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完全ノープラン宣言  作者: 想多メロン
薫子さん
42/51

芥川

「ちょっと話があるんだけど時間とれるかな?」

最上川から電話が来た。


「いいけど、どうした?」

「うん、ちょっといろいろ話したいことがあってね」


「仕事終わってから飲茶家飯盗でいい?」

「八時ってところ?」


「OKじゃ、その時間にまた」


最上川から連絡がある時は、いつも交際が終わったときだ。

ただ、天井川は今日も元気だし、それはありえないかな。


念の為に家の留守電話に遅くなることを連絡しておいた。


何しろ我が家の香子ちゃんは、携帯電話を持たせても、空間が違えば当然圏外だし(試したこと無いけど)、こうやって連絡を取るしか方法がない。


「これでよし」

と携帯電話を胸ポケットに戻そうとすると……。


「あれ?」

今日、何故か万年筆持ってきてるわ、何で?


よくわからないけど、朝バタバタしてて、思わす持ってきてしまったのだろうな。


まあいいや、ちょうどいい。久しぶりに一緒に外食も楽しいし。


「お前も行くのか?」

天井川に聞いた。


「どこへですか?」

「いや、さっき最上川から電話があって、今日の夜会うんだけど」


「あ、そうなんですね。一緒に行っていい用件なら、流石るいさんから連絡あると思います。ですから連絡無かったら行きません」


……! ちょっと待て! 何か違和感あったぞ、今!


「今、ちょっと違和感のある響きを感じたんだが……」

「何でしょう? あ、私が彼のことを名前で呼んだからですかね」


「いつから?」

「ええと、つい最近です。私ってつきあってしばらくしてから彼の名前を知ったんですよ。それもどうかと思いますよね?」


「どうして?」

「え、だって……、流石さんだし……」

ちょっと赤くなったけど、落ち着いた表情。

素晴らしくここ数ヶ月で成長したな、天井川! 先輩はうれしいぞ!


「じゃ、連絡来たら言ってよ、一緒に行こう」

「了解しました。あ、香子さんは来られるんですか?」


「どうだろう……」


「久しぶりに会いたいな。ここしばらく会っていませんから」

「うん、忙しいみたいだよ」


ま、今聞こえているかどうかわからないけど、とりあえず出てきたかったら出てくるでしょう。


そうこうしている内に終業時間。


「天井川? 連絡来た?」

「ええ、あんまり楽しくないかもしれないけど、来る? って言われました」


「で、どうする?」

「会社を出たときの気分で決めます」

「何だそりゃ」


とりあえず、会社を出た。

すると、そこには香子ちゃんが。


「こんばんは、天井川さん。お久しぶりです」

「先輩! 私、行きます」


ま、そうなるでしょうね。


こうして三人で店に向かうことになった。


店に着くと、最上川はテーブル席に座っていた。

他にも一名座っている。


「天井川さん、五人は座れないわ。私たちはカウンターに行きましょう」

「いいわね、プチ女子会ってわけね」


あはは、"女子力"、"女子会"って言葉がどうも好きになれない俺は苦笑い。


この二つの言葉を頻繁に口にする女性で魅力を感じる人がいた試しがない。偏見だろうか。


俺は、最上川の座っているテーブル席に座った。


「今日は彼を連れてきたんだよ。ゆっくり話をしようと思ってね」

その男は、見るからにチャラチャラした金持ちそうな男だった。


「初めまして、千丈川です」

「あ~こっちこそ。俺、芥川っての。よろしくぅ~」


……芥川!


最上川を見ると、不適に笑っている。

芥川は全く気にする様子もなくカクテルを飲んでいた。


怖くて振り向けないが、カウンターからは凍り付くようなオーラが発せられているのが十分感じられる。


芥川は羽のピアスを左手でいじりながら、俺を品定めするような目で見ている。


「でさ、最上川君、今日は何だっけ? 俺もいろいろ忙しいんでね」

「ああ、すまない。君はボランティアリーダーやってるよね? 僕の仕事の都合で、その辺のことを詳しく教えて欲しいんだよ」


「何話せばいいの?」

「じゃ、僕が質問する形式で進めて構わない?」


「あ、別にいいけど」

「まずは、今の活動する動機は?」


「ああ、俺さぁ、困っている人見ると放っておけないってか、そういう性格でさぁ」


……なにぬかしてやがる!

