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完全ノープラン宣言  作者: 想多メロン
会いに行く
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決心

月曜日、いつものように仕事へ。

ただ仕事中もたたらの話が頭から離れなかった。


「今度の休み、出かけてみるか」

ネットで集めることができる情報は大体掴んだはず。

後は実際に行動するのみ。


「先輩! パソコンの中で寝てますよ」

天井川の声で我に帰った。

思い切り考えごとしていたようだ。


パソコンの画面を見ると、"zzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz"

キーを押しっぱなしにしていたようだ。

「ああ、すまん、ちょっと考え事をしてた」


「大丈夫ですかぁ? 日頃にも増してぼーっとしてましたよ」

……本当にムカつくことを言うな、こいつ。


「あ、そうそう、先輩って今人探しをされているんですよね?」

「ん? なんでそんなこと知っているんだ?」


「昨日の夕方、香子ちゃんとお茶したんですよ。その時に。」

「どの位知ってるの?」


「詳しいことは聞いていませんけど、一年くらい音信不通になっていて、すごく心配している友人がいる、って辺りまで」

「そうか、まあそういうことだ。」


「手がかりはあるんですか?」

「残念ながら」

俺の両手は萎れたアサガオの葉っぱ。


「だから直接行ってみようと思ってな」

「どこへですか?」

「彼女の家に」

「いきなりですか? 先に電話とかしておいたほうが……」

「電話にはいつかけても誰も出ないんでね」

「それって留守じゃないですか。留守の家に行っても手がかりなんて……」


「分かっているけど取り敢えずこのままでは話にならないから、行ってから考えるよ」

「そんなノープランでうまくいくのかしら」


確かに天井川の言うとおりだ。

いきなり行ってどうする? 誰もいない彼女の実家を眺めて帰ってきたって全く意味が無い。

もう少し作戦をなる必要がある。

「本当だね。ちょっと暴走気味かもしれない」


「私にもお手伝いさせてもらえますか?」

天井川が言った。

「え、いいよ。天井川だって忙しいんだし」

「でも、借りを返すいいチャンスだなって思って」

「何かあったっけ?」

「私の中では『借り』だと思っていることがありますから」


全く見当付かないが、感謝してくれているのであれば嬉しことだ。


「たださ、気持ちは嬉しいんだけど、正直、何を手伝ってもらったらいいかもわからない状態なんだよね。手伝ってもらうのは、それが決まってからまた声をかけるよ」


「いつでもOKですよ」

「了解、心強いよ」


そんなわけで、月曜日は殆ど仕事をした実感なく終わった。

勿論、無意識の内にやることは済ませていて自分でもちょっと驚いた。


帰宅したら、香子ちゃんが晩ご飯を作ってくれていた。

ここの所、俺の執筆が進んでいないので、時間があるのだろう。

悲喜こもごもといったところか。


「私、思ったのですが……」

香子ちゃんが口にした。

「ん?」

「葛川さんって分野で言うと、福祉の仕事をされていたのですよね? だったら最上川さんに一度聞いてみるのはどうかと」

なるほど……そう言われてみればそうだ。福祉関係だけじゃなく、やったらあちこちに顔が広い。一度聞いてみるか。


俺はすぐに電話した。

「珍しいね、君から電話って。食事のお誘い?」

あ、それもいいな。でも、今日は香子ちゃん食事作ってくれているしな。

「いや、聞きたいことが合ってさ、お前だったら顔広いからさ」


「何だろ? 分かることなら何でも教えるけど」

「今さ、"葛川 薫子"って人を探しているんだ」

「え?フリーライターの?」

「知ってんの!?」

「まあ、普通くらいには」

俺が物を知らないのか、最上川が詳しいのかわからないけど、ヤツはいともあっさりとそう答えた。


「あ、確かに一年くらい前から話聞かないな。僕達と同い年位の人だよね?」

こいつ、めっちゃくちゃ詳しいな。

「そう、俺の幼稚園の時の同級生だったんだ」

「で、なんでまた彼女を探しているの?」

「話せばちょっと長くなるんだけど……」


「千丈川さん、最上川さんに来て頂いたらどうでしょうか。夕食たくさん作りましたし。最近商店街の八百屋さんやお肉屋さんへ行くと、お願いした量の5倍くらいおまけして頂けるのです。スーパーより断然安いですよ」

おお!商店街のオッサン連中を根こそぎ魅了したのね、でかした! 香子ちゃん。


「あのさ、こっち来る? 飯もあるけど……」

「うん、そういうと思ったよ。今、アパートの下、テンも一緒だよ」


何という……。「ピンポ~~ン!」


こうして、四人で夕食&事情説明となった。


「何か、私個人としては、その『芥川』が全部悪いような気がする」

「あはは、テンは勧善懲悪だしね。僕も少し気になったから、その『芥川』を調べてみるかな」


「最上川、恩に着るよ。俺はやっぱり一度葛川さんの実家に行ってみる。週末になると思うけど」

「別に感謝されるほどのことでもないよ。まあ、君の話を聞いて、ちょっと思うところがあってね。ボランティアリーダーっていろんなのがいるからね」

まあ、最上川だから知っている裏側なのだろう、俺には知らないことを沢山知っているんだろうな。


「何か一気に心強くなってきたな、ねぇ香子ちゃん?」

「はい! 解決するかもしれませんね。楽しみです」


「それにしても、香子さんの料理……いつ食べても美味しいですねぇ。羨ましい」

「お口に合って良かったです。沢山食べてくださいね」


「いいねぇ、君たちは……。テン、俺達も一緒に住もうか?」

……このタイミングでそう来るのか!?

天井川が完全に固まっている。そりゃそうだろうな。全くのノーガードの顎を完全にストレートで撃ちぬかれたみたいになって、今頭の中が真っ白なんだろう。


「ななななな……、何を……」

「あ、唐突だった? 僕は前から思っていたんだけど。嫌だった?」

「いいいいいい……嫌とかかか……」


いつも俺に悪態を付くこいつが動揺する姿は正直溜飲の下がる思いだが、今回はさすがに彼女が気の毒になってきた。

上司としてこのまま止めないと、明日の仕事に支障をきたしそうだ。


「最上川! 勘弁してやってくれ!」


隣で天井川が子犬のような目で俺を見て、コクッコクッと頷いている。

ナイスフォローだったようだ。


「あ、そうか。テン、その辺打たれ弱かったね。じゃ、また改めて提案することにするよ。準備しておいてね」

何とも爽やかに爆弾を放り込むヤツだ。


その後、香子ちゃんがみんなにコーヒーを入れ、ようやく天井川は落ち着いた様子だった。


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