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16街へ行ってみる

 





 取りあえず数日経っても誰も侵入者がこない現状を考えて、俺は出かける事にした。護衛として、獣人バージョンのクロネと人間バージョンのシズクが一緒だ。シズクに関しては水の精霊核を取り込ませて、胸に配置する事で人間のように思わせると同時に大量の水を圧縮して身体を作り上げた。水死体のような感じになるが、そこは調整して青白い肌から白い肌にしてもらった。クロネは肉球グローブとかでごまかして、闇の精霊核を胸に入れている。闇の精霊核は本当に微かにしかないが、クロネには馴染んでいる。

 さて、数日かけて向かった場所は簡単だ。


「さて、やって来ました。街だぜ」

「にゃあ」

「ですの」


 大きな防壁に守られた城塞都市だ。もっぱらの敵地である。5メートルもある防壁が周囲を覆い、入るのは南北にある門だけだ。当然、そこには警備兵が存在している。ちなみに門には多数の商隊などがある。俺達もその一つだ。


「確認した。通っていいぞ」


 俺達が先ずした事は商隊を襲う事。そして、商隊を全て寄生させて味方にしたあと、一緒にここに潜り込んだ。兵士も問題無く通してくれた。もちろん、寄生させたからだが。さて、門を開いて中を見ると、仮設テントや炊き出し、焼け落ちた家々の残骸などがある。


「思ったよりも復興が進んでいないな」

「ふふ、仕方ありませんの。領主含む駐留軍と冒険者ギルドがいがみあっていますから、あんまり進んでおりませんの」

「にゃあ。重傷者、多数」

「それもありましたの」


 聞いた話じゃ、寄生させた奴らに殺し合いをさせて敵も味方もわからなくさせたらしい。つまり、疑心暗鬼の上に責任の擦り付けが行われていると。だからこそ、今回の目的に沿うんだけどな。


「では、先ずはギルドから行きますの?」

「そうだな」

「……我慢するにゃ」

「ああ、頼むぞ」

「はいですの」


 殺意を押さえて貰いながら、クロネの案内に従って移動する。商会の連中から離れる時に商業ギルドの紹介状を貰っておいた。しかし、木箱を持っての移動なのでだるい。だが、大事な商売道具なので仕方無い。

 ギルドは3階建ての大きな建物だったが、現在は警備兵が立っているようだ。そして、それを睨みつけている冒険者が居る。お互いにお互いを監視しているようだ。そいつらを無視して入ろうとしたら、止められた。


「ギルドに何の用だ?」

「魔法薬を売りに来た。先ずは査定だけどな」

「成程、わかった通っていい」


 ギルドの冒険者に箱の蓋を開けて、無数の瓶が入っている事を確認させる。許可を貰えたので、中に入ろうとする。


「待て!」


 すると、警備兵の方から待ったがかかった。


「領主館の方で冒険者ギルドよりも高値で買い取っているぞ!」

「嘘ほざくんじゃねえ!!」

「貴様らこそ! 我らにこそ必要なのだ!」

「こっちもだ! いったい何人の怪我人が居ると思ってやがる!」

「我々の方もだ! だいたい、ギルドの責任だろう!」


 言い合っている奴らを無視して中に入る。クロネとシズクは楽しそうに笑っている。だが、気にしないぞ。

 そして、中に入って買取カウンターに並び、順番を待つ。


「くすくす、とても混乱していますの」

「にゃあ。計画大成功」


 小さな声で楽しそうにしている。2人を放置して買取表を見ると、肉体回復関係の魔法薬の値段がとんでもない値段になっている。今の金額が100だとすると、貼り付けられた紙を捲って前の値段を見ると1だ。100倍の値段が付いている。最低ランクの回復薬でもこれなのだから、上に行くほど倍率こそ変わらないが値段は凄い事になる。


「お待たせ致しました。次の方、どうぞ」


 綺麗なウサミミの女性がカウンター越しに呼んでくれた。そして、カウンターに行ってみる。クロネとシズクはちょっとムスっとしたが、気にしない。だが、止めておけば良かったと後悔した。何故なら……


「今日はどのような御用でしょうか?」


 声は綺麗だ。髪の毛も長くて女性だと思った。だが!!

 その身体は筋肉隆々で、胸板が厚く肩幅も大きい。そう、女性ではない。男性なのだ!!

 それも、女装した奴だっ!!


