33竜の巣へ②
シンゴ
信じられない光景が俺の目の前で起こっている。蛇やトカゲならまだわかる。でも、走竜をはじめ、バジリスクを投入しても簡単に殺された。まるで石化対策を取られているようにだ。
「クソッ、ドラゴンは最強のはずだろ!」
更に信じられないのは、開始と同時に本体を相手のダンジョンに送り込んだというのに、こちらが圧倒的に不利という事だ。ドラゴンロードを4体も投入したというのに、その全てが小さな女の子に殴り殺された。どこの世界に自分と100倍の身長差がある相手を殴り飛ばして風穴を空ける奴がいるんだよ!!
「マスター、落ち着いてください。あちらは相手のエリアです。何らかのブーストを行っていても不思議では有りません」
「ああ……そうだな。取りあえず、こっちに侵入した奴らを殺さないとな」
投入したドラゴンも和式の大きな弓から放たれた無数の光る剣によって駆逐された。ムシュフシュを背後に配置したというのにだ。
「数だけでは相手にならないか。トラップだけで……」
「駄目ですね。トラップも全て破壊されています」
光る剣で問答無用に破壊してから通ってやがる。罠なんて関係無いといいたいみたいに。
「残ってる最大戦力で迎え撃つか。用意しろ」
「はい」
こっちもブーストした状態で迎え撃ってやる。だが、あの鎧武者も鬱陶しいな。あっちにも戦力を送らないと。
ダンジョンを探索して、数日すると敵が出てこなくなった。いや、ヒットアンドアウェイで、命を狙ってきているが。遠くからはドラゴン達の悲鳴が聞こえて来るだけだ。鎧武者達が頑張っているんだろう。
「さて、ダンジョンクリエイターが居るだろうラスボス戦か」
「ですね」
「にゃあ。楽しみ」
「だねー」
ハクアの頭を撫でながら、精霊剣矢を3本取って大弓を完全開放する。
「合図をしたら開けろ」
「にゃあ」
「はい」
3本同時に威力を徹底的にチャージして上げた後、放つ準備が完了した。そして、合図を出して扉を開けさせる。開けた瞬間に精霊剣矢を放ち、無数に分裂させる。使ったのは火、水、雷だ。作りから見て大ボスの部屋は密閉されているだろう。なら、それを利用する。
「閉めろ」
精霊剣矢を放つと同時に直ぐに扉を閉めて扉から離れる。水と火が反発しあって膨大な水蒸気を発生させ、雷が分解して大爆発を起こす。密閉空間じゃないと臨界以上にならない為、ダメだろうがおそらく大丈夫だろう。
「次だ」
第2射も同じようにして放つ。開けた瞬間、放って閉じる簡単な仕事だ。
「ふざけ……ぎゃああああああああぁぁぁぁっ!!」
「ぐぅぅぅぅぅっ!!」
叫び声が聞こえて来るが無視する。だいたい、マトモにボス戦なんかしてもらえると思う方がおかしいんだよ。だって、これは現実だから、わざわざ真正面から挑む必要もないし、召喚されたあと直ぐに攻撃しても問題無いし、むしろ召喚途中から攻撃するのが普通だ。
「ちっ、9射が限界か。予想以上の破壊力だな」
同じ精霊剣矢は9回が限界のようで原型を留められずに消滅してしまった。本来ならもっと持つはずなんだがな。
「まあ、こんなもんだろう。行くぞ」
「にゃあ」
「そうですね」
クロネが姿を消し、キリルとハクアが俺の横につく。俺は光属性の精霊剣矢を番えながら中に入る。中は凄まじい程破壊されていた。広い空間に置かれていただろう調度品は影を焼き付けて消滅しているし、玉座も消えている。有るのはダンジョンコアと身体中から血を吐き出して死にかけの巨大な金龍と巨大な翼を持つドラゴン。いや、バハムートと言った方が良い存在が居た。
「ぎ、ざまぁ……」
「人間だと思ったが、違ったか?」
不思議に思っていると、バハムートっぽいのが縮んでいき、半死半生のドラゴニュートに変わった。ドラゴンへ変身していたのか。どっちにしろ問題無いな。
「同胞みたいだし、さっさと楽にしてやる」
「させるかっ!!」
金龍が急に動きだして俺を喰らおうと急激に近づいてくる。
「そっちこそさせません」
キリルがデスサイズ2本を口内に突き刺して牙を防ぎ、即座にハクアが金龍に噛み付いて毒を流し込む。
「いけ」
その間に移動した俺は精霊剣矢を放ち、ダンジョンクリエイターを殺しにかかる。だが、最後の力を振り絞って横に飛んで避けた。だが、そいつは小さな手に胸を貫かれて背後から心臓を奪われた。
「にゃあ。美味しい」
そして、瞬時に離れて心臓を食べていくクロネ。少しだけ身長が伸びたようで、140前後くらいになった。だが、そんな事よりも肉球グローブにドラゴンの鉤爪のような物が現れた。
「ま、すたー」
その光景に最後まで抵抗していた金龍は沈黙し、ハクアに捕食されていった。ハクアはダンジョンクリエイターも纏めてくらい、姿を大きく変える。背中に巨大なドラゴンの翼を作った龍。応龍のような姿になり、人型にもなれるようになった。変化した人型の姿はボンキュボンの身長170センチの銀髪巨乳美女だった。人型になった瞬間なので、服はなく裸の姿だ。
「ふふ、これで我も父上に愛して貰えるの」
「そんなのは後回しだ。先ずはやる事がある」
「残念じゃ」
