08白い悪魔との戦い
残り54日。
一週間の時が過ぎた。白い悪魔の撃破数が365376体にもなっている。だが、連中の侵略は止まらない。そういえば、白い悪魔は一つのアリ塚には数百万匹は棲んでいるそうだ。ここも同じなのかも知れない。
「現在の戦力は……」
「……こん……なの……」
自軍
ダンジョンマスター:リクト
ダンジョンタイプ:精霊樹
ダンジョンコア:精霊樹の精霊リア
支配階層:2
所属モンスター
クロネ(精霊獣シャドウキャット)
精霊獣シャドウキャット20匹
アイディリア(精霊虫クローラー)
精霊虫クローラー20匹
キリル(精霊機械虫キリングドールマンティス)
精霊機械虫キリングドールマンティス8体
キラーマンティス829匹
リン(寄生精霊虫)
寄生精霊虫1397匹
神聖水樹のウッドゴーレム12体
ハクア(精霊白蛇・大蛇)
精霊白蛇・大蛇6匹
精霊白蛇34匹
シズク(水の精霊姫)
水の精霊60体
こんな感じになっている。だいたい、レベル10前後は超えた。俺以外はだが。水の精霊達に関しては地底湖の関係上、純粋培養が進んでかなり強くなっていて、レベル25まで上がっている。
そして、ニャンコ達と合わせて現在のアタッカーだ。シズク(最初の1個体に合成しまくった個体)が率いて、水樹の中に染み込んで、回復薬を阻害している本当の意味での病原菌や、それが原因で肥厚し血流硬化している部分などを排除。癌細胞も駆逐してくれた。2階層までは健康状態になっている。そして、同時に次の段階として第3階層まで侵入して、精霊樹の中から浄化する。シロアリの繁殖エリアや塊を見つけると圧縮した水を放つアクアレーザーや濁流によって抹殺するという手段を繰り返している。シャドウキャット達もクロネが率いて背後からの強襲などで狩りを行っている。ちなみに3階層で殺された白い悪魔の数は365376体には含まれていない。
ハクアをはじめとした白蛇達も白い悪魔達を食い殺しまくって成長を続けている。大きくなった個体も居て、石化の魔眼を得ている者達は最下層の防備に回した。具体的に言うと、リアの移動手段だったりするし、ハクアとシズクが率いて地底湖から水中を行き、毒を投げ入れた場所を調査したり、見つけた場所を塞いだり、狩りをしたりしている。地底湖側からの出入り口は一箇所だけでいい。こっちは天然のダンジョンになっているから、モンスターを放つだけでも充分だ。むしろ、水源がどんどん綺麗になって周りの植物達も生き生きしだしているそうだ。ハクア達には幸運を呼ぶというスキルも持っているので、尚更成長するのが早いのだろう。
「だいぶ数が減ってきたな……だが、上の階層も白い悪魔が居るだろうし、どうするかな……」
「……じゃく、てん……ない……?」
「弱点か……光だな」
「……産む……?」
「そうだな」
光の精霊は欲しいと思っていた。基本的に暗いからな。この地底湖周辺。懐中電灯が無いと、前は過ごせなかったぐらいだし。
しかし、光の精霊……ウィルオーウィスプ?
違うか。何がいいかね……駄目だ。思いつかない。
「……覚え……させる……」
「誰が覚えられるんだ?」
「ん」
リアが指差したのはリン達寄生精霊虫達。こいつらは実体が無いので問題無いのだそうだ。それと同時に面白い装置を教えて貰った。早速、地底湖の周りや天井などに設置する。それは水晶の結晶で、進化を促す光を放つ物だ。ただ、高い。100,000CPもする。だが、白い悪魔の御蔭でCPはあるので、それを購入して設置する。進化の指定を寄生精霊虫に設定する。その後、休憩する。
残り53日。
外に出てみると凄い変化が起こっていた。天井や、地底湖周辺、水底などに生えたクリスタルが光り輝き、青白く湖畔を照らしている。地底湖の澄んだ水が神秘的に光り、さらには天井を小さな光が楽しそうに舞っている。それはよく見れば人型の妖精だ。背中に翅があるので、寄生精霊虫達が進化したのだろう。それらは太陽とは言わないが、光の属性を持ち、星空のように照らしている。ホタルとかその辺りだ。綺麗な美少女の姿だが、その実態は非常に恐ろしい。捕まえようとしたら寄生されるのだから。
「……おは、よ……」
「ああ……目が治ったのか」
「ん、治った」
リアの瞳は黒と緑のオッドアイになっている。俺のが入っているせいだが、これは仕方無いだろう。しかし、幻想的な光景だ。というか、何か新しい水を出す木が出来ている。
「……神聖、水樹……」
「本物?」
「ほん、もの」
