20精霊樹の街、開発計画
一ヶ月後、順調に建物が増えている。だが、仮設住居の数はあまり減っていない。予想以上に奴隷の数が多かったらしい。いや、現実では有り得ないくらい無茶苦茶な速度で家が建てられて居るんだけどな。取りあえず、ベットの上でラクロアに聞いてみる。流石に4人を相手にするのはきついので、2人ずつだ。今日はラクロアとシズクだ。メンバーは適当に交代している。
「ラクロア、進行状況は?」
「あと2ヶ月は最低でも居るかなー。防壁もあんなんじゃなくて、ちゃんとしたのも作らないといけないし、公園も作ってくれって話だしな」
「確かにそうだな」
「これが計画書だぜ」
見せられた計画書は俺が渡した資料を元に作られた徹底的に整理されて管理された街で、至る所に水路が張り巡らされている。精霊樹の周りを泉にしてしまい、橋と船で行き来するように設計されている。
「おい、移動はどうするんだ?」
「大丈夫ですの。クロネに協力させてますので、地上の移動は完了しておりますの」
「アタシ達が得た土の精霊の力で精霊樹の周りを陥没させて、神聖水樹を周りに何本か植えた。この神聖水樹には旦那様の好きな桜を咲かせるように調整しておいたから」
「そこまで改造してるのかよ……というか、また何故だ?」
「作ろうとしていた街はどうしても防衛能力が低いんだよ。内からも、外からもな。防壁じゃたかが知れているし、どうせなら回復を更に早めちまう為にも汚染された土の撤去が手っ取り早かったのもある」
「ですので、街の中心に精霊樹を配置し、その周りを泉で囲みつつ、神聖水樹に浄化と精霊樹の回復を手伝わせますの。それと、この泉は半精霊と人間共の食料確保も理由ですので、プランクトン達も育てますの」
よく計画書を見たら、ヴェネツィアの街を参考にしているようだ。建物も地面とは数段高くしてあり、明らかに水責めを行うように調整されている。敵を引き込んだら、押し流すのだろう。いや、いっそ水没させてしまうのかも知れない。どちらにしろ、水の精霊達が自由自在に戦えるように調整されている。
「外側は普通の防壁か?」
「精霊樹の森に侵入者が多いようだからな。だから、最終的に森全体を防壁で囲んで、その周りに水堀を作る予定だぜ。水堀には大量の槍をセットしてな」
「精霊樹の森そのものを街にする気か……まあ、いいか。というか、これを2ヶ月だけでだと……できるのか?」
「整地とか、基礎工事だけでも精霊の力で一瞬なんだぜ? しかも、超低コストで思った通りにできやがるし、魔力回復は水精霊の霊薬を飲み放題だ。家づくりは半精霊の連中にも手伝わしてるし、不眠不休でやればなんとか2ヶ月で完成させられるぜ。といっても、中身は全然だろうけどよ」
「そうか。そういえば、昨日リコリスから連絡が来たな。なんでも、訓練場所を作って欲しいそうだな。冒険者達が子供達に戦い方を教える代わりに金が欲しいとの事だったな」
「そういえば、冒険者の仕事は1日冒険したら、2日から3日休むのが普通だったな。その間に仕事を入れたいのか」
確かにこちらとしても戦い方や冒険者の考え方を得られるのは得になるな。キリル達がやっているのはあくまでも自身のスキルとステータスによる力づくだ。技術はあまりない。キリルは鎌修練で普通よりは扱い方が上手いけど、簡単に実力を上げるには人間の積み上げてきた技術が必要だ。
「いいんじゃないか? 月、銀貨50枚でいいぞ。1週間に2日働いて、残りが休みなら3日だな。朝10時から夜19時まで働いて貰えばいいか。休憩は昼30分、残りは自由にで。昼飯は出せばいいだろう」
4週間と計算しても、12日働くだけで50万だ。十分に美味しいだろう。
「わかった」
「お父様、いっそのこと、学校とかいう物を作ればいいと思いますの?」
「学校か? いや、それ以前にどこからその言葉を……」