「さ、査定をお願いします」

「ぷくく」

「……にゃ、にゃあ……」


 2人は後ろで笑っているが、放置して瓶にシズク印の地底湖回復薬を入れただけの魔法薬を渡す。


「では、ランクを調べるわ」


 女装バニーの職員は手元の物に一滴垂らしたあと、棒の様な物で調べていく。そして、その表情が驚愕に染まった。


「ちょっとアンタ!! これをどこで手に入れたのよ!」

「にゅ、入手先は秘密です」


 女装バニーの職員が顔を近づけて来るので慌てて下がる。そして、女装バニーの職員は後ろに控えているクロネとシズクを見る。


「成程、ハーフか知らないけど、エルフね……なら、なんとか納得できるわ」

「それで、鑑定結果は?」

「これは水精霊の霊薬ね。買取金額はひと金貨1枚だけど、今なら100枚ね」


 金貨1枚が100万円相当らしいので、かなり高い。ひと瓶で1億だ。


「た、高いな」

「ふふん、当然ですの」

「そうよ。これは切り落とされた肉体を繋ぎ合わせて再生させる効果まであるんでから、高いのは当然! 自身の身体ともいえるので、水精霊から滅多に貰えない物よ」


 家には腐る程あるのにな。浄化装置と水の精霊達が屯している地底湖はもともと魔力をふんだんに吐き出す聖域やパワースポットの類だから、水の精霊が溶けている水は尋常じゃない回復力を持つんだな。家では飲料水や調理水とか、身体を洗ったりにも使ってるけど、凄い勿体無いのか。


「これが査定表よ。それじゃあ、売ってくれるかしら?」

「いや、さっき兵士の人が領主館で高く買ってくれるそうなので、両方回ってから決めます」

「……アンタ、いい度胸じゃない……」

「商売人ですから、高く買って貰える所に卸すのは当然でしょう? こっちも結構無理して用意した物ですし、お金は多くいるので」

「領主館の後でまたきなさい。あっちの査定しだいじゃ、高く買ってあげる。3箱あるみたいだから、最低でも1箱は残しておきなさい」

「分かりました」


 ギルドを後にして、次は領主館に向かう。ちなみに箱の中身は上段25個、下段25個の合計50個入りで、それを5箱用意している。残り2つはクロネの影の中だ。


「おい、待ちな。そいつを渡して貰おうか」

「痛い目に会いたくないんなら、素直に渡せ」


 ゴロツキの連中が早速嗅ぎつけてきたようで、道を塞いだ。さて、馬鹿共は何処にでも居るが、兵士も見て見ぬふりを決め込むようだ。おそらく、やつらが奪った後、奪い返してくすねる気かも知れない。


「断る」

「ヤッちまえっ!!」

「クロネ、殺すなよ」

「にゃあ」


 剣を抜いて近づく男に、箱を持ったままで瞬時に接近したクロネが掌をゴロツキに押し付けて、直ぐに離れる。ゴロツキはその場で血を吐いて蹲った。


「野郎っ!!」

「えい」


 斬りかかって来るもう1人の男の剣をあっさりと避けて、ローキックを足に可愛い声と共にお見舞いする。すると、ボキッという音と共に完全に砕けた。


「あがぁっ!?」

「とどめ」


 手を踏みつけて粉砕し、何事も無かったように歩き出すので、俺も追っていく。


「よくやった。で、どうだった?」

「アントの方が強い」

「ですの。雑魚中の雑魚ですの。でも、これで見せしめにはなりましたの」

「だな」


 それから、領主館に着くまでに何人かの男に襲われたが、例外無く手足の骨を粉砕した。いや、例外があったな。


「そ、それをよこせ……」

「これは、どうしますの?」

「にゃあ。殺る?」


 目の前に居るのはボロボロの服を着た男の子がナイフを持って通せんぼしている。その後ろには同じくボロボロの布切れを着た小さな手の無い女の子が隠れている。シズクとクロネは殺して上げた方がいいのではないかと、思っているのかも知れない。少女の姿がリアの現状を思い起こさせたのかも知れない。巻かれた包帯は血が滲んでいるし、微かに見える傷口は焼かれた痕がある。


「殺るのはまだだ。おい、小僧。両親はどうした?」

「死んだよ! 俺とリアラだけで、食うものにも困ってんだ! だから、1個でいいから……渡してくれ! このままじゃ、リアラまで死んじまう!」


 泣きながら言ってくる男の子に、俺の判断は簡単だ。利用できる物は利用する。それが人だろうとなんだろうとだ。


「良いぞ。ただ、お前達の働き次第だ。そこの領主館に用があるからちょっと待ってろ。その内容次第でくれてやる。交渉が成立する事を願っていろ」

「ほ、本当だな!」

「疑うなら見張っていろ」


 子供を無視して通り過ぎ、領主館の前に居る兵士に要件を告げる。


「水精霊の霊薬を多数売りに来た。領主と直接交渉したい。これが紹介状とギルドの査定表だ」

「わ、わかった。待っていろ」


 兵が直ぐに中に入った。


「お父様、何に使うかはわかりますが、役に立ちますの?」

「まあ、受付にはできるし、子供も居た方が怪しまれない」

「わかりましたの」

「にゃあ。パパに従う」


 それから、少しすると兵士と共に執事服を着た男性が現れた。


「水精霊の霊薬をお売りいただけるとの事でしたか、本物か鑑定させていただいてもよろしいですか? 何分、ギルドの鑑定を偽造する物もおりますので。もちろん、私は鑑定スキルを所持していますので、お手間は取らせません」

