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09人間との戦闘

 



 精霊樹リアの森・泉




 冒険者の彼らは隊列を維持しながら泉へとやって来た。その泉に到着した時、彼らは驚いた。


「ありえません……」

「嘘……」

「おいおい、これは……」

「凄いですね……」


 彼らが見た過去の光景では、泉の周りや泉の中には、ヘドロのような黒いドロドロの物体が多数存在し、水の色は紫色になっていたのだ。だが、現在は綺麗に透き通った水面だった。泉の底にある枯れ木についた緑の苔などもはっきりと見えるのだ。ひと目見るだけでも綺麗さが理解できる程だ。これはシズク率いる水の精霊達が全力で、浄化された水やウッドゴーレムを運び、産まれてより不眠不休で地底湖の汚染源を浄化したからだ。そして、それはある副産物を生み出していた。


「っ!? 動物かモンスターかわからん。隠れるぞ」

「はい」


 何かが近づいて来る気配を感じた為、彼らは急いで木々に隠れる。それからしばらくして、子連れの鹿が現れた。その親の鹿の一頭が怪我をしているようで、泉の近くで倒れた。そして、鹿は泉の水を飲み出す。すると、怪我を負った場所が光り、みるみると治っていった。


「(おい、回復したぞ!)」

「(回復魔法というのは?)」

「(有り得ません)」


 戦士をしている人間の男性の言葉に、戦士をしているドワーフの少女が有り得そうな事を告げるが、直ぐに治癒術師をしている人間の女性が否定した。


「(では、回復水だと言うのですか?)」

「(それこそ有り得ません)」


 魔術師をしている人間の男性がそういうと、ドワーフの少女が否定した。


「(そういえば、ダンジョンには回復する泉や噴水とかがあるんだが、ここはダンジョンじゃないしな)」

「「(それです!)」」

「(馬鹿なくせに鋭いな)」

「(なんだとゴラァっ!!)」

「(黙れ脳筋)」


 戦士の言葉に治癒術師の女性とドワーフの少女が同意した。魔術師もその内容が正しいと思ったのだろう。


「(つまり、この泉の中はダンジョンに通じてるって事ですね)」

「(そうなりますね)」


 男2人を無視して、女性だけで話している。


「(どうしますか?)」

「(回復薬なのは間違い無いでしょう)」

「(では、採取して帰りましょうか)」

「(はい)」

「(2人共、じゃれてないで行きますよ)」

「「(じゃれてない!)」」

「(行きます)」


 ドワーフの少女が2人を無視して、木の後ろから躍り出て瞬時に接近する。彼女が踏みしめた地面は爆発したような焦げた状態になっていた。そして、接近したと同時にこちらに振り向く親の首に向かって、小さな身体を回転させながら戦斧……バトルアックスを振り抜く。その1擊は容易く、鹿の首を切断した。だが、ドワーフの少女はそこで止まらない。そのまま回転して、逃げようとしている小鹿の前にバトルアックスを振り下ろす。バトルアックスは小鹿に命中せずに地面へと突き刺さる。だが、少女はそのまま言霊を呟く。


「ストーンブラスト」


 少女の言霊に反応したのは、バトルアックスに埋め込まれた茶色の精霊核だった。そして、その精霊核が光ると地面から無数の石飛礫が小鹿達を目指して射出され、小鹿に命中してその体を貫く。


「お見事」

「俺達が出る出番じゃないな」

「そうですね。私は水を汲みますので、貴方達は解体と警戒をお願いいたします」

「わかった」

「任せろ」

「うん」


 治癒術師の女性の指示に従って、男2人が警戒。ドワーフの少女が解体しだした。治癒術師の女性は鞄から小瓶を取り出して泉に近づいて水を汲もうとした。狙っている存在が居るとも知らずに。






 シズクは他の精霊達を静止させ、大人しく水中でチャンスを待っていた。他の精霊達はまだかまだかとシズクの指示を心待ちにしていた。だが、シズクは鹿が殺られても動かない。何故なら、リアの指示があるからだ。シズク自身の好きにしていいなら、とっくに終わっている。リクトに教えられた水を高圧縮して放つウォーターカッターを利用すれば水中からの狙撃で決着がつくのだ。