ウッドゴーレムの枯れ木が新しい芽をだして成長したようだ。水の精霊や白蛇達がそのまわりにたむろしている。このまま成長して天井に到達したら、まずいかも知れないが、広さ的にはまだかなり余裕がある。それと、確か成長方向を指定できるはずだ。なら、ウッドデッキや、ウッドハウスにするか。木の枝を通路にして、エルフの町みたいなのをここに作る。ちなみに天井まで、かなりあるし、問題はないな。この地底湖と地底湖周辺はかなり広いし。
「たの、し、そう」
「そうだな」
水の精霊、ニャンコ達、白蛇、精霊虫を始め、寄生精霊虫……いや、光の寄生精霊が楽しそうに遊んでいる。しかし、水が綺麗すぎて魚は住めない。まあ、食料は水の精霊と白蛇達がとってくるモンスターを捌けばいいんだけどな。それと、白蛇の死んだ死体とかは食べられない。死体は消えて精霊樹の力として戻るからだ。ただ、遺品みたいな感じでドロップアイテムは出るけどな。それは回収してダンジョンボックスに入れている。
さて、次は光の寄生精霊達を魔物生成魔法陣に登録しておく。それが終われば、寄生精霊虫達をいったん引かせて、こちらで進化させる。その間は進化した子達が頑張ってもらう。そう思ったのだが、光属性攻撃を身につけたキラーマンティス達が予想以上に強くなった。なので、リーダーたるクロネやキリル達に加え、シズクを始めとする水の精霊達とハクア率いる大蛇に、神聖水樹のウッドゴーレム達12体も持ち出して逆侵攻をかけた。全部隊に寄生精霊を憑依させ、光属性を与えた上で、神聖水樹の魔力回復能力と水を生み出す力で、水の精霊と寄生精霊のコラボで送る光の水の濁流で押し寄せるシロアリを押し流し、体勢が崩れた所に一気にキリル率いるキラーマンティス達が押し寄せ、斬り殺していく。索敵と足止めをクロネ率いるシャドウキャット達が行い、排除していく。膨大な数は居るが、神聖水樹のウッドゴーレムの御蔭で補給は問題無く、コストパフォーマンスが良くなった水の精霊達が大暴れして駆逐していく。3階がある程度数が減れば、大量の水で押しつぶし、4階層へと放逐する。3階層へ向かってくる敵も押し流してしまう。
「リア」
『……掌、握……』
占有率が変われば、さっさとこの3階層をダンジョン化してしまう。そして、即座に2階層と3階層の位置を入れ替える。俺達も転移して配置につく。これで押し寄せられても問題が無い。入れ替えは便利な機能だが、敵対勢力が居れば使え無いので、使え無い時も多い。
「シズク、ウッドゴーレムを4体連れて、2階層の浄化を頼む」
「こく」
綺麗になれば更に力を増す。魔物生成魔法陣もランクが上がり、生成する量も自動的に増えていく。既に初期の配置よりどれもランクが上がって生産数などが増えている。4階層から押し寄せる敵を迎え撃って殺す。中には2メートルクラスの奴らも居たが、問題無く倒せた。この方法で4階層も2日後に攻めたが、そちらは2メートル級が殆どで、抵抗激しく落とせなかった。なので、再度一週間後に攻めると、落とせた。残り44日……リアに聞いた所、取りあえずの延命は予想以上に早く攻略できたので、問題無くできるそうだ。ただ、地上から上の階層が枯れ落ちて倒壊し、勿体無いという事だ。
精霊樹リアの森・地上
冒険者の彼らは依頼でこのリアの精霊樹が存在する森へと来ていた。依頼内容は簡単だった。森の調査という内容だったからだ。なんでも、死んだ枯れ木だらけの森に緑が復活しだしているという報告とモンスターの動きが活発化しているという報告があったからだ。
「おい、この森にある精霊樹は死んだんだよな?」
「報告によればそのはずです」
「それはおかしいぞ。精霊力の反応が高い」
男が飛んでくるビートルのモンスターを下から斬り裂いて倒し、魔術師の男が死にかけのビートルを燃やす。相手は一瞬で灰になった。
「確かにおかしいですね。モンスターが4ヶ月前よりも明らかに強くて大きいです」
巨大戦斧を持った小さな少女がピンク色のツインテールを振り回しながら振り返りつつ、迫り来る虫を無表情に叩き斬って答えた。
「ん~微かにだけど神聖な気配がするわね」
「では、精霊樹が復活していると?」
「可能性はそれか、新しく強力な精霊が現れたかだな。明らかに精霊力が高いから魔法の威力も上がっている。魔力が元から高い地だとはいえ、これは何かあるぞ」
魔術師の男が自身の杖に取り付けられている結晶と胸骨の上部を軽く叩く。そこには精霊を捕らえて結晶化された精霊核が植え込まれている。これによって、人間は爆発的な力を手に入れている。