「分かりました。どうぞ」

「はい……確かに本物ですね。どうぞ、館にお入りください」


 中に入れてもらい、応接室に通された。


「少々お待ちください」

「どうぞ、お紅茶でございます」


 執事が出て行くと、メイドが紅茶を入れてくれた。飲もうとすると、シズクが手で止めてきた。


「お父様、少しお待ちくださいですの。はい、問題ありませんの」


 シズクが指先を少し付けて毒物類のチェックをしたようだ。これで安全なのが分かったのでそのまま飲んでいく。メイドは一瞬、嫌な顔をしたが、無視する。そして、少しすると領主が入って来た。顔色が悪そうだったが、クロネの顔を見た瞬間。一瞬だけ驚愕の表情をした。クロネの顔に娘を思い出したのかも知れない。クロネを構成する元になったのは少女2人らしいからな。


「さて、水精霊の霊薬を売ってくれるとの事だが……ギルドの査定が金貨100枚だったな。こちらは1個110枚だそう」

「いえ、それではお売りできません」

「なんだと?」


 剣呑な雰囲気を醸し出すが、無視する。身体自体は鍛え上げられている武闘派のようだが、こっちには強い護衛が居るから、その程度の威圧は無意味だ。


「土地を売っていただきたい」

「そういう事か」

「はい」

「どこの土地だ?」

「ここ、精霊樹の森です」


 俺は地図を平げてダンジョンのある精霊樹の森を指定した。


「ここか……」

「こちらには精霊樹の現状をどうにかしたいと思っている者がおります。それには本格的な介入が必要との事です。ですので、こちらで買い取らせていただき、我々の好きなようにさせて貰いたいと思っています。もちろん、資金はこちら持ちでございます」

「あの状態から復帰が可能と申すのか?」

「生半可な手段では不可能ですの。ですので、次の精霊樹を生み出す為に我々はあの森を整えたいと思いますの。それこそが、我々の役目ですの」


 エルフに擬態しているシズクが、堂々と宣言しながらも自身はエルフと言っていない。向こうが勝手に勘違いしてくれるだけだ。


「そうか、わかった。なら、その3箱と交換してやろう」

「では、孤児や村人を何人か人手として頂いていきますが、よろしいですか?」

「ふむ……20人までなら許可しよう。ただし、この街からは孤児だけだ。その代わり、孤児は人数にふくまなくていい」

「畏まりました」


 契約を正式に交わして、外に出た。これであの土地は俺の物だ。まだダンジョンになって復活したなんて思っていないし、普通ならこんな値段では売り渡さない。買い取った理由は簡単だ。精霊樹の前に簡単な村を作り、入る連中を管理するのが目的だ。必要に応じて毒殺したり、拉致ったりすればいいんだからな。


「上手くいきましたの」

「にゃあ。地下を隠して上に誘導。お金も巻き上げて、儲けられる」

「くっくく、経済も戦争だぜ」


 その土地が領主の物でもなく国の物でもなければ、個人で所有する事は可能だ。この国は自由貿易同盟と呼ばれる商人達が作り出した国家だから、個人の財産はしっかりと認められている。もちろん、モンスターを出して、壊滅させたりしたら運営能力なしとして取り上げられる場合もあるそうだ。


「おい、どうだった!」

「ああ、成功だ。お前に水精霊の霊薬をやる。だが、その前に一つ仕事をしてもらおう」

「なんだ! リアラが助かるならなんでもしてやる!」

「なら、親を失った子供達を集めるのに協力しろ。お前も含めて雇ってやる」

「わ、わかった! でも、リアラを先に治してくれ!」

「ちっ。手はあるのか?」

「な、無い……で、でも、どうにかなるんだろ!」

「なら、高いがどうにかしてやる。クロネ、こいつと一緒に集めて回れ。ギルドに2箱売って、その金で飯も食わせてやれ」

「にゃあ」

「シズクはこのリアラを連れて俺と帰るぞ」

「了解ですの」


 女の子はビクッと震えて兄の後ろに隠れるが無視だ。


「お、おい、リアラを連れていくのか!」

「ああ、ここでは治療できない。先に戻ってさっさと治療する。悪いが特殊な技術だ。見せる事は出来ない。信じないなら、この話は無しだ」

「わ、分かった……リアラ、お前もいいな? 俺達には他にどうする事もできない……」

「う、うん」

「では、交渉成立だ」


 それから、別れて各々の準備に入った。







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