「(まだ駄目?)」

「(まだ~?)」

「(クロネ、リン。ステイ)」


 影の中でゴロゴロ転がって暇そうにしているクロネとリン。彼女達の言葉を理解できるシズクは停止命令を出す。


「(落ち着きがないのう。どっちにしろ、お主らの出番はありそうにないが……)」

「(にゃっ!?)」

「(そんなぁ~)」

「(リンはある。クロネは……殺さないなら、男を押さえる)」

「(影縫いで可能)」


 出番がないと言われて、驚いたクロネは直ぐにシズクから言われた事を可能だと告げた。


「(それじゃあ、妾は?)」

「(ハクアはあのちっこいのを石化して。持って帰るから)」

「(完全な石化は死ぬの。手足だけにしておくか。出来れば無傷で手に入れたいしの)」

「(それは皆の働きしだい。どうやら、来たみたい。私が最初に仕掛ける。クロネは私が仕掛けたら隙を見て何時でもやっていいよ。リンは待機)」

「(わかった~)」

「(にゃあ)」


 治癒術師の女性が小瓶を持って近づいて来る。彼女は無防備だった。それは無理もない。ここにあって当然の物に違和感を覚える方がおかしい。例えそれが意思を持つ水だとしてもだ。精霊術師ならば気づけたかも知れないが、シズクが隠蔽しているので相当難しいが。


「(今、殺る)」


 女性が小瓶を水につけた瞬間、シズクは女の手を高圧縮された水の手で掴んで水中に引きずり込んだ。


「っ!? きゃっ……んぶぅうううううううううぅぅぅぅぅぅっ!!」


 そして、瞬時に身体を自身(水の精霊)の体内へと取り込む。


「エレンっ!!」「エレンさんっ!!」


 助けようと駆け寄ってくる冒険者達の前で、泉の中から治癒術師の女性が身体を泉の畔に出した。


「大丈夫かっ!!」

「ええ……なんとか」

「本当に大丈夫ですか?」

「大丈夫」


 治癒術師の女性はその場から動かず、その場に止まる。ドワーフの少女が心配そうに近づいて、タオルを鞄から出して渡す。治癒術師の女性はそのタオルを受け取らずにドワーフの少女の腕を掴んで引き寄せて抱きしめる。


「え? エレンさん……? ふがぁっ!? んぐぅぅぅぅっ!!!」


 そして、瞬時に治癒術師の女性の手が崩れて、水の輪となりドワーフの少女の身体を拘束し、口内に水を叩き入れた。


「「なっ!?」」

「驚いてる?」

「エレンはどうしたっ!!」

「あの女なら、ここ」


 泉の中から水球が浮き上がってくる。そこには服や肌、喉の部分を溶かされて、のたうち回っている治癒術師の女性が居た。直ぐに骨まで溶かされていく。


「「エレンっ!!」」

「ふがぁぁぁっ!?」

「ふふふ、これが人間の身体……構成物質は水が大半……いい事が判明した」


 それと同時にシズクの身体が治癒術師の女性と同じになっていく。そして、完全に消化される時にはハリボテではなく、人間の身体を模倣した存在となっていた。


「くそっ、リコリスだけでも助けるぞ!! リコリス、痛いのは我慢しろよ! 後で治してやるから!!」


 頷くリコリスと呼ばれたドワーフの少女。


「喰らえ、サンダーボルト!!」

「愚か」


 小さな雷が何本もシズクに向かっていく。しかし、治癒術師の女性を完全に溶かした水球からいくつもの水弾が発射されて、雷を全て防いだ。本来は雷などシズクにとって防ぐ必要も無くノーダメージなのだが、傷つける訳にはいかない存在がいる為、迎撃を行った。


「このっ、リコリスを離せっ!!」


 そして、その間に接近した戦士がシズクを斬ろうとする。シズクは憎悪の篭った瞳で見た後、軽く手を振るおうとする。だが、その直前に白い尻尾によって、男は弾き飛ばされた。