本来は死した精霊がたまに残したり、気に入った物に自身の力を託す時に与えらえる物だ。だが、数十年前に精霊を捕獲し、人工的に精霊核にする方法が開発された。精霊樹の中でも年若いリアがターゲットにされ、実験が行われた。人間は親切ぶって、モンスターを排除し、色々と世話をしながらリア達精霊に信頼させ、一気に森中に毒を放った。対抗する手段を講じるまもなく次々と精霊は捕らえられて実験台にされ、その後も精霊核としてその魂を力として使わされている。だが、当然政府はそんな事を知らせない。暴走した精霊を討伐した事になっている。そして、精霊樹を観察する為に、そのまま放置し、観察を続けていた。だが、これによって、精霊樹とその精霊であるリアの憎悪は数値で表すと膨大な量になっている。精霊樹の精霊たるリアにとって精霊樹から産まれた仲間は子供達といえる。その子供達の悲鳴が今も鳴り響き続けているのだから。
「取りあえず、予定通りに精霊樹と汚染された泉を見に行きましょう」
「賛成します」
「そうだな」
「わかった」
治癒術師の金色の髪の毛をした女性の言葉に皆は納得して、先ずは精霊樹を見に行く事にした。彼らは4人パーティーで、前衛盾1、前衛火力1、後衛火力1、後衛支援1というバランスのよいパーティーで挑んでいた。その為、来る敵は問題無く倒せていた。そして、程なくして萎びた精霊樹はエキ病、黒班病、ウドンコ病などが発生し、弱った姿が見えた。
「穴が沢山空いていますね」
「ええ」
「モンスターが巣食っているのかもな。精霊力はどうだ?」
「精霊樹全体から出ているが……微妙だな」
「よし。なら、ちょっと入って調べて見るか」
「わかった」
「分かりました」
「気を付けて行きましょう」
彼らは精霊樹の穴から突入した。そして、直ぐに撤退した。
「ホワイトアントだらけじゃねえかよ!」
「しかも、他にもいるな」
「ビートルとか、上には蜘蛛も居ますね」
「よし、次は泉に向かうぞ」
「「はい」」
「ああ」
彼らは行く順番を間違えた。間違えなければまた違った未来があったかも知れない。精霊樹の化身たる精霊が憎い精霊核を持つ人間の侵入を感知できないなど有り得ない。ましてや、水の精霊姫たるシズクが精霊樹の中を動き回って、治療しているのだから個にして全たる水の精霊全体にも彼らは認識されていた。そして、その子達は正真正銘、リアから産まれた精霊であり、母の憎悪を受け継いでいる。だが、シズクと彼女達は手を出さず、即座に報告を出した。
「……りく、と……お兄ちゃん……」
「なんだ?」
「……男と……女……どっちが、いい……?」
「そりゃ、女だな。俺も男だし」
「……ん、わかっ、た……」
「どうしたんだ?」
「……秘密……あとの、お楽、しみ……」
「そうか」
リアは1人で湖面に出る。すると、直ぐに水面が盛り上がって、シズクをはじめとした水の精霊達が現れた。
「……ハクア達……も……来る……」
ハクアを始めとした大蛇達が湖面から出て来たり、天井から降りて来たりして、リアの前に出現した。
「……人間……来た……殺す……」
普段のリアからは考えられない濃密な殺気が虚ろな瞳をして放たれる。それによって、子供達は萎縮する。
「にゃ、にゃあ~~」
「……クロネ……お前も、手伝う……」
「にゃあ!」
即座に恭順の意を示す為にお腹を出すクロネをリアは軽く撫でた後、人間の姿を思い出す。
「……男……殺す……喰らえ……だめ……違う……」
リアは自分の身体を見て、女を思い出す。そして、少し悩んだ後、キリルの姿とリクトの姿が出て、結論が出た。
「……女、大きいの、喰らう……女……小さい、の……リクト、プレ、ゼント……男……寄生……」
リアは寄生後の命令も出す。それは悪辣な内容だった。ここ数週間でリクトの考えを学び、罠の有用性や寄生の使い方などをしっかりと聞いて知っていたリアは、リクトが戸惑う事も平気で行う。リアにとって、リクト以外の人間は子供を奪い、苦しめ続ける敵だから、一切の容赦は無い。
「……い、け……」
命令通りに瞬時に進化した寄生精霊達が味方の精霊に潜り込む。進化前の寄生精霊虫達もだ。そして、白蛇とクロネ達シャドウキャットを水の精霊が包み込んで地底湖を潜っていく。汚染されている泉へと出る。目的の場所に着くと、クロネ達シャドウキャットは瞬時に隠れる。水の精霊もだ。ハクア達はそのまま水の中で待機していた。水の精霊達がその姿を完全に隠蔽してしまう。そして、程なくして獲物はやって来た。