01ダンジョンを作ったら病弱幼女が助けを求めてきた
息抜きがてらの不定期更新です
【現代】
ダンジョンクリエイターというゲームが発売された。これはプレイヤーがダンジョンクリエイターとなってダンジョンを作成し、冒険者や他のダンジョンクリエイターが送り込んでくる尖兵を倒していくゲームだ。この尖兵にはダンジョンクリエイター自身もなれる。
種族もエルフから始まり多種多様に存在するが、基本的には人間が多い。
ちなみにこのゲームは限定200本だけの販売で俺はなんとか
手に入れる事が出来た。そもそも、まともな宣伝もせずに適当にネットサーフィンをしていると見つかるという奴で、値段は666円というリーズナブル価格だ。そんなわけで購入した。
すると、次の日にはゲームが届いたので、早速だがPCにインストールする。すると、画面が真っ暗になって手がニョキっと現れて俺を掴んで画面の中に引きずり込んだのだ。
【DCルーム】
恐怖体験をした後、目を開けるとそこは3メートル×3メートル×3メートルの部屋で、フローリングの床にベッドが置かれ、その近くにはパソコンデスクがあり、少し遠くにはテーブルもある。周りに散らかっている荷物も全て見覚えがある。そう、俺の部屋だ。もちろん、クローゼットも本棚もある。
「なんだったんだ?」
周りを見回しても変化は無い。取りあえず、画面を見ると新たに文章が現れて居た。
【ようこそおこしくださいました。これより、貴方はダンジョンクリエイターとしてダンジョンを作成し、この世界で自由に過ごして頂きます。先ずはカーテンをお開きください】
不思議がりながらもカーテンを開いて窓を覗くと、そこには何もなかった。外に出ようと扉を開けるとそこにも闇が広がって居るだけで何もない。
「どうなってんだよ!」
ひとしきり騒いだ後、携帯で連絡を取ろうとするが圏外だった。仕方なしにパソコンに向かうと、そこには新たな文章が表示されていた。
【ご理解頂けたようなので次に移ります。先ずはダンジョンの設置位置をグランベールの世界よりお選びください。これはゲームではありません。死亡すると実際にお亡くなりになります。また、冒険者などに殺されると、魂に至るまで全てをダンジョンに吸収されます。ダンジョンクリエイターに殺されると、相手のダンジョンクリエイターに隷属する事となります】
そして、表示されたのは広大な世界地図だ。検索エンジンも搭載されているようで、調べる事もできるようだ。しかし、本気でやらないと無茶苦茶危険なのは理解出来る。生き残るのにはどうするか……先ずは世界を調べるより、ダンジョンについて調べよう。
ダンジョンについて調べると、判明したことは簡単だった。まず、ダンジョンを作成するに当たり、他のダンジョンが無い場所でなくてはいけない。街などの場所に作る場合は地下となる。そして、元からあるものを利用して作るとコストが安くなるといった事だ。ただ、元からあるものを利用して作る場合はその元になった物の影響を受けるようだ。
さて、ここでダンジョンといえば思い出すのは色々とある。DDや世界樹などだ。それを思い出して、一つ探して見る事にした。検索条件に世界樹と打ってみると、8件ヒットした。だが、迷宮化はしていない。試しに決定を押す。
【対象の力が強すぎ、世界樹に接続を拒否されました】
仕方無いので世界樹は諦める。精霊樹はどうだろうかと検索してみると2件ヒットした。1件は拒否された。もう1件の方にもダメ元で出してみる。
【対象よりコンタクトを確認しました。交渉を行いたいそうですが、交渉を行いますか?】
あちらに意思があるのか。しかし、ここは交渉を許可する。すると、PC画面にくすんだ緑色をしたボロボロでガリガリの栄養不足の幼い少女が映し出された。
『……はじめまして……』
「は、はじめまして」
『……私は……ゴホッゴホッ……この、精霊樹の、管理者……です……』
「俺は山神陸斗。異世界からダンジョンクリエイターとしてこの世界に拉致されたんだが、精霊樹をダンジョンに使いたいんだが……いいか?」
『……条件……次第……です……ごふっ』
画面の向こうで咳き込んだ後に血を吐く少女。
「大丈夫か?」
『……大丈夫……じゃないです……私の身体は……どんどん、蝕まれ……余命……72日です……』
本当に死にかけだな。
『……精霊樹を……ダンジョンに……ごふっ! す、る……条件は……病原体と、に、憎い……憎い……憎い人間を排除、する事、です』
「お、俺も人間だけど……」
『……精霊、狩りを……行って、いる……奴ら……復讐……それで、いい、です……』
「わかった。それでいいよ。詳しく教えてくれ」
