23新たな敵
上層の数え方は普通に1、2、3、4だ。地上部をある程度制圧したら、調整が必要になる。さて、現在俺はアイディリア、リコリス、ハクア、キリルと共に上層4層へと侵入した訳だが、なんというか早いな。
「楽ですね」
「ハクア様々だな。ありがとう」
「しゃー」
俺とリコリス、アイディリアはハクアこと白蛇・大蛇に乗りながら移動しているのだ。全長は100メートルもあり、横幅は1メートル。並の敵ではガブリと丸呑みだ。ちなみに乗鞍だけは取り付けさせて貰っている。酔いそうで大変だが。
「っと、敵だな」
和弓を取り出して、背中の矢筒から矢を引き抜いて番える。巨大なアカゲラがこちらに隊列を組んで襲いかかって来るのでそいつらを射る。放たれた矢はアダマンタイト製だけあって、アカゲラを数匹纏めて貫通した。
「gryhs」
続けて射る為の少しの間をキリルが風の刃を放って埋めてくれる。接近されると、ハクアからリコリスとキリルが飛び出して、虐殺を開始する。といっても、リコリスは空を飛べないのでカウンターで叩き斬る程度だが。その点、キリルは左右に避けながら相手を斬り裂き、自由に飛び回っている。翅に触れた敵すら切り裂かれているので、戦闘能力はかなり高い。
「シャーッ!」
そして、2人を突破してきたアカゲラはハクアに噛み付かれて殺されたあと、丸呑みされる。
「後方からも来たな。アイディリア」
「きゅい」
後方からは1メートルほどに巨大化した大きなクワガタムシことスタッグビートルが6匹飛んでくる。その大顎はギザギザの鋭い刃が存在し、明らかに殺傷を目的としている。捕まれば確実に身体が分断されるだろう。
「きゅるるー!」
無数のアダマンタイト製の剣が浮き上がり、スタッグビートルに向けて飛翔して行く。剣と剣の間には鋼糸が張り巡らされていて、剣を回避したスタッグビートルを捕らえていく。そして、剣が方向転換してスタッグビートルに突き刺さる。それすら、抜けた奴は俺が射抜くし、アイディリアから放たれる粘着糸に絡み取られて動けなくされた所を殺される。
「ご苦労様」
「簡単でしたね。武器の斬れ味が全然違う御蔭ですけど」
「そうだろうな。まあ、アイディリア、食べていいぞ」
「きゅい!」
スタッグビートルとアカゲラを捕食していくアイディリアを置いて、キリルとハクアの頭を優しく撫でてあげる。しばらくして食事が終われば移動だ。
移動から少しして前方から悲鳴が聞こえて来た。俺はリコリスを見る。彼女も頷いた。
「ハクア、向かってくれ。今ここに居るのは味方のはずだ」
「シャー!」
急いで向かうと、予想通りニャンコと半精霊の女の子に半精霊の男の子とキラーマンティスが居た。ここまでは理解できる。ただ、相手もキラーマンティスのようだ。それも数が多い。
「おい、どういう事だ?」
「hsrya」
何が言っているかわからないので、さっき手に入れたRPを使ってキリルに言語を習得させる。自然に覚えさせた方が得だが、そうは言っていられない。
「キリル、これで喋れるか?」
「はい。父さん、あのキラーマンティスは配下じゃありません。ただの敵です。眼で確認してください」
「ん?」
キリルの綺麗な声に言われて確認してみると、キラーマンティスと書かれているが、種族欄には昆虫としか載っていない。本来、あるべき精霊が無い。いや、逆だが、こっちが俺の常識だ。
「アイディリア、キリル、構わんから倒せ」
「はい」
「きゅい!」
俺も矢を放つ。アイディリアの剣と矢が飛んでいき、子供達を襲おうとしていたキラーマンティスを矢が頭部を破壊し、剣が切り裂く。だが、奇襲が成功したのはそこまでだった。次々に射るのだが、鎌によって弾かれてしまう。和弓の威力が全然足りん。初期装備だから仕方無いんだけどさ。
「ああ、面倒だな。ハクア、突撃して石化させてしまえ」
「しゃしゃー」
飛び降りた俺と俺が抱えたアイディリアとリコリス。直ぐにハクアがもの凄い速度で突撃していく。
「キリルは護衛してやれ」
「はい!」