「ハクア、余計な事を……」

「(馬鹿か、お主は……殺す気じゃったじゃろ)」

「……ごめん、助かった」

「(うむ)」


 憎悪のあまり、身体中を串刺しにしようとしていた。ハクアが戦士を弾き飛ばしていなければ、そうなっていただろう。


「だっ、大丈夫かっ!!」

「へっ、平気だっ……それより……」

「ああ。リコリス、すまんっ!」


 シズクの傍にいつの間にか現れて控えて居る白い大蛇を見て、2人は懐から煙玉と閃光玉を取り出して、地面に叩きつける。閃光と煙によって、シズク達の視界が塞がれた。


「ぐぁっ!?」

「ぐぅっ!!」


 シズクは自身とハクアの周りに水の防壁を生み出して時を待つ。そして、煙が晴れて冒険者が居た場所を見ると、誰もいなかった。ただ、杖と剣が残されているだけだ。


「わざと逃がしたようだけど、首尾は?」

「にゃあ(万事抜かりなし)」


 クロネからリンが出てきて、シズクの中に入る。そして、少しして出てきた。


「ちゃんとお母様の命令通りなの」

「シャー(なら、帰るぞ。我の出番はなかったが、別に構わんしの)」

「……じゃあ、それ、持って帰ってお母様に渡してあげて」

「……しゃしゃー(良いのか?)」

「お願い」

「しゃあ!(心得た)」


 ハクアは剣と杖、斧と治癒術師の杖を舌を使って回収し、石化させた後、飲み込んだ。


「喜べ、この女のように生きたまま溶かすか、アイツ等のようにしてやりたいが、お前はお父様へのプレゼントだ。だから、お前がお父様の奴隷として夜伽などでお父様を楽しませる限り、殺さないでいてやる。だが、お父様が飽きたら覚悟する事だ。手足を指から順にゆっくりと溶かした後、苗床にして、たっぷりモンスターを産ませた後、飽きたら精神を戻して溶かしてやる」

「ふぐぅっ!?!」

「わかった?」


 狂気にそまった真紅の瞳をしながら、心臓の弱い物は即座に死亡するほどの殺気を放たれ、真っ青になって、頭をこくこくと何度も振るドワーフの少女、リコリス。少女はあまりの怖さに失禁していた。


「さて、帰るか」

「ねえ、シズク」

「なんだ、リン?」

「その格好で帰るの? いいけど、お母様に睨まれても知らないよ?」

「……」


 シズクは自分の身体を見る。治癒術師の女の身体は肉体としてかなり成長していた。身長も高く、胸も大きい。改めて感じると、自分の身体に嫌悪感を感じながら必死に我慢して接してくるリアの姿が脳裏に浮かんだ。キリルの時ですらそうなのだ。これはまずい。少なくとも、リクトへのプレゼントをどちらにするかという選択をした時、ドワーフの少女を選んだのはリア自身に近いからだ。それは理解しているシズクは考える。リアには悪いが、自分だってリクトに構ってもらいたい。


「お前でいい……そうする……」

「っ!?」

「ちょっと姿を貰う」

「ふぐぅうううううううぅぅぅぅっ!!」


 シズクはリコリスを水で取り込み、身体の中も精査する。溶かす事は治癒術師の身体で理解しているので必要無い為、問題は無い。割合を理解する為だからだ。


「こんな感じかな?」

「にゃあ、にゃあ(それじゃあ、全く一緒)」


 瓜二つの少女が出現していた。その過程でリコリスは裸にされていた。シズク自身も裸だ。


「しゃー(髪の色を変える)」

「長さも変えればいいんじゃない?」

「瞳も変えるか。この子、アクアブルーだし……よし、これでいいか」

「いいんじゃないかなー」

「にゃあ(合格)」

「しゃー(うむうむ)」


 リコリス本人は自分にそっくりの少女の出現に恐怖していた。今のシズクの格好は横に伸ばしているツインテールでなく、アクアブルーの髪の毛をミディアムな感じで肩まで流している。肌は青色から白色にし、水死体のような肌の色を調整する。リコリスがエレンを非常に心配した理由は肌の色にあった。


「服は溶かした奴を水で再現すればいいか。こんな感じ?」


 シズクはエレンの鞄の中に入っていた物を溶かして情報を収集した中から、服を選んで自分に適応させた。その為、結構いい加減で、作られており、肩紐だけで止めているブカブカの白いワンピースとなった。胸元や肩紐、スカート部分にはフリルがあしらわれている可愛らしい物を選んでいた。だが、ブカブカのため、上から見れば高確率で胸が丸見えであり、下も履いていない。


「いいと思うですよ~。でも、他のはどうするのです?」

「他の服は面倒だし、これでいい」

「退却する」

「にゃあ」

「は~い」

「しゃー」


 各自、泉の中に入って、水の精霊に包まれて移動する。これによって、酸素を与えられて運ばれるのだ。ちなみに、空気を殆ど与えられていなかったリコリスは酸欠で気を失っていたので、そのまま拉致して行った。








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