【ダンジョンクリエイター・シンゴの死亡を確認。勝者をダンジョンクリエイター・リクトとします。これよりダンジョンコアの統合を行います。竜の巣は崩壊しますので、クリエイターの方は必要なモンスターやアイテムを持ち出してください。残り制限時間は1時間です。なお、ダンジョンマスター・シンゴを隷属させました。モンスター形態と人型形態が選択できます。モンスター形態の場合、そのまま意識はデリートされます。人型形態は勝者の自由にできます】
崩壊は免れないようで、取りあえず表示されたリストから持ち出し可能なモンスターを見ると、殆どのモンスターが連れ出し可能だった。精霊樹の大きさに対して、現在のモンスター数は明らかに少ないから仕方無い。ダンジョンクリエイター自身はモンスターとして取り込む。男なんていらん。
「ドラゴン類は全部確保して中ボスにするか……いや、大蛇達ど融合させるか。でも、やっぱ何体かは残しておこう」
「にゃあ。闇、欲しい」
「私は風ですね」
「まあ、持ち込んでいいだろう」
高価なアイテムや素材を回収し、大量のドラゴンを手に入れた。この中でハクアが気に入った扇子と着物を選んだ。どちらもかなりの業物だ。扇子は龍やドラゴンの牙を元にウロコを薄く削って鉄扇として作られていたので、かなり強力な武器になるだろう。何より和服を着たハクアに似合っている。
ギリギリまで移して帰った瞬間、俺を歓迎したのは信じられない光景だった。それは仁王立ちするリアの背後に控えている巨大な存在が居たからだ。
「何それ」
えっへんと胸を張りながら、褒めて褒めてと上目遣いで訴えてくるリアの思いっきり撫で回してやる。
「わっぷ。竜樹だよ! ドラゴンロードとかいうのを素材にドライアード達が作ったの」
巨大な木で出来たドラゴンが4体。
「姿を変えられるか?」
「できるよ?」
「なら、龍形態にしろ。鎧武者を乗せよう」
「面白そうだね! えっと、ハクアだよね。ハクアも手伝って」
「うむ。母上の指名とあらば答えようぞ」
竜樹は龍樹となって、鎧武者を乗せる事になった。
「どうせなら四天王にしようよ!」
「にゃあ。それがいい」
「うむ」
「強そうですね」
最終的にアーマーを付けられ、騎龍にされた龍樹は4体の鎧武者に与えられた。鎧武者も大ボス仕様で新たに2体作られており、茶色と緑色だ。
「隠された機能もあるから楽しみにしておけよ!」
とラクロアが言っていたので第二形態があるのかも知れない。どちらにしろ大ボス戦は4体でいい。多分、生半可な奴じゃ勝てない。冒険者達が精霊の祝福が付いた装備を回収して装備していても、勝つのは難しいだろう。そう、思っていた。だが、とある獣人のパーティーが鎧武者と龍樹を蹴散らして大剣が回収された。ラクロアは嘆いていた。何故か、隠し機能が発動しなかったようだ。まあ、それは出力不足という欠陥が理由だったんだがな。そっちは別に供給源を用意する事で解消された。だが、獣人のパーティーは大剣を持って本国に帰還していった。ちゃんと腕輪やアイテムを返してくれたが。これに関しては止める事が出来ない。ただ、不気味な気配がした。
そして、もう一つ問題が起こった。それはエルフ達が敗北し、逃走した事だ。多数のエルフが捕まり、逃げ帰ったのは少ないそうだ。精霊核のせいで、数の少ないエルフ達が遅れを取ったのだろう。精霊に意思がある分、伝えて発動するのに対して、精霊核の場合は術式で強制的に発動させる。どちらが早く発動され、威力が安定するかと言われれば、精霊核なのだからこれは仕方ない。
「お願いします、助けてください……」
「リア様、助けてー」
「お願いお願い」
「うぅ……」
低級や中級の精霊達がリアに契約者のエルフ達を助けてくれと泣きついてきたのだ。この子達の中にはリアの子でもない子も居る。本来ならもう1人の方に行くのだろうが、そっちは遠い上に不干渉という決まりに従っている。しかし、リアは違う。ダンジョンコアになったリアに、ましてや作られた肉体にそのような制限は存在しない。
「お兄ちゃん……駄目……?」
だから、俺に涙目上目遣いという最強コンボで攻撃を仕掛けてくる。当方の迎撃部隊は降伏させられた。
「いいよ。どうせこの国は潰す気だったしな。シズク、キリル」
「はいですの!」
「はい」
「ここ以外の土地で大雨を降らせ。キリルはハリケーンを作って荒らし回れ」
直ぐに俺の言葉を聞いて、精霊達に働きかけてバランスを崩させて、大暴れさせる。
「ハクアは王都や村々、街道を地中から破壊しろ」
「御意」
「クロネはエルフ達の調査」
「にゃあ」
「アイディリアとリアは実行部隊。リコリスも俺と一緒に実行部隊だな。ラクロアはここで装備関係を任せる。それと、実行部隊は龍やドラゴンを基本とする」
「やっと、仕返しができる……」
「ふふ、楽しみですね」
「まあ、留守番はしゃあねえな。ただ、一気に戦力が減るからよ……連絡したら直ぐに戻ってこいよ」
「大丈夫だよ!」
「はい。空間を斬って戻りますから、安心してください」
「ならいい」
ラクロアの不安も理解できるからな。だが、国全体で天変地異が起これば移動もままならないだろうし、大丈夫だろう。