37クリエイター戦争②
進むに連れていやらしい罠が増えていく。例えば、ゾンビの腐臭でごまかした燃焼ガスや垂れてくる青酸カリなど、容赦無いレベルだ。なので、なんどか炎を放ちながらでしか進めなかった。そして、何より地下に進むに連れて敵が変化してきた。現れる敵に悪魔が混じりだしたのだ。
「到着だね!」
「やっとですか……」
「罠ばっかだったからな……」
目の前には巨大な扉があり、ボス戦だと教えてくれる。扉を遠くから開けて、何もないという事を確認し、中に入る。中には玉座の間がある。そこにある玉座に座る小さな少女の姿は一言で言うなら魔女だ。三角帽子に黒いローブ、両サイドが鎌の様になった先端の杖。両腕は骨のようだ。
「まっ、まさか、ここまで来るなんてぇ……上の人といい、化け物……だよぉ……」
「化け物なのは否定出来ないな。だが、ここで決着をつけさせてもらう。後で大きな戦いが待っているからな」
震えながら言ってくる魔女に対して、武器を構えると悲鳴をあげて頭を抱え、震えだした。
「ひっ!? や、やめてっ!!」
「……」
「えっと、どういう事でしょうか? ボス戦ですよね?」
「多分だけど、上に戦力が行ってるんじゃない? このダンジョンって完全な罠とモンスターで戦うタイプみたいだし……」
「そ、そうなの! わ、私の戦闘能力なんて、スケルトンにだって負けるんだから……非道い事しないで……強いの、みんな上に行ってるんだから……」
なんだか、本当に弱い者虐めだ。
「なら、ダンジョンコアを差し出せ」
「いっ、痛いことしない……? 殺さない……?」
「しないしない」
「わ、わかった……」
リアより幼い子供なのだから、仕方無いのかも知れないが、なんでこんなえげつない罠になったんだ?
おそるおそる差し出してくるダンジョンコアを受け取ると、しっかりと吸収された。先の竜の巣と同じくダンジョンクリエイターをどうするかという選択肢が出たので、隷属を選ぶ。
「ひゃうっ!?」
すると、幼女魔女の首に首輪が現れた。名前はグリム。スキルは死霊魔法などだ。そして、七つの大罪召喚がある。
「うっ、うぅ……」
「もう怖いことはないですよ」
「ん、いいこ」
2人が泣きそうになっている子供をあやしていく。その間に種族を確認すると悪魔王となっている。
「七つの大罪はどうしたんだ?」
「ルシファー以外、みんな……死んじゃった……上の人が……殺したの……グリムの為に頑張ってくれたのに……」
まさか、このダンジョンって七つの大罪が運営していたのか?
「おい、この七つの大罪ってスキルをよく取れたな」
「そっ、それは……つ、作るときに幼いから……サポートだって、悪魔王と七つの大罪召喚を無料でくれたの」
依怙贔屓かよ! いや、無いとこの子じゃ録に作れないだろうけど。話を聞くとやっぱり悪魔達がダンジョンを考えて、守る為にここの防備は即死級ばかり用意したそうだ。死体は外に沢山あるし、魂を悪魔が集めてダンジョンに還元する。周りにある死体などを利用してスケルトンやゾンビを作成し、それなりの者はリッチーなどにしていたそうだ。そして、今回はこのダンジョンの防御力を信じて外に出撃したそうだ。危険度からいって、あっちの少女の方が死にながらでも突破されるとルシファーが判断したそうだ。それは確かに正解だろう。
「まあ、崩壊前にさっさと欲しいのは貰って、ラスボス戦と行こうか」
「うん!」
「そうですね」
相手は化け物だ。この大陸に残っているのは俺と少女だけだし、後は決戦のみだ。なので、転移して地上に戻る。すると、そこは今までの場所と変わっていた。まるで月面のように大量のクレーターが存在し、大きな悪魔……いや、魔神の死体が存在する地獄といってふさわしい状況だった。
