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ただ、今までの契約者全てが、「確かに安かったからな」と、多少の失望を伺わせる表情を浮かべた後、値踏みするようにすなをを見、まず持って自分の願い、それも、呆れるほど大それた願いを口にして契約を迫ったのに、耕平は、それとは違った。
願いすら、すなをから言い出すまで何も言わなかったし、聞いても、「特にない」と言ったのだ。
耕平のその態度は、まるで、迷子の少女を引き取ると言ったぐらいの感じだったのだ。
「……、まあ、単に、変わり者なのかも知れないがな」
「そうよっ。きっとそうだわ。あたしの実力を目の当たりにすれば、態度も変わるはずよっ。とにかく、最初が肝心、悪魔としての存在感をもっと出していくわっ」
コロップの言葉に、すなをは何度も頷く。
「実力……ねぇ。発動する魔力は制御出来ず常に無限大。物を破壊させたら宇宙一。私がいなければ、お前の力は暴走し、下手をすれば世界が消滅してしまうだろう。役に立たない悪魔は百害あって一利なしの典型。売れ残りの特売品。……一体、私は何でこんな奴の従属魔になったんだか……」
コロップのため息混じりの愚痴を聞き流しながら、だけど……、と、すなをは、考える。
昨晩は、喋りすぎた。
と言うより、喋らなくても良いことを喋ってしまった。
そんな気にさせた耕平の雰囲気に、今思えば、戸惑いを感じる。
悪魔なのだ。人間と対等に接する必要など無い。
人間に必要とされることで存在が出来る悪魔は、その対価として、力なき人間に、力を持って望む物を与える。
必要とされているのは、こちら。語らないことで、人間は恐れ、そして、その力を欲する。
だから、新たな契約者に、「過去、十二回も契約解除されていて、これが最後のチャンス」なんて、言うべきではなかった。
わざわざ、自分の弱みを見せる必要など無い。
その契約者に「必要だ」と思い続けさせれば、存在し続けられる。
あんな事を言って、下手をすれば、その時点で、契約解除されていたかも知れなかったのだ。
しかも、幸いにも解除方法を知らなかった耕平に対し、解除方法まで教えてしまった。
最初が肝心と言いながら、初日から醜態を晒してしまった事を思い出し、すなをの顔が火照る。
……追い詰められているのかしら。
「まあ、七日間契約解除さえされなければ、何とかなるのだ」
「願い事の件があるわ。人捜しなんて、何か面倒臭そうだし、どうしよっか……」
すなをは、ため息をつく。
「願い事など出来なくても、審判法九条二項を適用すれば、お前は悪魔として生き残れる。教師もそう言ってただろう。とにかく、今回重要なのは、これ以上あの人間の怒りを買わないようにすることだ」
「そっか、そうだったわね。コロップもたまには良い事言うじゃない。人間を上手く利用して、七日間契約解除だけされないようにって言われてたっけ」
「そっか、って……。そう言われて来たのだろう。お前は、本当に指導者の話を聞いてないな」
コロップは深々とため息をついた。
「じゃあ、願い事の件はいっか。うん、契約解除さえされなければ、何とかなるし。その点、コーヘイならお人好しそうだし、多分楽勝ね」
「そう言うことだ。悪魔としての目的を見失うなよ? まったく、お前はいつも――」
……あれ? 何なの? この感覚。
コロップの小言を聞き流しながら、すなをは、たった今自分で発した言葉に、何かもやもやしたものを感じ、その違和感に首を傾げた。
直後、目の前ですなをに囁く耕平の顔がフラッシュバックした。
身体中から汗が吹き出し、鼓動が高鳴る。
ちがう! ちょ、ちょっと寝ぼけていただけよ。
それに、あんなこと言ってたけど、所詮は人間。どうせ、あたし達を物扱いしているに決まってるし。
だから、あたしもせいぜい利用してやるわ。
最後にどっちを選択するかなんて、明白じゃない。
生き残るのは、このあたしよ!
すなをは、慌てて頭の中のもやもやを追い払った。
「ねえ、あんた、こんなところで何してるの?」
突然脇でする声。
すなをは弾かれたように顔を上げ、声の主を捜す。




