24精霊達の戦い
キリル
さて、父さん達を帰らせたので遠慮無く戦えます。背後に居るアイディリアも大丈夫でしょう。
「アイディリア、殲滅です。1匹たりとも通しませんよ」
「きゅい!(当たり前)」
「そうですね。それにお互い進化は目の前。盛大に暴れましょう」
「きゅう(羽化すればこっちのもの)」
「期待しています」
石化されたキラーマンティス達が破壊された瞬間、瞬時に接近しながら風を纏わせた大鎌を振るい、風の刃が混じった暴風を発生させて、石化されたキラーマンティスの残骸も刃と変えて相手を吹き飛ばす。石の飛礫と風の刃、それに加えたアダマンタイトの剣も混じればそれは凶悪な兵器になる。
「93体を殺しましたね」
「きゅい(まだまだいる)」
「ええ、殲滅です」
死体を風で集め、背後に壁を作ると同時にある程度アイディリアが捕食していく。程なくして、後続がやって来る。瞬時に接近してひと振りで数体を斬り殺す。その間にアイディリアがキラーマンティスの軍団内部に剣を飛ばしてどんどん貫通していく。
「おっと、甘いです」
背後から振るわれて鎌を斜め後ろに飛びずさりながら避けると同時に鎌で胴体を切断する。瞬時に前の連中が突撃をしてくるので回転しながら切り裂く。左、右、上、右、後、左、後、前、右と次々襲いかかって来る攻撃を避けながら、逆に数体纏めて斬り殺していく。ただ、視界に映る効率の良い殲滅線に添って行動するだけ。剣と大鎌が乱舞する殺戮の宴を楽しむ。
数時間も経てば、増援を背後に配置して後ろを気にせずに殺し回れた。すると、相手側も赤いキラーマンティスが出て来た。
「上位種ですか」
「きゅい(みたい)」
そのキラーマンティスは今までの奴より圧倒的な速さで接近して鎌を振るってくるので、こちらも受け止めるしかなかった。しかし、受け止めた瞬間には弾き飛ばされた。
「強いですね」
「きゅー」
弾き飛ばされている間にも相手から接近してくる。そこにアイディリアの剣が四方八方から飛んでくる。それらをあざ笑うかのように鎌を振るって弾き飛ばす。
「きゅい(欠けた)」
「そうですね」
アダマンタイトの刃によって、相手の鎌が欠けた。こちらの剣も同様ですが、どちらにしろ危険きわまり無い敵。アイディリアと協力して攻撃をアイディリアに任せ、こちらは回避しながら遠距離攻撃を行う。相手の速さに接近を許してしまうが、そこは仕方無い。鎌と鎌をぶつかり合わせ、身体を切り裂かれながらも後退をしながら戦う。相手は背後などから飛来する剣を防がなければならない。だからこちらが有利だ。何度も何度も打ち合った後、かろうじて敵の片方の刃を破壊できた。剣は全てボロボロになったし、ここは勝負に出る。
「行きますよ」
「きゅい(ええ)」
接近と同時に振るわれる鎌をわざとそのまま受けて、片腕を斬り飛ばさせると同時にもう片方の手で相手の腕を切り裂きながら回転する。
「ちっ、浅い」
勝ち誇った瞳で睨みつける敵は別の刃で首を切断された。そう、私の斬り飛ばされた腕でだ。腕にはアイディリアの糸が付いていて、それを切断して安心したようだけど、浮遊術で操ってしまえば関係無く、さらにアイディリアが新たに私の腕に糸を取り付け、勢いよく私が回転しながら引き寄せて、一気に切断した。
「強かった……っ」
「きゅい(進化)」
相手の赤い鎌を一つ残して光となった相手の身体を私の身体に取り込む。同時に選択肢が出て来た。
【完全人型形態orマンティス形態】
私は完全人型形態を選択すると、身体が作り変わって手が現れた。大鎌は機械仕掛けの真紅の刃となって傍らに存在する。何時でも出し入れ可能だと理解出来た。服装は変わらないけれど、ブレスプレートやブーツなどが赤くなっている。胸も大きくなっているようで、少し苦しい。
