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張りがあり明るく、すなをと同じぐらいの歳の少女の声。
「ぼーっとして歩いてたら、こけるぞ?」
すなをは、今度は少し悪戯っぽい雰囲気の声がした、右方向に顔を向ける。
青色の引き戸にもたれかけ、意志の強そうな切れ長の瞳で、興味深そうにこちらを見つめる少女。
奥でボールを追いかけている少女達と同じ服装をしている。
背は、すなをよりも顔一つ分以上高い。
百七十、いや、百七十五センチぐらいか?
黒髪を後ろで一カ所にまとめ、垂らしている。
多分、普通に伸ばせば、肩胛骨あたりまで有るに違いない。
「え?」
何も思いつかず、曖昧な返事をするすなを。
どういう訳だが、逆らう気が起きない。
少女が白い歯を見せた。
「何だ、コスプレ研の子かと思ったら、学校見学か」
「こすぷれけん?」
少女の視線の先にある、『入構許可証 柊すなを』と書かれた、自分の胸の名札をちらりと見ると、すなをは首を傾げた。
「いや、あんたさ、面白い格好してるし、てっきり、あっち系の人かと……。まあ、いいや。あたしは葵、よろしくっ」
「あおい……ちゃん? あれ、何してるの?」
葵の後ろを覗きながら、すなを。
「何って、バレーボールの試合してるに決まってんじゃん。おかしな事聞く子だね。それよりもさ、すなを……で良いかな? もしかしてバレーに興味有るの? ちょっとおいでよ」
葵は、不思議そうな顔をしていたが、再び笑顔を見せ、すなをに近づくと、手を取った。
いきなり手を引っ張られ、焦るすなをだったが、やはり、その手を振り払う気になれなかった。
耕平の時と同じか、と言うと、少なくともそれは違う、と断言出来る。
何て言うか、従うのが当然というか、よく知っているような感覚。
奇妙な感覚に戸惑うすなを。
そんなすなをの様子に気付いていないのか、すなをの手を引っ張り、葵は室内に入る。
「ひゃっ!」
突然、すなをの眼前に迫る白い物体。
すなをは、情けない声を上げると、首をすくめ目をつぶる。
ポスッと軽い音がし、恐る恐る目を開けると、葵が無造作にボールを掴み、投げ返していた。
「ごめ~ん。ありがと! 作本さん」
葵に声をかけ、ボールを受け取る少女。
クツクツという声に、すなをが横を見上げると、葵がすなをを見下ろし、笑っている。
「ふふっ、すなをって面白いね」
「やっ、あのっ、たまたま、い今は、油断してただけで……」
「しっかし、暑いね~。身体が溶けちゃいそうだ。あんた、そんな厚着してて良く平気でいられるね。何て言うか、目立ってるよ、うん。本来は暑いんだ。とにかく、ここでは目立つのはあまり良くないな」
すなをの言い訳を聞き流し、すなをの服を改めて見直す葵。
その首筋には幾筋もの汗が光っているし、白い服はあちこちが透けている。
何が良くないのか解らないが、確かに、すなをが着ている紺色の服は長袖で、厚手の生地で出来ているし、おまけにショートブーツを履いている。
暑そうだと思われても不思議ではないかもしれない。
もっとも、すなをには、暑いとか、寒いとか、そう言う感覚はないのだが。
「暑い?」
「うんっ! 暑いっ! 全く、かき氷を頭からかぶりたい気分だよ~。つまり、そゆこと」
葵がぼやく。
「氷?」
「ん? だって、そうすりゃ、少しは涼しく――」
「作本さーん! 交代~」
「あっ、呼ばれちゃった。まあ、ゆっくり見てって。でさ、良かったら、入学したときにうちにおいでよ。てか、あんまりうろうろするなよっ。……あ~、くそっ、それにしても暑いっ」
葵は、すなをに一度微笑むと、集団の中に走っていった。