「リア、直ぐにハクア達を呼んでくれ」
「了解だよ」
シズクとハクアをはじめとしたほぼ全軍を呼び出してやる。そして、神聖水樹のウッドゴーレム達が大量の神聖な回復水を放出しだす。遠くではルシファーと少女が未だに戦っているが、既にルシファーは満身創痍だ。
「いいか、時間をかけて足止めに徹するぞ。グリムもどんどん魔法を使え」
「うっ、うん……」
翼を出して宙に浮かびながら返事をするが、その身体は小刻みに震えている。だが、今は構っている余裕はない。
「リン、聖別結界」
「わかったよ、母様」
寄生精霊達が一定範囲を囲んで結界を準備する。俺はその間に祝福をしてもらった不死殺しの剣と槍を用意し、槍を大弓に番える。
「狙うは一瞬。攻撃する瞬間だけ隙が生まれる……」
少女がルシファーに止めをさそうと大剣で攻撃する瞬間に、槍を放ってやる。無数に分裂した不死殺しの槍は少女とルシファーに飛来して、その身体を貫く……かに見えたが、少女は片手に大量の血液を凝固させて不死殺しの槍を防ぐ。もう片方の手は大剣を握り、ルシファーを貫いている。一瞬のタイムラグがあった為、血が自動で防御したのだろう。
「だが、まだだ! まだ終わらんよ!」
言ってみたかった事だけ言う。
「っ!?」
少女も反応した。その瞬間は確かに隙が出来た。
「えい」
その瞬間にリアが加護で操った無数の不死殺しの槍を殺到させる。血の自動防御もすり抜け、数本だけ少女の身体に命中した。
「いったぁああああああああああぁぁぁぁぁっ!!」
身体がどんどん崩壊していく。これで終わりだと思いたいが、甘いだろう。実際に傷口を抉り取って、瞬間的に再生しやがった。だが、今ので1億くらいの命が消費されたようで、明らかに力が減っている。最初に出会った頃よりもだ。よく考えれば、彼女が相手していたのは不死者だから命の補給はできない。この辺りに生物なんていないのだから。
「シズク、撃て」
「了解ですの!」
無数の水の精霊達から神聖な水で作られたウォータービームが放たれる。点ではなく、面の攻撃。
「リン!」
「聖別結界展開!」
逃げようとする少女の動きが明らかに遅くなり、周りには神聖な空気が醸し出される。それと同時に光のレーザーが無数に放たれる。
「くっ、こうなったら眷属バリアー!」
彼女から何体かの眷属が飛び出して、その身を消滅させながら道を作る。上空から急降下して地面に近づき、低飛行でこっちに来るつもりだろう。
「させぬわ!」
ハクアが扇子を向けると大地から防壁が立ち上がって進行方向を防ぐ。これ幸いと防壁の後に隠れようとすると、上から無数の水が降ってくる。そして、その中にキリル率いる機械精霊虫が突撃して、斬りかかる。
「くっ!」
「防ぎますか……」
水の奔流から水の精霊の援護を受けながら、キリル達が斬りかかる。ただ、血の自動防御と、身体から出て来る眷属によって防がれるのが殆どだ。
「援護援護」
水の精霊剣矢を放ち、爆撃がてら援護する。水の精霊には効かないし、そもそも精霊識別型だから気にせず攻撃しまくる。
「よ~し、リアも行くね!」
「いってらっしゃい」
「頑張ってください」
リアも出撃し、鎧武者達が本陣の防御を担当する。気分は無双ゲームの相手側だ。
だが、リアが乱入した事で変わってくる。
「てりゃぁあああああっ!!」
「うそ、折れたっ!?」
大剣がリアの1擊でポッキリと折れた。いや、それだけじゃない。彼女の手を焼きだした。
「あははは、リアの作った武器でリアと戦おうなんて甘いんだよ!」
「むぅ……それはそうだね!」