半精霊達をキリルが背後に庇いながらキラーマンティス達を切り伏せていく。その少しあとにハクアの尻尾の1擊が纏めてキラーマンティス達を吹き飛ばし、その直ぐ後で瞳から石化の光線が放たれ、大概のキラーマンティス達は石化して動けなくなった。その背後から来るキラーマンティス達は石化した同胞で通せんぼ状態だ。だが、石化した物を攻撃して破壊しようとしている。
「先に残りを殲滅します」
「ああ、頼む。アイディリアも援護だ」
「きゅい!」
矢を射ちながら、リコリスの突撃を援護しつつ瞳で周りを警戒する。幸い、背後からの強襲はしばらくこないがキラーマンティス達がかなりの量、存在する。いや、キラーマンティス達がアカゲラやスタッグビートル、ビートルと戦い、殺して捕食している姿が見える。よくよく考えれば、キラーマンティス達も虫だし、普通に存在してもおかしくない。むしろ、あのコストの低さは連中が精霊樹の中で繁殖していたなら納得だ。
「おい、お前達は1体以上相手するなよ。女の子は回復に専念して、残りの3人で確実に殺せ」
「はい!」
「分かりました!」
子供達に指示をしながら、俺も近づいていく。するとわかったのだが、女の子と男の子が1人ずつ倒れている。それとニャンコとキラーマンティスもだ。どうやら半精霊4人と精霊4人で戦っていたようだが、数に押し負けたようだ。
「霊薬は?」
「もう使っちゃって……」
「なら、これを使って回復させろ。このままじゃ死んでしまう」
俺はバッグにある霊薬を渡し、さっさと回復させる。
「あ、ありがとうございます!」
しかし、ホワイトアントの次がキラーマンティスか。恐ろしいな。だが、質はこちらの方が上だ。
「死になさい」
何より、マンティス・エンプレスのキリルの威光を受けて明らかに動きが鈍くなっている。そこをキリル本人とリコリスが回転しながら、2人で立ち替わり、入れ替わりながら暴れまわって斬り殺していく。それに加えて、こちらのキラーマンティスは明らかにブーストされた感じで先程まで数に押されて居たのに平気そうな感じで戦っている。なんていうか、一般の殺人者と軍人の違いみたいな感じだ。
「きゅ、きゅぃぃぃぃ!」
アイディリアはアイディリアで剣達を石化したキラーマンティスの上を通らせて、向こう側に居るキラーマンティス達を虐殺していく。俺もこちらが殲滅するまでに時間が残り微かだと分かったので、キラーマンティス達の間を縫うようにして矢を放って殺していく。ハクアは石槍を生み出して、次々と串刺しにしたり、尻尾で弾き飛ばしたり、噛んだりして殺していく。
「さて、向こう側は凄い事になっているな」
上層からどんどん出て来る。丁度攻め込んで来ているような感じだ。
「父さん、あちらは私に任せてください。一旦子供達を引き連れて引いてください」
「いや、1人で残すのは……」
「大丈夫です。私1人で戦えば効率よく殲滅できます」
「駄目だ。1人で残すなんて……」
「きゅい!」
「なら、アイディリアと共に残ります」
キリルがその場でしゃがむと、キリルの背中にアイディリアが乗る。翅の付け根辺りだ。それも粘着糸を放って、アイディリアが自分の身体をくっつけた。翅自体は消えているから大丈夫だが。
「これなら平気です。アイディリアの剣が遊撃を行い、私が接近して殺します」
「ご主人様、この子達の事を考えると引かないと危ないです。体力の回復までは霊薬ではできませんから」
「わかった。援軍を送るからな」
「はい」
「きゅい!」
俺とリコリスはハクアに子供達と一緒に乗った後、急いで移動を開始する。
「他の人達も回収した方がいいですね」
「そうだな」
できる限り連絡を取って回収しながら戻る。増援の連絡は水の半精霊の子供に樹液を使って連絡をお願いした。支配領域ではないので、転移は出来ないが、下層からキリルの配下である精霊機械虫キリングドールマンティスが凄い速さで移動して上層へと向かっているので、大丈夫だろう。水の精霊も神聖水樹のウッドゴーレムを出しながら進出して行っている。