2-(1-1)葵
建物の角を曲がったところで、太陽の光が勢いよく目に飛び込む。
「――っ!」
一瞬視界が真っ白になるが、徐々に色彩と輪郭を取り戻していく。
視線の先には、人が数百人は入れそうな、青色の屋根が付いた平屋の建物。
そこに三カ所ある、所々茶色い錆が浮いている、同じく青色の引き戸が全開になっている。
引き戸の奥では、白地に腕や首の部分だけ青色のラインがある服装をした少女達が、人の高さよりも少し高いネット越しに対峙している。
時折、かけ声と共に、動きが激しくなり、よく見ると、白いボールがネットを挟んで行ったり来たりを繰り返している。
「なんだろ、あれ」
すなをは、どこへとも無く声をかけた。
「さあね。人間のやることなど興味ない」
「もう、コロップってば、さっきからそればっか」
すなをは、不機嫌そうな表情を見せると、腰の辺りを睨む。
視線の先には、熊のアクセサリー。その口が動いている。
「しかし、良かったな。一日目で契約解除されずに済んで」
「それはっ、……わ、悪かったわね! ちゃんと挽回するから、大丈夫よっ」
痛いところを突かれ、すなをは口をとがらせた。
「あの人間も変わっているぞ。大体人間とは、臆病で、自分本位で、自分では大したことも出来ないくせに、人が失敗をすると非常に気分を害するものだ。故に、悪魔に対しては、力なき者が『立場が上』であることを認めさせようと必死で、必要以上に権力を行使しようとする。かつての契約者共のようにな。それなのに、あれだけの事をされて、鞭も振るわないとは……」
「台詞長いわよっ! てか、ちゃんと、後片付けさせられたじゃない」
視線の先のボールを目で追いながら、すなを。
「フフ、後片付けね。悪魔に対してか?」
「片付けをすると、心も綺麗になるんだから。コーヘイも言ってたでしょっ」
「悪魔が心を綺麗にしてどうするんだ? それより、今朝は『魔法は禁止』だと?」
「大丈夫よ。人のいるところではって言ってたでしょ。ばれなきゃ大丈夫っ」
「……あの人間、もしかすると、悪魔を呼び出すつもりで呼び出したのではないかもな」
声のトーンを下げ、コロップが思案深げに呟いた。
「どういうこと?」
すなをは、きょとんとした表情でコロップを見つめた。
「あの人間の言動を考えると、少なくとも、お前の力を全く当てにしていない感がある。故に、あの人間には、お前に……悪魔に対するコンプレックスが、全く無いのかも知れぬ」
「そっ、そんなこと……」
存在意義を否定され、すなをは反論しようとするが、確かに変である。
言われてみれば、こちら側に呼び出されたとき、耕平達は、それをグリモアと知らなかったではないか。
いや、グリモアそのものを知らないこと自体は、大きな問題ではない。
要は、自分の望む悪魔を呼び出し、従わせることが出来れば良いのだから。
第一、誰でも悪魔を召還出来るわけではない。
そういう意味では、耕平は有資格者と言う事になるのだ。