「本ですの」
「あっそう……」
取りあえず、メリットを考えよう。冒険者が強くなるが、寄生させて味方に引き込んだり、寄生させられなくても装備に寄生精霊を宿して、学生証として装備を強要し、経験値を掠め取れば問題ないな。装備は腕輪にして、寄生精霊に回復魔法や補助魔法をかけさせれば問題無いだろう。腕輪も成長すると言っておけば、経験値が減っていても納得するだろう。実際、寄生精霊が成長するんだしな。つまり、メリットは戦力が増えて、他のダンジョンに送り込みやすくなり、冒険者の技術を逆に手に入れられる。逆にデメリットは冒険者が強くなりすぎ、こちらのダンジョンを攻略されてしまう事だ。だが、これは寄生させて地下に行かないように誘導すれば大丈夫だと思う。
腕輪は最終的に値段交渉で回収してもいいし、構わないな。いや、色々と保険を入れておくべきだろうが。
「構わないな。それも計画に入れてくれ。そうだな、取りあえずは青空教室でいいか。椅子と机だけ用意して教育を初めてくれ」
「あいよ」
「それと、毒を入れた後に爆発する腕輪とか作れるか?」
俺は構想をラクロアに告げて実現可能かを聞いてみる。
「ん~結論から言うと可能だぜ。特殊な金属を使うが、あれはすでに解析して構造も理解しているから、アタシ達半精霊のドワーフなら生産できる」
「じゃあ、最終的にはそれを量産してもらうか。毒はアレを使えばいいし」
「外部からの人間も最終的に受け入れて利用する為ですのね」
「ああ。利用できるのは利用した方が良いからな」
「おーし、じゃあお風呂に入ってさっぱりしたあと、飯食って仕事に行くかーって、風呂だ風呂! この風呂を上の所にも作らねえか? 絶対に作るべきだ。これだけで作業効率がよくなるぞ。疲れが完全に消えるからな」
「なら、そっちはシズクに任せる」
「了解ですの。では、お父様の部屋にある資料を使って露天風呂とか作ってみますの」
どうやら、俺のプライバシーは無いようだ。まあ、もうどうでもいいけどな。可愛い嫁に娘達と愛人が居るのだし。
「どちらにしろ、俺はレベル上げだな」
「頑張ってきてくださいですの」
「ああ」
「そういえば、リコリスと剣と矢を作っておいたから、アイディリアと一緒に使ってくれ」
「ありがとう、助かる」
「気にしなくていいぜ」
笑うラクロアにキスした後、3人でお風呂に入る。その後、リコリスとクロネ、リンの3人と合流し、朝食を食べる。それが終わると、俺はリコリスと共に装備を持ってリアの元に向かう。
「リア?」
「……」
「どうした?」
「……リア、要求、する……」
「なんだ?」
「……リアとも、エッチ、する……」
「えっと、それは駄目だ」
「……ぐすっ……」
涙をポロポロと流して片手で抱いたアイディリアに顔を埋めるリア。
「な、泣くなって。身体が元に戻ってからだ。少なくとも腕を治さないとな……」
「や」
「いや、やって言われても……」
「……やな、ものは、や……」
「きゅるー」
アイディリアもどうにかしてと、見詰めてくる。
「じゃあ、取りあえず本番は無しだ。そこまでなら大丈夫だろう」
「……ん、それなら……我慢、する……」
「じゃあ、アイディリアを渡してくれ」
可愛がるだけで我慢して貰おう。着実に精霊達も増えて居るから、治るのは時間の問題だろう。タイムリミットは伸びないながらも停止している。時間はある。だが、これは何かあれば覆される。それを起こさないためにも警備は必須だな。
「アイディリア、リコリス。ハクア、キリルと合流して上階を目指すぞ」
「きゅい!」
「はい」
取りあえず、上層でレベル上げを行いながら警備を強化しよう。防壁をしっかりと準備しておいて、また毒を投げ込まれないようにしないといけない。投げ込まれれば、浄化が間に合わずに今の均衡が崩れるだろうから。