即座に回避行動を取りながら、血のデスサイズを飛ばしてくる。リアはそれを避けて接近し、1擊の拳を叩き込む。だが、同時にカウンターを食らってお互いに吹き飛ばされる。ここからが違って、リアは即座にリカバリーが入って、シズクに回復してもらって即座に戻る。対して少女は苛烈な攻撃を加えられながら、眷属を呼び出して攻撃を行う。特に銀色の巨大な狼はやばい。精霊が食い殺される。寄生精霊達が無数に取り付いて傷口から侵入し、支配を奪おうとするが、そうもいかない。
「楽しいね!」
「そうだね!」
拳と真紅の大剣がぶつかり、衝撃波を発生させる。同時に上空からドラゴン達と龍達によるブレスが叩き込まれる。リアは瞬時に転移し、少女はそのまま大剣を投擲してブレスを切り裂く。その背後にリアが転移して戻る。
「ドラゴンブレス!」
「っ!?」
なんとか振り返って、片手で拳から放たれた奔流を受け止めて、腕を崩壊させながら上空に弾き飛ばされる。
「これでもくらいやがれ!」
即座に巨大化されたラクロアのハンマーで下へと弾き飛ばされる。それと同時に巨大な石柱の杭が叩き込まれる。
「これも追加じゃ。どうじゃ?」
「ちょっとまずいかな……」
「なら、これもプレゼントですの」
片手で石柱杭を受け止め、もう片方でシズクの水を受け止める。空中で両手を開いた状態で固定された少女に対して、俺の光の精霊剣矢とリアのドラゴンブレスが正面と背後から迫る。
「ちょっ!? ええい、全開放いっちゃえ!!」
膨大な数のモンスター達が出現し、文字通りの肉の壁となって防ぐ。上空に逃れた少女を追って無数の血が戻っていく。
「今だな」
「だね」
大量の寄生精霊達をモンスターに寄生させ、血に戻すと同時に射撃してリアの転移を援護する。上空ではキリルが既に戦闘を開始しているが、攻撃の苛烈さはどんどんましている。その間にも急降下して、血を回収しながらこちらの本陣へと巨大な魔法の大槍を投げ込んでくる。
「対魔法防御体勢!」
鎧武者達が大盾を構えて、リコリスの指示に従って槍を受け止める。20体ほど貫通されて槍は消滅した。
「うわっ、何これっ!! なんか中に変なのが居て私が犯されてるよ!」
寄生された者達が少女の体内で暴れだしたようだ。
「ええい、出てけ!」
殆どのモンスター達が排出された。だが、その役目は大いに果たしてくれた。明らかに動きが悪くなっている。
「そして、暴れて!」
だが、相手もただでは起きない。わざとモンスター達を暴走させて大暴れさせる。それの対処に部隊を使わなくてはいけない。
「み、みんなの仇……みんな、お願い!」
グリムの声と同時に膨大な魔力と巨大な魔法陣が7つ作成される。そこから出てきたのは7体の魔神というにふさわしい存在。角や無数の翼、感じる禍々しさは一級品だ。
「嘘っ、倒したのに! まさか、第2、第3のとか言ってたの本当だったんだ! 第2形態がないからしょぼいといってごめんなさい!」
謝りながらも容赦なく魔法攻撃を飛ばしだして、問答無用の範囲攻撃を行いだす。更に加速しだして攻撃速度も上がってきた。
「リアもギアをあげてくよー! スロー・ワールド!」
世界が急激に遅くなる。少女に対してのみ。すると、加速が消えた。
「むむ、時魔法を止められた! なら!」
瞬時に消えたと思うと、俺の背後に現れて上段から斬りかかってくる。
「お兄ちゃんを攻撃させないよ!」
だが、同じく瞬時に現れたリアが、少女を弾き飛ばす。戦闘は空間魔法による転移戦闘に移りだした。俺達には対応できないので、吐き出されたモンスター達を排除にかかる。そう、俺達にはだ。
「舐めるな小娘!」
「さっきの仕返しだ!」
「喰らってやる!!」
だが、七つの大罪、ルシファー、レヴィアタン、サタン、ベルフェゴール、マンモン、ベルゼブブ、アスモデウスは戦闘可能だった。消えては現れて破壊の嵐を巻き起こす。そして、俺は精霊樹の瞳と弓に力を集中して溜に入る。