。あの子どうしたの?」


 ほのかが何かを書類に書き込みながら、耕平に聞く。

 部屋の温度が数度下がるのを、大山、ほのかは感じた。

 (馬鹿っ!)

 と、大山は、ほのかに視線を送る。

 ほのかも慌てて口に手を当てた。

「……全く、大変だったんですよ?」

 耕平は、窓の外を見ながら低い声で言う。

 いつの間にか、太陽の光が雲に阻まれている。

 耕平の視線の先には青い屋根の体育館があり、開け放たれた引き戸から、女子がバレーの試合をしている様子が見える。


「その落ち着いた声が逆に怖いが、部長の責任に於いて、敢えて聞こう。何があった?」

 耕平はゆっくりと振り向き、昨日のすなをの悪行を話そうと、大きく息を吸い込み、

「――!」

 しかし、慌てて口を閉ざす。

「ん? 耕平。どうしたの?」

「あ……、だから、すなをって、……出てきたときから態度悪かったじゃないですか」

 耕平は、どう言い繕おうか悩む。

「素直って言うの? あの子。ふふ、名前と正反対だし。まあ、そりゃ、仲良くなれそうな雰囲気じゃなかったわね。でも、良かったじゃん。無事で。あの子の言う通り、本当に悪魔だったら、耕平、今頃ネズミにされていたかもだし。で、あの子、今何してるの?」

 クスクスと笑いながら、ほのか。

「僕は学校があるから、叔母さんに預けてきた」

 これは本当。

「まあ、浅倉君。とにかく、身元がわかるまでの辛抱だ。色々あるだろうが、彼女も不安なはずだ。すまないが、もう少し我慢して欲しい。昨日は、捜索願も出ていなかったようだから、引き続き情報収集に努めるよ」


 大山の言葉をぼんやり聞き流しながら、耕平は、再び窓の外に視線を移す。

 ともかく、二人には気付かれなかったようだ。良かった……って、何がだ?

 自分に突っ込みながら、耕平は、しかし、何となく、すなをの事は、自分の胸の中にしまっておくべき内容だと思っていた。

 だから、出がけに、「空を飛ぶのは仕方ないとして、人前で魔法を使ってはいけない。見下すような態度を取らず、人と接するときは愛想良く。約束破ったら契約解除!」とすなをに釘を刺してきたのだ。

 自分以外に、すなをが悪魔であるという事実を知られてはいけないと思ったからだ。

 基本、すなをは人の言うことを聞かないタイプのようだが、何故か「契約解除」と言う言葉には弱いらしい。この際、耕平にとっては好都合である。


 でも、少し違うな……。

 耕平は、何だか解らない感覚を覚え始めていた。

 悪魔であること以前に、すなを自体の存在をあまり人に知られてはいけない、いや、知られたくない、と。

「――!」

 直後、ぼんやりと体育館の様子を見ていた耕平の視線が固まり、口に含んだお茶が水鉄砲のように窓に吹き付けられる。

「ちょっと、耕平、きったな~い! 何漫画みたいな事してんのよっ。ありえないし!」

 窓から垂れる液体に、ほのかが眉をひそめ、非難する。

「――っ、あいつっ! 何で?」

 しかし、ほのかの非難に反応する間もなく、耕平は叫ぶと、がたがたと慌ただしく部室の出入口へと駆け出す。

「浅倉君?」

 大山が耕平を呼びかけようと出入口の方を振り向いたときには、耕平は既に部室の外に消えていた。

 慌ただしい足音が遠ざかっていく。


「このままではまずいな。何か良い手はないものか……」

 大山がぽつりと呟いた。

「え? 何がですか?」

「あ、いや、結構無理矢理押しつけたから、ストレスたまってないと良いけど……」

「へぇ~、先輩でも後悔する事あるんですね。耕平なら大丈夫ですよ。根拠無いですけど」

 ほのかはうんうんと頷き、耕平の出て行った出口をちらりと見ると、微笑んだ。


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