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完全ノープラン宣言  作者: 想多メロン
究極の選択
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これからのこと

日曜日。場所は飲茶家飯盗。


最上川を呼び出した。

ま、当然天井川も付いてきた。

香子ちゃんもいる。

そして、全てを話した。


「頑張っているな。千丈川は。僕はそういうところが好きなんだ」

「先輩、私、感動してしまいました」


二人はまたもやすんなり受け入れてくれた。


「いつもありがとうな。本当にありがたいよ」


「で、どうするんだい?」

「どうするって、何を?」


「薫子さんへの朗読。続けるのかい?」

「やめるわけにはいかないだろう……」


正直、反応はあるものの、その後全く進展はない。

毎回、心を込めて朗読しているが、薫子さんが目を覚ますことはない。


「他に方法があるならな……。はぁ……」

思わずため息が漏れる。


「私に提案があるのですが……」

香子ちゃんが言った。


「何でしょう?」


「私が薫子さんの空間に移動して、彼女が今いる空間から追い出すのです」


「そんなことができるのかい?」

最上川が言った。


「わかりません。しかし、私の演じる空間と、亡くなった方の魂が行き着く空間との間くらいに昏睡状態の空間はあると思います」


「そうなんだ……」

そもそも理解できるわけがないので鵜呑みにするしかない。


「先日、看護師さんとも相談させて頂いたのですが、病院の霊安室で待機し、空間へ向かう魂と交信することで、途中まで連れていって頂こうかと……」


「それで行けるの? 行ってからは?」

「無事に行けるかどうかはわかりません。行ってから薫子さんを追い出して目を覚ますかどうかもわかりません。でも、試してみたいのです」


真剣な表情でそう言った。


「試すって言っても……。俺たちが手伝えそうなことは?」

聞いてみた。

「執筆を……、今書いている小説を終わらせます」


「なぜ?」

「さっき言ったことをを実行したら、元の空間に戻れるかどうかわかりません。恐らく戻れないかと」


「それじゃ、香子さん、いなくなっちゃうってこと!? そんなのダメだよ! いなくなっちゃイヤだよ!」

天井川が叫んだ。


「他に方法がないのであれば、仕方がありません。それから小説の方も、千丈川が無理に延ばしている状態で、ストーリー的にも無理が生じてきています。新しい展開も限界まで出し尽くした状態です。これ以上は無理です。私には渡して頂いていませんが、既に最終話は完成していますし、既に演じています」


……気づいていたのか……


「どっちにしろ、執筆が終われば私はここに現れることはないと思います。私は、この小説のために生まれてきたのですから」


「大丈夫だって! もっと面白い展開を考えるからさ!」

思わず言った。


「お気持ちは嬉しいですが、いずれ訪れることです。私は千丈川に産んで頂き、本当に楽しい生活を送りました。また、最上川さんや天井川さん、そしてマスターといった優しい方々との出会いもあり本当に幸せでした。小説もハッピーエンドで終われそうです。もう何も……」


「いやだ! 俺は香子ちゃんと離れたくない!」


「私もそうですよ。千丈川さん」

そう言って微笑んだ。


その時、店に誰かが入ってきた。

「お待たせ、約束通り迎えにきたよ」

そう言ったのは、あの看護師だった。


「では、行ってきます」

そう言って、香子ちゃんは立ち上がった。


「待ってよ! 今から?」

「ええ、これ以上一緒にいても辛いだけですから」


呆気にとられていると、香子ちゃんは微笑みながら言った。

「もし、もう一度お会いすることができたなら、またメロンソーダを飲みたいです。」


「それから……。千丈川さん、大切なものを隠すときは、たまには場所を変えた方がいいかもしれませんよ」


そして彼女は看護師と店を出た。


「ちょっと!」

追いかけようとした俺の腕を最上川が掴んだ。


「何する!? 離せよ!」

「いや、離さないよ。香子ちゃんのためにもね」

真剣な表情で最上川が俺を見ている。


「でも、香子ちゃんが……」

涙が溢れてくる、頭は真っ白なのに……。


「その全部を彼女は一人で覚悟したんだよ……」


「でも、でも……」


……その後のことは覚えていない。

生まれてからこんなに泣いたことがないと言うくらい泣いた。

最上川はずっと俺のそばにいてくれていた気がする。


気がついたら自分の部屋のベッドにいた。


もう会えないのかな……。

仕事はとりあえず休むことにした。


書いていた小説の原稿は一枚もなかった。

最終話を隠していた場所を確認すると、小さな箱が。


開けてみると、そこにはジュエリーショップで買った指輪と、店の人にもらったネックレスとピアスが入っていた。

あの時もらった写真とCDロムはなかった。


ポケットの万年筆を取り出す。

キャップを抜くと、いつもの甘い香り……。

ただ、彼女が現れることはなかった。


「元に戻っただけさ……」

そう呟いて立ち上がった。

コーヒーでも飲もう。


「きっと帰ってくるさ……」


自分にそう言い聞かせた。


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