「アイディリアはどうですか?」
「きゅい(肉体形成中)」
「って、人の背中で羽化するの!?」
「きゅ、きゅるる(もう、遅い)」
「はぁーどうせなら戻ってから羽化してね。母さんと父さんに見せた方が良いし」
「きゅい(わかったわ)」
「お前達はここの防衛を……って、この子達も変わってるし……」
私と同じように鎌ではなくて手が現れていた。ただ、刃も普通なのだけど。どちらにしろ、これはこれで有りかな。
「水精霊と神聖水樹のウッドゴーレムが到着したら、警備をお願い」
「「「はい」」」
全員、ちゃんと喋れるようになったみたい。ドワーフの半精霊を1人連れて、無理矢理大鎌……デスサイズの性能を上げて貰いましょう。
「きゅ、きゅい(それ、頂戴)」
「これですね」
「きゅい(ありがとう)」
アイディリアに残った赤い大鎌をあげた。後はアダマンタイトの破片も含めて死体も全部吸収した後、私はアイディリアを連れて母さん達の元に戻った。
クロネ
ママの求め通り、生贄を探す。街へと移動して魔力の多いものを探す。でも、見つからない。探知範囲を広げる。他の同胞達にも手伝って貰って探す。少しして遠くの方に居る同胞から連絡が来た。商会に付いて、今は遠くに居るからその同胞を目安にして転移する。
「にゃあ」
「にゃあ」
同胞の影へと転移して、周りを見渡す。そこはどこかの屋上で、遠くには周りを囲う大きくて巨大な防壁。中心にも大きな建物があって、防壁まであるとっても大きな場所。
「侵入は……」
「にゃあ(無理)」
「にゃあ。結界……」
魔物避けの結界が貼られていて、途中から侵入出来ないようになっている。結界を通りに抜けるには弱すぎる者か強すぎる者じゃないといけない。
「狙いはあの中の奴」
「にゃあ、にゃにゃあ(そう、出て来るのを待つ)」
「にゃあ、急ぐ」
「にゃーご、にゃにゃ(2時間後、ワントライ可能)」
「にゃあ。待つ」
同胞の配下達を呼び寄せながら、リンにも協力を要請して寄生精霊達を借り受ける。彼女達は単体なら弱すぎる者に分類されるけれど、来るならそれ相応の準備をする。
「お呼びとあらば即参上だよ」
「にゃあ。よろしく」
「任せてよ。派手に行く? それとも苦しめる? 殺し合いをさせる?」
「にゃあ。殺し合い」
「了解だよ! みんな、其処ら中に寄生しちゃって!」
リンの命令で連れて来た同胞達に寄生していた精霊達が手当たり次第に寄生していく。そして、そのまま普段通りに生活していく。同胞達は街中に散っていく。
「にゃあ。危険な奴がいる。手出しは駄目」
「了解。アレは化け物だね」
街中に散らせた同胞達が、数人だけ危険な存在を見つけた。私達じゃまだかなわない。なら、手段を変えるだけ。
「にゃあ。シズクに連絡して、水の精霊に2時間後くらいに指示したら、ここに雨を降らすよう、お願いしてきて」
「にゃあ(承知)」
後は待つだけ。目標以外はどうなってもいい。ここも燃やすのもいいかも知れない。でも、撤退には雨が使える。なら、燃えない。諦めて、別の方法をお願いする。
「ねえねえ、クロネ」
「何?」
「どうせなら、武器とか防具とか、マジックアイテムとかも奪ってこうよ」
「にゃあ。それはいい考え。襲撃中に保存場所ごと丸ごと奪う」
「根こそぎだね」
「にゃあ。根こそぎ」
街中にある道具屋、武器屋、魔法屋、診療所、ギルドに寄生させた存在を入れる。そいつらから、同胞にゲートを繋げて配置する。これで準備は完了。