最上川に目を向けると、俺に小さくうなずいた。


「あ、それと親父の勧めってこともあったかな。俺の親父さ、"芥川商会"の社長だったりするのね。知っているでしょ?」


"芥川商会"……そこそこ大手だな。


「で、俺はそこの次期社長ってわけ。で、社長業に携わる前に、見聞を広げてこいって話になってさ」


あ~あ、社長、思い切り裏目に出ていますよ。こいつの場合。

「ということは、現在仕事は?」

「あ、してないよ。毎月生活費は自動的に振り込まれているし、大体ボランティアだから基本収入ないしね」


「一番最近行ったボランティア先は?」

「どこだっけな。ここ一年くらいは行っていないかな。最近ダーツにハマっていてさ、店の人も来てくれってうるさいから」


……まあ、いいカモなんだろうな。


「で、家ではネットかな。これで次のボランティア先決めてるところもあるし」


「では、最後に行ったのは?」


「ああ、山奥だったな。あそこは年寄りばっかりで大変だったな」

「具体的に、どんな活動を?」


「ま、簡単に言うと復旧の手伝いだな。年寄りばっかりだったから、俺が指揮しないとどうにもならない状況でさぁ。しかも携帯も繋がらないし、苦労したよ」


「では、外部との連絡は?」

「普通の電話は通じるよ。あと集会所に一台パソコンがあって、これがケーブルに繋がってるから、それで連絡したりしてたな」


「何か思いでは?」

「特にないな。他のボランティアのねーちゃんとかも来てたけど、みんな愛想なくってさ。俺は先に帰ってきたけど、今どうしてんのかな」


「では、復旧が完了してないのに帰ってきたと?」

「まあね、あんなところ、そう長い間いれないよ。まだ何人か残っていたみたいだから、何とかなったんじゃない?」


……こいつ、許せねぇ!

カウンターを見ると、天井川が鞄の中を確認している。

覇王か? 埴輪覇王はにわはおうか?


「葛川さんって人はご存知ですか?」

「ん? 聞いたことあるな。ああ、さっき言った場所にいた女だな。あいつも愛想のないやつだったな。もしかして知り合い?」

「ええ、彼が」

「あっそ。でも俺、彼女のことはその後知らないよ。ブログの更新も止まっているし」

「当初、熱心にコメントを入れていましたよね?」

「ああ、そうだっけ? 前のことなんで忘れたな」

……明らかに動揺してるな。


「彼女に対する誹謗中傷の書き込みがあったことは?」

「知らないよ! 俺はあの女とは関係ないんだからな!」


「そうですか。わかりました。どうもありがとう。時間取らせて悪かったね」

最上川はにこやかに微笑んでそう言った。


「いやぁ、別にいいよ。俺、こういうの慣れているし。やっぱ選ばれた存在っていうのかなぁ。じゃ、また機会があれば」


そう言って、芥川は立ち上がった。

店内をしばらくキョロキョロして、一瞬にやりと笑った。


そして、香子ちゃんの横へ立った。

「ねぇ、彼女。一緒に遊びに行かない?」

「どなたですか?」

「あ、俺、芥川っての。芥川商会の。知ってるでしょ?」

「芥川商会は、存じ上げております。ですが、貴方と遊びには行きません」


「ええ~、まあそう言わないでさぁ~。あ、これ、今日の出会いの記念に君にプレゼントするよ。」

そう言って、左手で耳のピアスを小さく振った。


「頂けるのですね。ではそのピアスはどうしようと私の自由ということですか?」

「もっちろんだよぉ~。君には似合うと思うよぉ~」


その瞬間、"パンッ!"という音が店内に響いた。

芥川の頭から細かくバラバラになった羽が振ってきている。


「何?……あれ?」

ピアスは金具だけになっていた。


速くてよく見えなかったが、香子ちゃんの右ジャブが羽を砕いたようだ。


「それが私の答えです。あまりしつこいと、狙いをもう少し右側に修正しますよ」


「ケッ!なんだよぉ、下手に出れば調子に乗りやがって! やってられねぇ!」


そう言って、芥川は店を後にした。

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