本当に可哀想になってきた。内容として理解できたのは、人間……人類と呼ばれる連中が精霊を捕獲する為に精霊樹に毒を入れて弱らせ、どんどん精霊を捕らえていったそうだ。大きな精霊樹がある森だったが、現在では素材として伐採されて小さな木々を残す森となっているそうだ。それすらも汚染されていて、普通の精霊は寄り付かない為、精霊が多ければ多いほど力を発揮し、また精霊を生み出す事の出来る精霊樹にとって、このままでは死ぬらしい。72日とあるが、これもダンジョンにした場合のリミットで、病原菌を排除しないと死ぬらしい。その場合はダンジョンもろともという事はないが、しょぼくなるらしい。その病原菌を倒す方法もちゃんと用意してくれるそうだ。
『……助けて、くれたら、契約、従う……新たに、産んだ、眷属、皆も……』
「じゃあ、契約しよう」
『ありが、とう』
契約を完了すると、新たに文章が出て来た。
【契約が完了しました。これより、ダンジョンを生成する準備に入ります】
そして、直ぐに地震の様な振動が起きて、俺の部屋の場所が変わった。窓からは暗い泉が見える。周り全体が暗いのだ。緊急時の懐中電灯を出して、外に出て見る。そこは綺麗な地底湖だった。振り返ると、大きな木に埋め込まれたような部屋がある。そこは先程まで居た部屋だ。
「……よく、来て、くれた……」
声に後ろを振り向くと、木から先程の幼女が現れて、落ちてきた。俺は慌てて近づいて抱き止める。幼女は荒い呼吸を繰り返しながら、地底湖を指差す。
「……じょ、う、か……し、て……」
「どうやるんだ?」
「……だ、ダンジョ、ン……き、のう……」
声に従って幼女を部屋に運び入れる。そして、ベッドに寝かせて改めて考える。やはり、怪しいのはパソコンなので画面を見ると、次の指示が書かれていた。
【精霊樹を元にしたダンジョンにDCルームを作成しました。あなた様に与えられる初期のCPは10000CPから精霊樹にダンジョンを作成した分を引いた8842CPです。CPを使ってダンジョンを作成してください】
取りあえず、言われた通りに浄化装置を検索して探す。すると、あった。500CPからあるが、地底湖の規模を考えて5000CPも掛かる大型の浄化装置を買うしかない。これを購入する。すると、PC画面に配置画面が出たので地底湖に設定する。すると、地底湖に祭壇の様な物が作られて、水を浄化していく。
地底湖のデータは汚染度99%からどんどん綺麗になっていく。というか、地底湖の水は猛毒だった。致死率99.9999%というふざけた値だった。
「って、しまった!」
俺は慌てて貯水装置を1000CPで購入して、致死率99.9999%という毒を浄化される前に吸い取って貯めておく。これは後々使えるだろうし、置いておいて損は無い。ちなみに貯水装置はかなり大きいが、この空間自体が結構広いので問題なかった。
「しかし、こんな毒を飲み続けたら、精霊樹とかいう大層な物でもそりゃこうなるか」
苦しそうに寝ている幼女を見ながら、そう思う。というか、ダンジョン以外の事で6000CPも使ったから2842CPしかない。だが、ダンジョンを作るよりまずしなくてはならない事がある。それは……畑を作る事だ。少なくとも食料は大事だろう。という訳で、500CPで畑を購入し、42CPで野菜の種と鍋を購入する。この部屋には非常食として、ダンボールに入った数々のカップラーメンやカップ焼きそばなどが多数収納してあるのでしばらくは湯さえ沸かせれば問題無い。という訳で、ライターと枯れ木を使って火を起こして水を沸騰させてご飯を食べた後、パソコンを調べる。
このダンジョンは精霊樹なだけあって、精霊のコストが非常に安いのだが、どれも生産不能とされている。精霊の他に安いのは虫系だ。この精霊樹、虫食い状態のようだ。
スキルを購入したりも出来るようで、いいスキルは結構な値段がする。
「……おは、よう……」
「ああ、おはよう」
気がついたら結構な時間が経っていたようで、幼女が起きてきた。
「さて、これからどうするか相談といこうか」
「ん、わかった。やる事、簡単。病原菌、私の、中に入って、倒す」
幼女がこちらに来ようとするので近づいてやると、キスしてきた。そして、直ぐに幼女が軽く手を振ると俺の視界に巨大な大樹の映像が映し出された。その大樹には無数の赤い光が存在する。
「まさか、これが全部病原菌か?」
「……こくん」
申し訳なさそうに頷く幼女。先程のキスすら、吹き飛ばす内容だ。軽く見ても数百は存在する。
「……こい、つら、モンスター……」
次に映し出されたのは、虫系のモンスターが精霊樹に噛み付いて齧って食べている姿だった。
「……先ず……ダンジョン……作る……それで、ある、程度、防げる……」