2時間後、防壁の向こうから人が出て来た。金色の綺麗な長い髪の毛に赤い瞳。ツインテールにした髪の毛はブンブンと揺れて、動きやすそうな綺麗なドレスに身を包んでいる。周りには高そうな重装備に身を包んだ護衛の兵士達が居る。領主の娘から手に入れた情報からすると、あの護衛は近衛兵の中でもロイヤルガードと呼ばれる存在らしい。
「護衛なんていらないよ!」
「姫様、そういう訳には行きません」
「御身に何か有れば、我が国の損失です」
強そうなのは30人居る中で1人だけ。正確には姫と呼ばれた奴も含めれば2人。魔力が大きいから警戒には値する。他の護衛達はどうにかなる。でも、護衛の中で弱い奴らが中心に5人くらい居る。豪華な服を着ているけど、戦闘を考えて居ない。
「今日は王都に来ているモンスターサーカスを見るんだから、邪魔しないでよ」
「はい。準備は出来ています」
「このわたくしめが姫様の為に素晴らしいお席をご用意致しました」
「あっそ。じゃあ、さっさと行くわよ」
目標を決定。でも、モンスターサーカス……使えそう。
「予定を変更。モンスターサーカスを調べる」
「OK」
「にゃあ(こっち)」
ゲートで移動した場所は大きなテントの中。そこには無数の檻がある。その中には沢山の獣型モンスター達が居る。
「おい、なんだお前……がはっ!?」
瞬時に接近して当身の一撃を決めて気絶させる。
「寄生して」
「ほいほい、お願いね」
寄生された男が起き上がる。外にも近づいてくる気配がある。
「にゃあ。散開」
瞬時に影の中に隠れて近づいて来る連中を待つ。
「おい、どうした?」
「ちょっとこっちに来てくれ」
「ああ」
武装した数人が寄生された男に呼ばれて奥へと入る。その瞬間、背後から強襲して全員を倒す。
「にゃあ。サーカス全員、倒して寄生」
「にゃあ!!(了解!!)」
皆が散ったあと、私は閉じ込められている獣達を見る。居るのは額の中央に一本の角が生えた馬や翼を持つ馬、身体の前半身が鷲で後半身が馬の奴や三つの頭を持つ大きな犬、鷹の翼と上半身にライオンの下半身をもつ奴や大きな猫など、沢山居る。
「お前達、私に従うなら仲間に入れてやる」
私の言葉で黙っていた連中が声をあげだす。騒がしくなるが大丈夫。
「それが嫌なら代わりに仕事もしてもらう。その後は好きにしていい。返答は?」
「ぐるるるる(巫山戯るな)」
「ぎゃおー!!(いいから外せ)」
「にゃあ。嫌。というか、五月蝿い」
2、3体を闇に取り込んで食い殺す。首輪で制御されている相手なんか雑魚でしかない。黙った後で、もう一度聞く。
「にゃあ。返答」
「ぎゅる(一度だけ手伝う)」
「ぎゃお(暴れる事なら)」
額の中央に一本の角が生えた馬ユニコーンや翼を持つ馬ペガサスは仲間になるそうだ。他は仕事で解放を望んだり、見極めてからという事だった。
「にゃあ。じゃあ、先ずは受け入れる。終わったら、解放する。復讐したいなら、力も貸す」
一斉に返事をして、喜ぶ者達に寄生させた後、全員を解き放つ。こちらを襲ってくる奴は寄生した子達に制御されているから大丈夫。
「じゃあ、狙うはこの人間の女以外。好きにしていい。でも、指示があるまで隠れている」
嫌がる者達も居るけど、自由になる為だと素直に従う。逆らいたくても逆らえないけど。
サーカスの連中も表に移動させてお出迎えの準備をさせる。モンスター達は一旦、私の闇の中に入ってもらう。その後、私はグリフォンに乗せて貰って上空から観察する。少しして、そこに兵士を引き連れた姫がやって来た。
「ここか、楽しみだ」
「どうやら、歓迎の準備が出来ているようですね」
「うむ」
「ようこそおいでくださいました。歓迎いたします、姫様」
「うん、楽しみにしている」
充分に近づいた所で、支配人がテントの扉を開ける。
「ゲート。にゃあ、行け」
