たたらの話
何とか香子ちゃんの拷問も終わり、二人で夕食完了。
香子ちゃんは一人で出かけていった。
こうなったら、もうちょっと調べるか。
もう一度たたらに電話。
「何よ!? なんか分かったの?」
「いや、もう少し話を聞かせてくれないか?」
「何の話よ?」
「音信不通になる直前くらいかな」
「だったら、幼稚園から話す必要があるわね」
「長くなりそうだな……」
「私と薫子の関係をなめるんじゃないわよ」
……別になめちゃいないけどね。
「で?」
そう言いながら、俺は冷蔵庫からビールを出してきた。
折角の休日だし、長い話をゆっくり聞かせてもらおうじゃないの。
話は長かったが、とても興味深い話だった。
幼稚園を卒業後、入退院を繰り返していたこと。
その間、ずっとたたらと文通をしていたこと。
彼女の優しいアドバイスがたたらの周りで評判になって、中学からは、たたらの友人まで相談にのってもらっていたこと。
たたらが複数の同級生から告られた時のこと。(これは結構どうでもいい)
通信制の高校へ行って病院で大検の資格を取ったこと。
それから無事退院できたこと。
そして念願の大学に進んだこと。
そこで出逢ったサークルで、ボランティアに参加しだしたこと。
卒業後、フリーライターとして一人で執筆していたこと。
気がついたら、十一時を回っていたが、全く気にならなかった。
彼女の逞しい生き様に、感動すら覚えた。
「最後に行った被災地でのことなんだけどさ」
「うん」
「どうもそこに問題がある人がいたみたいでね」
「問題がある人?」
「うん、薫子の性格だから、悪口とかは聞いたことないんだけど、自称ジャーナリストの男がいたのよ」
「うん」
「その場所にはボランティアリーダーとして来たみたいなんだけど、結構プライド高くて被災地のお年寄り相手に相当な傲慢ぶりを発揮していたみたいなんだよね」
「何だ?そりゃ」
「ところが、その男、口は達者なんだけど何にもしないから、現地の人から煙たがられていて。薫子に泣きついたみたいなのよ」
「葛川さんも辛い立場だな」
「更に、その男、他のボランティア団体の女の子を片っ端から口説いていたみたい」
「何の為に来ていたんだろうね」
「私もそう言ったよ……。そんなことで今度はボランティアの女の子からも泣きつかれていたみたいなの」
「葛川さん、ボランティアどころじゃないね」
「それが原因で、その場所、ボランティア団体から敬遠されるようになってきて、困ってた」
「そうそう、最後には薫子口説いたんだよ。その男」
「葛川さんは?」
「そんなの薫子が相手にするわけないじゃない、丁重にお断りしたわよ」
「そうだろうな」
「その直後かな……」
「何が?」
「突然ネットで薫子のことを誹謗中傷する掲示板が上がったのね」
「どんな?」
「薫子、ボランティアしていたけど、あの容姿でしょ? おまけに自分のブログに写真載せていたから『タレントになる為の売名行為だ』から始まって……」
「酷いな、それは」
「そう! でもネットってそういうのやたら面白がる人も多くって」
「そうか……」
「何か、薫子の見た目が話題性を呼んだらしく、ドンドン拡散していって……。私友達とかに声かけて掲示板の管理人に削除依頼とか出しまくって必死で頑張ったんだけど全然太刀打ちできる量じゃなくって……」
あの強気のたたらが泣いている……。
「そしたら、薫子が『もういいよ』って。『私は平気だから』って」
「悔しいな……」
「私もそう言ったんだけど、薫子は『そんな小さな問題、この村の問題に比べたら小さなことよ』って」
「その自称ジャーナリストが怪しいな……」
「その頃、自称ジャーナリストは、掲示板の一件については、励ましてくれったって言ってた」
「本当かな? たたら? その人の名前知っている?」
「確か、『芥川』って言ってた」
……ビンゴ!……
絶対に見つけ出して、捻り潰してやる!
「その後かな、ブログの更新も止まって、連絡も取れなくなったのは……」
「たたら、ありがとう。大体の事情は分かった。 これから俺はその件について動く。何か進展があればまた連絡するよ。」
「分かった。グスッ、連絡待っている……ありがと……それから……」
「それから?」
「あんた……グスッ、何気安く私のことを呼び捨てで呼んでいるのよ? 生意気よ!」
あ、そういうところは、そのままなのね。
帰ってきた香子ちゃんに大体の事情を話すと、今まで見たこともないような怖い顔をして、ゆびをパキパキ鳴らしていた。
ついでに、十数本の格闘技のDVDをレンタルするように命じられた……。