「そうだな。ただ、2300CPしか無いぞ」
「……1500で、平気……貸して……」
「ああ」
幼女を抱き上げて、膝の上に乗せる。すると、画面に小さな手で触れる。その直後、表示されていたCPがきっかり1500分消えて、新たに地下の根の虫食い部分全てがもろくなっていた樹皮でなく、鉱石のような硬い樹皮になり、映像に写っていた虫のモンスターが噛み付いてもビクともしなくなった。
「……これで、根は、平気……」
「そうか。それと問題があるんだが……」
「?」
「俺は戦った事が無いぞ」
「……モンスター呼ぶ……これ」
幼女が指定したモンスターはイモムシの様な存在だった。ステータスはかなり弱い。HPとMPが100で、攻撃力が5、防御力が5という弱すぎるステータスだった。召喚に必要なCPは10と最弱の値だった。
「平気か?」
「……へい、き……あと、これ、要る……」
次に幼女が指差したのは、設備の分類に入る合成魔法陣だ。必要CPは500でこれを購入した。残り290CP。残りで大型の救急箱を10CPで購入。ショートソードと和弓を合計200CPで購入。50CPで矢を500本入り矢筒を購入。そして、残り30CPとなった。これだけ残しても意味が無いから、全部矢に変えてしまう。これで矢は800本となった。
「ここ」
外に出て、指定された場所に合成魔法陣を設置する。そして、横には召喚魔法陣を用意する。その後、指定されたイモムシ……クローラーを呼び出す準備をする。
「……生贄、居た……」
「そんなの無いぞ?」
「……物で……良い……それに、する……」
幼女は部屋に戻って持ってきたのはフィギュアだった。クレーンゲームで手に入れて放置した奴なので問題はない。
「……後、それも、使う……」
「マジか……」
「?」
「いや、もう好きにして」
「ん、わかった」
そして、ショートソードも取られた。そして、ショートソードとフィギュアを生贄にして、50センチくらい長さがあるイモムシが召喚された。大人しく魔法陣の上に居るイモムシに幼女が近づいて、抱きつく。
「……んしょ、んしょ……ふぅ……」
そして、抱え上げて隣の合成魔法陣に移した。
「ふぅーっ、ふぅーっ、やる。あがぁぁあああああああああぁぁぁっっ!!」
そして、幼女は自分の片方の目に指を突き入れて眼球を引き抜いた。あまりの事に俺は一瞬停止してしまった。
「おい何してんだ!!」
「……平気……あぐぅうううううううううぅぅぅぅっ!!」
そして、止めようとするまもなく、自分の片腕を魔法か何かで切り落とした。合成魔法陣の上に幼女の血が降りかかる。それは乗っているイモムシも例外じゃない。
「平気じゃないだろうが!」
俺は幼女を抱えて魔法陣の上から降ろして、救急箱から包帯を取り出して止血する。
「……平気……止まった……」
確かに血は既に止まっていた。だが、痛々しい姿はそのままだ。取りあえず、包帯で片目と腕を縛っておく。顔に流れた血も拭おうとすると、待ったがかかった。
「……舐めて……勿体無い……」
「ちょ……」
「加護、つく。戦う、力」
仕方無いので言われた通りに目から垂れた血を舐めとる。血の味なんてせず、極上の美酒のような味だった。そして、身体が軽くなった気がする。
「……腕、瞳、クローラー、合成……」
そして、俺が驚いている間に合成を行った。光り輝く魔法陣の光量がどんどん上がり、眩しいフラッシュを上げた後、先程とは殆ど変わっていないイモムシが居た。
「どこか変わったのか?」
「……ステー、タス、見る……」
「わかった」
部屋のパソコンから、配下ステータスという項目を選択すると、種族がクローラーから精霊虫へと変化していた。HPが500、MPが600で、攻撃力が10、防御力が10に上がり、捕食というスキルと???というスキルを手に入れていた。捕食はなんでも食べて力を得るようになるスキルだ。???に関しては一切わからない。まあ、気にしなくても良いだろう。
「……りくと、お兄ちゃん……一緒に……寝る……」
「そういえば、ベッドは一つしかないか……」
グラッとくる言葉が聞こえて振り向くと、精霊虫を愛おしそうに片手で抱っこしている幼女が居た。その幼女はそのままベッドへと入る。
「そういえば、名前はあるのか?」
「……管理者……それだけ……」
「なら、今日からリアだ」
「……リ、ア……わかっ、た……今日、から、リア……この子も……リアと、りくと、お兄ちゃんの、こども……」
「おい……」
「?」
不思議そうに首をかしげるリアに、俺は諦めて名前をつける。名前は消えたフィギュアとリアの名前からも取って、アイディリアという名前に決めた。後は、そのままベッドで眠った。ちなみに順番は俺、リア、アイディリアだ。