その瞬間に魔法を使ってゲートでテントの内部からモンスター達を解き放つ。
「なっ!?」
「ひぃぃっ!?」
モンスター達は護衛の兵士達に襲いかかって食い散らかす。魔法も使っての大暴れだ。
「姫様、お逃げくださいっ!!」
「う、うんっ!!」
一部の兵士が真ん中に居た奴らを庇いながら、後方に下がろうとする。でも、甘い。
「ケルベロス、ガルム、行け」
ゲートで奴らの背後にケルベロスとガルムを出す。他にもヒポグリフ達も左右から出す。
「貴様ら、姫様を守るのだ!! 隊列を組めっ!!」
指揮官の声で隊列を組み直して、対抗しだす。ケルベロスの強化されたブレスにもなんとか対応しだす。
「にゃあ。出る」
目標に飛ぼうとしたが、弾かれたので瞬時に指揮官の影に転移して、その首を斬り裂いて闇に潜る。さらに混乱を助長させる。でも、その間に獲物は逃げていった。問題は無い。これはついでだから。
「姫様、急いで城に入り、私の部下を出しましょう。私が連れてきた領主軍なら大丈夫です」
「う、うん……わかった……任せる」
「いえ、姫様。ここは王都の軍で大丈夫です」
直ぐにグリフォンで街の中を馬に乗って走っている目標を発見した。流石に魔法対策はされている。でも、大丈夫。
「な、なんだお前達はっ!!」
「どけっ!! 姫様のお通りだぞ!!」
「な、何事ですか! モンスターの叫び声がっ!!」
住民達が一斉に騎士達の方へと走っていく。騎士達はそれを弾き飛ばしたりして進もうとするが、どんどん住民は増えていく。
「このっ!」
ついに騎士が住民を斬り裂いた。後は簡単だ。
「斬りやがったっ!! このままじゃ殺されるぞ!」
「殺られる前に殺れ!!」
暴動に発展し、死を恐れない住民と騎士の戦いが始まった。
「にゃあ。グリフォン、アレ、殺せる?」
「ぐるるる(奇襲で可能だ)」
「じゃあ、やって」
ゲートで移動し、グリフォンが目標の近くで庇っている男へと向かう。私は別の兵士の影へと転移し、瞬時に目標に襲いかかる。
「姫様っ!!」
「っ!? なめるなっ!!」
魔法を瞬時に構築して放とうとするが、遅い。遅すぎる。片手で突き出された手を弾き、そのままもう片方の手を掴んで背後に周り、弾いた手も尻尾で押さえつけて確保する。
「このっ、離せっ!!」
「無駄」
「姫様を離せ、下郎っ!!」
「っ!? カドマス!! 避けて!!」
背後から突撃してくるグリフォンに気づいて警告を発するが、もう遅い。
「がはっ!? ひめ、さま……」
護衛の連中は吹き飛ばされ、着地地点に闇の槍を作って串刺しにして殺す。護衛の連中も全部倒したのを確認して、住民を含めて全て飲み込む。まだ、殺しはしない。確保だけだ。
「ご苦労様」
「これから私達は撤退するけど、暴れたい奴は暴れていいよー」
モンスター達は鬱憤を晴らすように暴れまわる。でも、グリフォンはこの場に残り、ケルベロスはこちらに来た。
「お前達は仲間になる?」
「ぎゅる(なろう)」
「ぐるるるる(楽しませてもらったからな)」
「にゃあ。わかった」
グリフォンとケルベロスを闇に取り込んで目標を見ると、気絶していた。このままじゃ取り込めないから全部剥ぎ取って裸にしたあと取り込む。転移を防いでいたアイテムは外したらガルムの尻尾にでも取り付けておいた。後は撤退するだけ。
「にゃあ。帰る」
「他も予定通り……っと、ヤバいのが来るよ!」
「にゃあ、撤退」
潜った瞬間、さっきまで居た場所が炎に焼かれるのが見えた。危なかった。
「追ってこられても面倒だから、無数に転移してから逃げようよ」
「にゃあ。賛成」
適当に移動し、途中で同胞の転移も使ってバラバラに、無数に転移の後を残して逃げた。